「コロナと赤痢アメーバ、宿主との微妙な関係」
TONOZUKAです。
コロナと赤痢アメーバ、宿主との微妙な関係
以下引用
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で全世界が体験していることの一つに、「感染症とは、病原体の要因だけではなく、宿主側の要因で重症化したりしなかったり、その病態そのものが大きく変わり得る」という感染症学の基本があるのではないかと思っている。
ここで改めて書くまでもないが、COVID-19による死亡リスクは年齢で大きな差がある。若年者にとっては“ただのかぜ”が、高齢者にとっては死亡リスクの高い恐ろしい感染症となるのだ。世代間でCOVID-19への認識が異なることは、感染対策のための様々な政策や、ワクチン接種を一律に進めることを難しくしている。結果、世代間の断裂さえ生みかねない状況にある。とはいえ、病原体自体も日々刻々と変化しており、今は重症化の低リスク群に属している宿主に対して牙をむくこともあるだろう。そのためにも誰もが感染対策をおろそかにはできない。
宿主側の要因が重症化リスクに大きく関与する感染症は他に幾つもある。例えば、髄膜炎菌感染症。発症すれば生死に関わる、命をとりとめても後遺症が残る可能性もある恐ろしい感染症だが(関連記事:重症例は2日で死亡、四肢切断の後遺症も)、その重症化には、宿主側の遺伝子多型が大きく影響していることが明らかになっている。感染者数が極端に少ない日本では、髄膜炎菌ワクチンの定期接種化は難しい。それであれば、罹患者の血縁者を中心に、この遺伝子多型の検査体制を整え、重症化リスクのある多型を持つ場合にワクチン接種を進めることを検討してもいいのではないかと個人的には考えている。
マイクロバイオームが重症化に、遺伝子多型は流行に影響する感染症
さて、本題はここから。国内でその潜在的な流行がまだ知られていない赤痢アメーバ症は、腸内細菌が重症度に影響を与えることが明らかになってきている。これは、腸内細菌叢が宿主免疫に影響する一例だ。遺伝子多型のように生まれ持った因子ではないが、宿主側の要因としてマイクロバイオームの重要性を示す好例ともいえそうだ。
加えて、赤痢アメーバ症の性感染症としての流行には、多くの東アジア人が有する遺伝子多型が影響することが示されている。
赤痢アメーバを、いまだに途上国の感染症と受け止めている読者がいるかもしれない。だが、日本や豪州のような先進国では性感染症の一つとして流行しており(関連記事:赤痢アメーバ症、潜在患者は梅毒並み!?)、その見逃しによる患者の重症化が危惧されている(関連記事:虫垂炎の原因がアメーバ赤痢!?)。その先進国における赤痢アメーバ感染症の流行をまさに“影で支えている”のが「無症候性持続感染者」だ。
赤痢アメーバといえば、しぶり便といちごゼリー状便が有名だが、そのような典型的な症状を示す感染者は一握りにすぎず、多くは無症候性だ。しかし、腸管内に赤痢アメーバが持続感染し、他者への感染源となり得る。国立国際医療研究センター病院エイズ治療・研究開発センター医師の渡辺恒二氏は「発展途上国では人の糞便に汚染された飲料水や食物が赤痢アメーバのリザーバーとなり感染が広がるが、先進国では無症候性持続感染者がリザーバーとなり、性感染症として広がる」と説明する。そして、この無症候性持続感染者になりやすい遺伝子多型の存在も明らかになってきているという。
それは、ヒト白血球抗原(HLA)の遺伝子多型で、東アジアや豪州で10~30%の高頻度で認められる一方、それ以外の国ではほとんどみられない。実際、東アジアや豪州以外では、赤痢アメーバ症は性感染症としてほとんど流行していないようだ。
多くの医学は欧米で進歩し、日本に広まる。しかし、欧米からの新たな知見を待っていても、欧米に性感染症としての流行が少ない赤痢アメーバ症に関しては何も出てこない可能性がある。その疫学を明らかにし、患者を拾い上げて適切な治療を行うスキームを整えるためには、我々日本人(東アジア人)が日本人(東アジア人)のデータを元に模索しなくてはならない。
とはいえ、赤痢アメーバ症に興味を持つ研究者は非常に限られるのが現状だ。検査法すら十分に整っていない。「診断の遅れにより亡くなる方々を救命するために、国内での感染の広がりや、どのような場面で赤痢アメーバ症を鑑別診断の一つとして想起すべきか、より多くの医療者に知ってもらいたい」と渡辺氏は言う。赤痢アメーバ感染症という性感染症分野でもマイナーな感染症の調査・研究に没頭する渡辺氏を支えるのは「診断さえ付けば治癒できる疾患(赤痢アメーバ症)による死亡はゼロにしなければならない」(渡辺氏)という信念だ。
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