見出し画像

床屋さん

いつも通っている美容室のアシスタントさんが声をかけてきた。

「定年でしたっけ?」 

「えっ?」、 声には出さなかったが心の中では「へぇぇぇぇ、失礼なやつ」 とつぶやいた。
あまり仕事はしていないが、まだ定年ではないのだ。


ぼくは髪を切ってもらうのが大好きで、 子供の頃からほぼ月一で床屋に通っている。
小学1年生の頃には、お金を握りしめて一人で床屋に通っていたのだ。
いまは、床屋から美容室に変わったが、髪を切ってもらうこと自体が好きなのは変わらず、美容室に通っている。

なぜ床屋が好きで、毎月通うのか?

子供時代は褒められることが嬉しかったのだ。
床屋に行くと、あることで褒められることから、床屋に行くのが楽しかった気がする。
褒められるのは、非常に些細なことだ。 
床屋さんが「はい、動かないでね」 というと、ぼくは微動だにしなかった。
そうすると、つぎに「へぇぇ、すごいね。 こんなピタっと止めて動かずに我慢できる子供はなかなか居ないね」 そんな言葉で認知してくれる。
多分、それで床屋が好きになった魔法の言葉だ。

最近は、「美容室は自分の時間をゆっくりと過ごせる場所」 として気に入っている。
割り込みは入らないし、本でも読みながら一人の時間を過ごせる大事な場所なのだ。
そして、髪を切ることで、気分も変わる。 これは凹んだときには強力な気持ちの転換方法だ。 
毎日、鏡を通して見かける、自分の印象がサッパリしていれば、気持ちも軽くなる。
もちろん、短い髪型の方がシャンプー後に乾かすことも面倒でないので、好きな要因であるというところも大きい。

いま通っている美容室も、かれこれ5年近くになる。
それなのに、「定年でしたっけ?」とは本当にびっくりした。
たしか、美容室に通い始めた頃、顧客カードには年齢を10歳サバ読んで記入したはずだ。
話が脱線するが、なんで10歳もサバ読んだかって?
自動的に10歳若造りした髪型にしてくれるのではないか?
あるいは、10歳若い人に合わせた雑誌を出してくれる。
そして、10だと覚えやすい。
初めて行った時に顧客カードを書いて欲しいと言われ咄嗟にひらめいて書いたのである。
干支のことまでは気が回らなかった。 
ある日、干支が会話に出たことがあったときに、咄嗟に計算ができなかった。

アシスタントさんとの会話では、ぼくの目論見は全く無意味で10歳読んだサバも考慮されていないどころか、 「定年でしたっけ?」と言ってくる始末である。 

年齢をサバよんで、いいことがあったかなぁ?、 そう問うてみると何もでてこない。
ほとんどの場合、
・サバをよんだかどうか?
・あるいは何歳サバよんだか? 
・それ自体も忘れてしまっている

そういえば、この若く見せたいということで、いつの間にか自分の内側の余白(スペース) が小さくなっていた感じもする。 
ぼくの内側で、この美容室では10歳若く登録してあるので、それを忘れてはいけない、 あるいは、話題の時代設定も巧みに考える必要があるのだと勝手に考えてしまう。
 
なんとなく自分の自由の空間を狭めることをしているのではないか?
主題とは違うことに気を使わなくてはならないのだ。 これでは、自由度が少なくなる。

コーチングをやっていると似た光景に出くわすことがある。
無意識に「自分をよく見せたい」 と思っているクライアントさんに出会うことがある。 無意識レベルで「よく見せたい」が存在しているため、行動や言動が脊髄反射的に「よく見せたいフィルター」 を通して出てしまうらしいのだ。
咄嗟に「自分をよく見せるため」の反応をしてしまい、 自分自身の意に反した約束をしたり、 我に返ると後悔するようなことをしてしまう。 
「よく見せたい気持ち」 が自分のスペースを狭くしている。
これは、自由を手放してしまっている気がした。 
そして、モヤモヤしだして本当に自分が何をしたいのか見えなくなってくるのではないか。

そういえば、
ぼくは最近、年齢を告げる時にサバを読まなくなった。

それは、
年齢とは、1つの目安でその人の生き方や考え方次第ではないか? と見るようになったからだ。
年齢というものの見方が変わったのだ。
見方の変化がぼくにスペースを与え、 ぼくを年齢という縛りから自由にさせたのかも知れない。

自分にとって、「年齢にこだわる」 という視点を手放して、自分の願いや大切にしていることを重要視して過ごしてみたい。
そこには、きっと自由で素敵な時間が流れ始めるだろう。

ほくは、コーチングを通して、クライアントが固まった視点から開放され、願いに沿って生きられる、そんな豊かな人生を伴走したい。

まずは、美容室の顧客カードを書き換えるところから。


<おしまい>


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?