継承語の能力とアイデンティティの関連性について
こんにちは。
今日はHeritage Langugae Journal (継承語ジャーナル)で読んだ記事の結果をふまえて思ったことを綴っていきたいと思います。
この記事は、筆者がオーストラリアに住む日本にルーツを持つ子供たちを対象にアンケートを集計、インタビューを行い、彼らのエスニックルーツ(自分を日本人かオーストラリア人か、それともハーフと思うか?など)と日本語能力の関連性について論じたものです。
参考文献
Oriyama, K. (2010). Heritage Language Maintenance and Japanese Identity Formation: What Role Can Schooling and Ethnic Community Contact Play?. Heritage Language Journal, 7 (2), 237-272.
研究結果
調査対象になったのは以下の3つのグループです。
1グループ
・日本コミュニティとそんなに繋がりは無い
・補習校に週一度通った経験がある
2グループ
・日本コミュニティと繋がりがある
・補習校に週一度通った経験がある
3グループ
・日本コミュニティに一番繋がりがあるグループ
・平日は日本語学校へ、英語の補習校へ週に一度通った経験がある
・日本語能力は他の2グループに比べて高い
著作権を考慮する為、論文の内容すべてをここに記すことはできませんが、研究の結果、日本語能力が一番高い3グループのメンバーが、自身をオーストラリア人と認識する傾向があることが証明されました。
この研究結果から、日本語能力の高さ(継承語能力の高さ)が日本文化や自身のエスニックアイデンティティと必ずしも比例するわけではないということが分かりました。
要は、日本語能力が高いハーフが、日本語能力が低いハーフよりも、自身を日本人として認識する可能性は高いのか?の質問に対して、そうではない。ということが証明されたということです。
アイデンティティは人生をかけて変化し続けます。この事実は大前提です。従って、人種を例えに説明をすると、幼少期にドイツ人と思って育っていたけど、思春期にハーフかも?と感じ始めたりすることがあるということです。
それを踏まえ読み進めてもらいたいのですが、
アイデンティティに関するこれまでの研究も、ハーフの子供たちは、ある程度年齢を重ねてから、自身のマイノリティである部分に興味を持ち始めることが証明されています。(スイスドイツ人と日本人のハーフ、スイス育ちの場合、日本がマイノリティ部分にあたります)
従って
グループ1、2
・“オーストラリア人”という意識が幼い頃からある
・年齢を重ねるにつれ、自身のマイノリティ部分である“日本人”らしさを感じ始める
グループ3
・“日本人”という意識が幼い頃からある
・年齢を重ねるにつれ、自身のマイノリティ部分である“オーストラリア人”らしい部分にフォーカスするようになる
といった現象が、彼らのSelf-Identificationに影響を与える可能性があるということが考えられます。いつ頃彼らが自身のマイノリティに興味を持ち始めるかは、人によって異なり、兄弟間、姉妹間でも全く異なります。
継承語について
この論文では、継承語はミックスナショナリティの子供にとってポジティブな影響を与えると結論付けられています。しかし、残念ながら、補習校での経験がポジティブにだったと証明できた論文は数少ないそうです。
また、自身のマイノリティ部分を受け入れてもらえる環境があることは、ミックス、ハーフというバックグランドを持つ子供、もしくは若者にとっては大事であるとLi (2011)も述べています。
彼女曰く、Translanguaging Spaceと呼ばれる、ハーフやミックスの子が自身の言語ソースを自由に操ることが出来る場、要は日本語と〇〇語を混ぜて話せる環境があることは彼らの精神に良い傾向をもたらすそうです。
(彼女はイギリスで生活をする中英ミックスをインタビューしました。)
参考文献
Li, W. (2011). Moment Analysis and translanguaging space: Discursive construction of identities by multilingual Chinese youth in Britain. Journal of Pragmatics, 43, 1222-1235.
まとめ
本来は、ここではドイツ語も日本語も話していいわよ~!なんて言ってたいものですが、結局ドイツの社会ではドイツ語で試験が行われ、日本でも日本語で試験が行われたりするので、その社会システムに合うように教育していかないといけないわけですよね。
スイスではスイスドイツ語やドイツ語をしっかり話せない、もしくは書けないと進路や社会生活に影響を与えるし、宿題も大量に増え現地校が忙しくなるにつれ補習校の宿題についていけなくなる。そして子は嘆き、親子間の関係も継承語教育によってギクシャク。結果補習校に通わなくなるが、ハーフの子達が成人したあたりで、どうして親は自身に継承語を教えてくれなかったのかと(小さい時はさんざん嫌がっておきながら)嘆くのも事実。
そんな問題を紐解くための方法をまたコツコツと考えていきたいな~と思います。