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「ぎっくり腰の漢方、その患者にぴったりなのは?」

TONOZUKAです。


コロナとは関係ありませんが、ちょっと気になる記事を見つけました。


ぎっくり腰の漢方、その患者にぴったりなのは?

以下引用

日本人の愁訴で最も多いといわれる腰痛。原因を特定できないものが大半で、疼痛管理による保存的療法が基本となるが、漢方薬が著効することも多いという──。急性腰痛に対する漢方薬処方のポイントを紹介する。

「ぎっくり腰で歩けない」には芍薬甘草湯+治打撲一方

 「腰椎捻挫、いわゆるぎっくり腰は漢方薬だけの方が早く改善する。痛くて動けずにいた患者も、翌日には歩いて受診できるようになる」と語るのは大野クリニック(埼玉県比企郡)院長の大野修嗣氏。大野氏は腰椎捻挫に対して非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンを全く使っておらず、特にNSAIDsに関しては、「血管を縮小させる効果があるため、併用すると治癒までの時間がかえってかかってしまう」と、漢方薬のみを用いる理由を説明する。

 大野氏が腰椎捻挫に最も高頻度で処方するのは、芍薬甘草湯と治打撲一方だ。

 こむら返りの漢方薬として知られる芍薬甘草湯は、鎮痛・鎮痙作用を持つ2つの生薬、芍薬と甘草から成るシンプルな方剤。特に芍薬は筋肉を弛緩させる作用があり、筋拘縮を伴う腰椎捻挫に非常に有用とのこと。ただし、筋肉を弛緩させる効果はあるが痛み止めの作用は軽微なため、治打撲一方を併用する。治打撲一方は打撲や捻挫、骨折の痛みを改善する方剤で、川芎、撲樕、川骨、桂皮、丁子、甘草、大黄の7つの生薬で構成され、「消炎し痛みを取りつつ血行を促進する」(大野氏)。

 発症直後で動けない腰痛捻挫に対しては「芍薬甘草湯と治打撲一方を第一選択として3日分処方し、効果が不十分な場合は他の方剤に変更するという使い方でいいのではないか」と大野氏。例えば、「筋拘縮が顕著な患者には芍薬甘草湯と同じく筋肉を弛緩させる作用がある葛根湯を、冷えがあり強い痛みを訴える患者には身体を温める作用と鎮痛作用がある麻黄附子細辛湯を治打撲一方の代わりに併用するとよい」と説明する(図1)。


芍薬甘草湯+桂枝茯苓丸が著効するケースも

痛みやしびれの治療に漢方薬を積極的に活用している平田ペインクリニック(福岡県糟屋郡粕屋町)院長の平田道彦氏も、大野氏と同様に芍薬甘草湯を急性腰痛治療の基本に据え、NSAIDsやアセトアミノフェンの使用を最小限にして治療している。

 平田氏によると「治打撲一方の圧痛※」が認められる場合は、芍薬甘草湯に治打撲一方を、そうでなければ、瘀血に関係した痛みに広く使われる桂枝茯苓丸を併用するとのこと。

 ※臍の横1~1.5横指の位置を指1本で腹壁に垂直に軽く按圧した際の痛み(1横指=約1.5cm)。なんとなく痛い程度でも陽性と判断する。右側に認めることが多い。

 ゴルフの練習中に腰を痛め、翌日にはほとんど動けなくなってしまった50歳代の男性。なんとか自力で来院したものの、ちょっとした動作で痛みを感じ、診察台の縁に座ったきり動けなかった。腰背部の筋肉の緊張が強く、治打撲一方の圧痛は認められなかったため、芍薬甘草湯と桂枝茯苓丸を処方したところ、翌日には少し動けるようになり、翌々日には無理なく歩けるようになった。念のため処方したロキソプロフェンは服用しなかったとのこと。このように、歩行がやっとな患者であっても芍薬甘草湯と桂枝茯苓丸の併用で、服用から2日後には症状がかなり軽快している。

 なお平田氏は、便秘のある患者では通導散または桃核承気湯を芍薬甘草湯にプラスしている(図2)。便秘を解消しながら瘀血をとることで、腰痛の痛みを緩和するのが狙いだ。便秘が解消したら桂枝茯苓丸に切り替えるのだという。

 通導散と桃核承気湯については、大野氏も便秘のある月経関連の腰痛に効果があるとしている。便秘が高度の場合は桃核承気湯、中等度の場合は通導散、便秘がない場合は桂枝茯苓丸というように使い分けているとのこと。「これらの方剤は痛みがある時に服用すればよいが、特に月経痛が強い場合は月経の1週間前から芍薬甘草湯を併用しておくとよい」と大野氏は言う。


16世紀の腰痛薬「調栄活絡湯」を目指した処方も

「急性腰痛には大黄牡丹皮湯と四物湯の併用が効果的」と語るのは、福嶋整形外科医院(鳥取県倉吉市)副院長の福嶋裕造氏だ。福嶋氏は漢方薬を、NSAIDsの効果が不十分だった際の第二選択としてだけでなく、NSAIDsの副作用が懸念される際の第一選択としても使用している。

 大黄牡丹皮湯は、大黄、牡丹皮、桃仁、冬瓜子、芒硝の5つの生薬から構成される。大黄、牡丹皮、桃仁は駆瘀血作用を、大黄、牡丹皮、冬瓜子は清熱作用を持つといわれている。また四物湯は補血に優れた4つの生薬、地黄、芍薬、川芎、当帰から成り、芍薬、川芎、当帰は鎮痛作用を持つとされる。「これらの駆瘀血と補血、清熱、鎮痛の作用は、西洋医学的にはそれぞれ循環障害の改善、熱感の改善と消炎、鎮痛をもたらすと解釈できる。すなわち、血液循環を改善しつつ熱感を取り、消炎鎮痛作用がある大黄牡丹皮湯と四物湯の併用は急性腰痛の治療において理にかなった処方と言えるだろう」と福嶋氏は説明する。

 除雪作業のために急性腰痛を発症した80歳代の男性は、大黄牡丹皮湯と四物湯を7日間服用したことで腰痛が軽快し服薬を中止できたという。なお、この患者は発症後、以前処方されたロキソプロフェン(内服薬と貼付薬)を使用していたが効果がなく、福嶋氏の診療所を受診したのは発症から25日目のことだった(福嶋裕造, 他. 日東医誌. 2018;69:35-41.)。このように発症から3週間以上経過した腰痛であっても、強い炎症を伴う腰痛に対しては、これらの方剤がよく効くと福嶋氏は日々の診療で手ごたえを感じている。

 この大黄牡丹皮湯と四物湯の処方、福嶋氏が手本としたのは16世紀中国の医学書『万病回春』に登場する「調栄活絡湯」という方剤だ。調栄活絡湯は腰痛を改善する漢方薬として記載され、これを現在使用できるエキス製剤で再現しようと、複数の医師が異なる方剤の組み合わせを提案している(図3)。



図3 調栄活絡湯を手本とした処方の構成生薬の比較
(福嶋裕造, 他. 日東医誌. 2018;69:35-41.を一部改変)

 福嶋氏による大黄牡丹皮湯と四物湯の併用の特徴は消炎作用(清熱作用)の強さだ(図4)。調栄活絡湯の構成生薬の他に牡丹皮と冬瓜子が加わっており、より強い清熱作用を持つとのこと。「大黄牡丹皮湯と越婢加朮湯の併用は調栄活絡湯ではなく、同じく『万病回春』で痛風を改善するとされる『霊仙除痛飲』を模倣した処方だが、清熱作用が非常に強いため、強い炎症を生じると考えられるスポーツ外傷などによる急性腰痛に効果的。清熱作用が比較的弱い治打撲一方と疎経活血湯の併用は、既に炎症が引いている慢性腰痛に向いているだろう」と福嶋氏は各処方の位置付けを整理する。

 なお、「大黄牡丹皮湯は瀉下作用も強いことから、下痢を生じる可能性があること、脱水に注意することを処方の際に説明しておく必要がある」(福嶋氏)。


このように、漢方の専門家はそれぞれの経験と古典を組み合わせて最適な処方を編み出しており、西洋薬に勝ることを実感している。「NSAIDsなどのいわゆる西洋の痛み止めは、痛みを隠している間に自然治癒させるのが狙いだが、腰痛の急性期は痛みを隠して無理に身体を動かすとかえって治りにくくなってしまう。一方で漢方は、傷んだ組織や神経の修復をサポートする力があり、より根本的な治療に近いと言える。特に高齢者は自力で治す力が弱いため、漢方のよい適応になるだろう」と平田氏は急性腰痛に対する漢方処方を強く勧める。



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