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特撮における「前夜」の意義

特撮各番組に対するネタバレを多分に含みます。

特撮番組のハイライトは当然、戦闘である。番組の残りの尺は大体、事件発生→対応→犯人もしくは突破口の発見という流れに費やされる。ただし、特に番組全体にとって大事な回の場合、この流れの中に日常シーンが挿入されることが珍しくない。

いわゆる「決戦前夜」というやつである。典型的なもので言えば、仮面ライダードライブの最終決戦前の夜は、バックアップ組に回ってくれた早瀬と泊の再会、剛の覚悟とチェイスの心配、傷ついて眠る霧子など、決戦前夜にふさわしい要素をふんだんに盛り込んだものになっている。

決戦前夜のバリエーションは様々であり、仮面ライダーエグゼイドのクロノス登場回の前半、まるでラスボス戦前かのようなそれぞれのライダーの前夜は、ゲームのお決まり自体を破壊してくる「運営」の登場を一層際立たせている。また、仮面ライダービルドの最終決戦前のバーベキューは、決戦前とは思えないようなバカ騒ぎによって、対照的にこれからの戦いの過酷さを表してみせた。


なぜこうしたシーンはなのだろうか。夜とは就寝の時間であり、活動の時間である昼とは違い、ほとんどの人と会うことはない一人の時間である。一人でいる人間は自分と向き合うことが出来る。夜を挟むことで、それぞれにそうした思いにふけた時間があったのだろうと思わせるのに、夜は良い時間である。

初代ウルトラマンの問題作「故郷は地球」において、ジャミラの正体を知り、「葬り去れ」と命令された科特隊一員は、次に彼が現れるまでに一夜を越すことになる。イデは星空に向かって叫んだあと、その夜をどう過ごしたのだろうか。ほかの科特隊隊員は、ハヤタは何を思ったのだろうか。こうして夜を挟むことで、ジャミラに怒り、人間に怒るイデの思いや、国際会議場に向かうジャミラを見てウルトラマンに変身するハヤタの覚悟が、より説得力のあるものとして伝わってくる。


また、夜の魔力は決戦に向かうとはあまり思っていない時でも効力を発揮する。それはやはり決戦前夜と同じく、登場人物の内面に深く入り込んでいく夜なのである。ここでは特に筆者の好きな夜のシーンを二つ挙げよう。

ウルトラマンZ第4話「二号ロボ起動計画」では、ウィンダムの起動電力問題に徹夜で悩むユカが、バコさんに誘われて夜食の焼き芋を食べる。このシーンは電力問題のヒントを得る意味でも重要だが、それ以上に前線に出ないバックアップ組二人の仕事への思いが見られるいいシーンである。バコさんの「自分の理想を簡単に捨てちゃダメだ」という名台詞はもちろんだが、マッドサイエンティスト(脚本の都合というより、役者さん本人の怪獣愛の賜物らしいが)のような描写が目立つユカも、特空機を操って怪獣と直接戦うパイロットや作戦考案と指揮を行う隊長と同様に、人々を守るために最善を尽くそうとしていることが分かるシーンである。ここでは夜の暗さと共に、最近色々人気な焚火が、人の心を落ち着かせ、その内面を覗かせているという説得力に寄与しているだろう。

ウルトラマンオーブ第14話「暴走する正義」では、主人公一行は活動休止中のギャラクトロンを、工場の面々と解析しながら一夜を越す。ライトで明るく照らされたギャラクトロンをシンが期待に満ちた目で見つめるシーンは、シーンとしての美しさもさることながら、機械オタクである彼の内面にある、若者らしい技術への一方的な信頼や正義への憧れが夜の闇の中にハッキリと見えるようである。
ギャラクトロン前後編はシンの理想と絶望を軸にオーブが抱えるトラウマや、正義の二面性という番組のテーマに深く切り込んでいく最重要回とも言えるエピソードであるが、その前編において「正義を信じたい」というシンの純真な気持ちを、ギャラクトロンどころかオーブですら、シンの思い描く完璧な正義など持っていないという後編での結果を以て裏切るために、残酷にもこの夜の中で強く印象付けているのである。ヒビキ隊長こと木之元氏演じる工場長が、一歩下がったところから見守る年長者として一抹の希望であり続けてくれているのが、この回の救いであろう。


特撮の華が戦闘にあることは間違いなく、新たな技術、知識などによって更なる進化を遂げている昨今の特撮であるが、そこに至るまでのドラマをどう構成するかということは、今更言うまでもないが、一筋縄ではいかない問題であろう。本記事で述べたような、夜が導き出す登場人物の内面への接近が、この難しい問題を考える上でも何かヒントを与えてくれるようなものになるだろうか。



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