夢の標本~『湖畔地図製作社』フェア~
こんにちは、ウェブストアスタッフ・ミケです。今日は最近のおすすめ書籍をご紹介いたします。本記事内で、そちらをメインに据えたフェアも開催しています!
『湖畔地図製作社』
桑原 弘明【作品】/長野 まゆみ【文】
国書刊行会(2023/12発売)
ちなみに、ウェブストアでは2024/03/05~2024/04/15の期間中、《はじめて紀伊國屋書店に会員登録かつウェブストアでご注文》いただいたお客様に、『100ポイント(紀伊國屋ポイント)』をプレゼントいたしますキャンペーンを開催中です!
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内容紹介
泉鏡花文学賞・野間文芸賞受賞作家である長野まゆみさんによる幻想的で博物学的な掌篇と、人気オブジェ作家の桑原弘明さんによる精緻なスコープオブジェが織りなす不思議な世界。
【あらすじ】
深山の湖に迷い込んだ「私」……対岸に遥かかすむ建物は《湖畔地図製作社》というらしい。
惹かれるままに、繫がれていたボートに乗って向かってみた……。
建物に到着すると、「技師長はいない」と留守番が告げる。
すると彼は一枚の地図を目の前に広げ、不可思議な地図にまつわる話をはじめる……。
スタッフ・ミケの感想
まず、装丁に目を惹かれる。円形にくりぬかれた箔押しのケースに収められた、紺色のハードカバー。まるでちいさな宝箱だ。くりぬかれた部分からは、表紙に描かれたまるでうろんな目玉のような「オブジェ」が覗く。
ページをめくるたびに、誰かの夢を覗き、渡ってゆくような、そんな感覚を覚えながらこのちいさく精緻で濃い陰影の幻想に溺れてゆく。
私は「スコープオブジェ」というものを初めて知ったが、手のひらサイズの金属製の箱をスコープから覗き込み、上部の穴からライトで照らすことで、部屋の景色が見えるのだそうだ。これはぜひ展覧会などで、実物を覗いてみたい。部屋の中のみならず箱そのものもひとつひとつ異なる意匠が施され、美しく奇妙な箱庭を造り上げている。
そして紡がれる言葉一遍一遍が、実に諧謔的で印象的だ。星雲の断面図、回転異常の卵、月光の密造……。
私は博物館へ行くことが趣味のひとつであるのだが、この本には博物館で感じるわくわくとした気持ち、どこかひんやりとしつつももっともっとと奥を覗いてみたくなる気持ちと同種の感覚を覚える。
さながら夢の標本の博物館である。薄暗い中、ちいさな灯りで照らしながら進む先には、きっとまだ輝きを失っていない星の欠片やばらの図譜、氷のような結晶が展示されているのだろう。
しかし美しいだけでなく、どこか昏く奇妙でぞっとするような部分も持ち合わせているのが、まさしく夢の標本の博物館なのである。
物語は、「私」が待ち合わせをしていた友人の登場によって目覚め、ボートで湖へ釣りをしに行くところで終わる。
風変わりな波紋の渦に導かれるままに辿ってきた道は、ふつりと途切れてしまう。けれど、「私」を奇想に誘う蝶は「いる」のだ。
現実とは夢の一部なのかもしれないし、夢とは現実とひと続きなのかもしれない。確かなことなどなにもないのだから。
一緒に読みたい本たち
2組の作家・クリエイターによる奇想の短篇集、と聞いて一番に思ったのがこちら『注文の多い注文書』。
サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』など5つの既存の物語に登場する〈この世にないもの〉を小川洋子さんが注文し、それをクラフト・エヴィング商會が探し出す……というストーリーの作りになっている。古い薬箱の中身を盗み見るような、不思議ですこしばかり怖く切ない、そんな気分になる本である。
奇想、幻想……、山尾悠子さんの作品にはまさにその言葉が相応しい。言葉の奔流が人工的でありながら神話的な世界を生み出し、破壊する。
読者はその様をただただ呆然と眺め大いなる渦に飲み込まれることしかできない。しかしそれは幸せなことでもある。
空想と現実の境など思い込みに過ぎない、とでも言うような詩的で摩訶不思議な科学エッセイ。科学と博物館に対して私が常日頃感じているロマンティックさ、脳で感じるエモーショナルを凝縮した1冊。
ところどころに入る挿絵や言葉も雰囲気たっぷり。
イメージ音楽の創作
私、ミケの趣味は作曲(DTM)であるのですが、今回この『湖畔地図製作社』には大いにインスピレーションと刺激を受け、本をイメージしたインスト楽曲をつくりました。
※出版社に許可を得ております。
もしよろしければ本を読みながら楽曲を聴いていただき、不思議な作品世界を共有できれば幸いです。