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監査法人スタッフ~インチャージ初心者向け クライアントからの相談対応マニュアル

 はじめまして。きんだめと申します。
 X(Twitter)でblanknote(https://twitter.com/blanknote)さんが発起人となる会計系アドベントカレンダー(https://adventar.org/calendars/9013)なるものがなにやら最近流行っており、遠巻きに楽しく拝見しているのですが、なんとなく全く発信せず受け取ってばかりいるのは悪い気がしてきたので、自分が書けそうなテーマでアドベントカレンダー関係なく勝手に記事を書くことにしました。闘魂先生(https://twitter.com/sohmato_vision)もそれでいいと仰っていた(はず)。
 ちなみに、監査法人で10年前後監査をしています。

はじめに

 X(Twitter)では主に老害とエロい絵を描く人間と男女論を語る奴らなどの魑魅魍魎が跋扈しています(私調べ)。その中でも老害たちはやれ最近の若い奴はなっとらんというようなことをだらだらと述べ、引用で若人からボロクソ言われていたりします。
 私自身は、監査業界の若人たちについては、地頭的な基礎能力が落ちているとは全く思わないのですが、仕事のパフォーマンスが発揮できているかという点では、老害たちの言うことも少し理解できるなあというのが正直なところです。
 というのも、たった10年前と今とを比較しただけでもかなり仕事の環境が変わっており、新人スタッフ~インチャージ初心者くらいの年次にとってはかなりキツい(パフォーマンスが発揮しづらい)環境に変わってしまっているからです。その主な要因は①学習機会の減少と②コミュニケーションの不足です。

 ①学習機会の減少は、良いか悪いかはさておき、事実として今は昔よりも働く(ける)時間が圧倒的に短いです。昔はオッサンの臭い漂う狭い監査部屋で歌舞伎揚げを食いながら終電まで残って仕事するのがよくある光景でした。
 サッカーが上達したいならサッカーの練習をするべきなのと同じように、仕事が上達したいなら仕事をするのが一番なのですが、働き方改革の影響もありなかなかそのようにはいきません。これにより、余った時間で自己研鑽に励む上位層と、強制力がないとついついサボってしまう愚かな人類である中間~下位層で大きく差がついているように思われます。

 ②コミュニケーションの不足について、コロナウイルスの影響でリモートワークがメインになり、チームメンバーがどう働いているかもイマイチよく分からん、クライアントの経理担当者とすら直接話したことなんか一度もない、という話もよく聞きます。新人たちは先輩たちにどうしたらいいか聞くものの、なんせ1~2年上の先輩も入社した時からロックダウンの世代なので、先輩たち自身も同じ状況でどうしていいかわからない。
 このような状況下では新人スタッフが質問や会話を通じて人から正しく情報を入手し、人に正しく情報を伝えるコミュニケーション能力が鍛えられません。これは非常にいかんです。やたら高難易度の資格試験ゆえに不向きな人(婉曲表現)が大量に混じるものの、会計士はコミュニケーション能力が仕事の基本です。

 日本監査業界の行く末を真に憂う者であるところの私としては、この2つに対するわずかながらの処方箋、すなわち①’効率的な学習機会の提供、②’コミュニケーションや仕事の段取りの上達を目的に、今回は監査の仕事のよくある場面:クライアントからの相談対応のマニュアルを提供することで、迷える後輩たちにインストラクションを授け、少しでもよい会計士が増えればいいなと思います。
 相談対応はものすごく小さい単位のプロジェクトマネジメントなので、仕事の基本動作が詰まってます。マスターすればきっと他の場面でも役に立つはずです。


心構え

 クライアントからの相談対応、それは一番楽しい業務です。そうでない人はそう思い込んでください。仕事の中身とつらさは変えられないですが、自分の心持ちは変えられます。
 相談対応が世界で一番楽しい仕事のあなたは、クライアントの経理スタッフが借りている会議室(監査部屋)にやってくるとワクワクします。

「〇〇さん(インチャージの先輩)は今日いらっしゃってますか?ご相談したい事項があるのですが」

 ここでそのまま〇〇はいないと答えて帰してはいけません。先輩がいないのをいいことに、あなたはこの相談事項を横取りしようと考えます。

「〇〇は離席しております/本日は伺っておりません。よろしければ伝達しておきますので、概要だけ伺ってもよろしいですか?」

 これで、「〇〇先生に相談したかった案件」は「あなた先生にお話しした案件」にクラスチェンジし、あなたはこの相談事項に関する窓口になります(やったね!)。あなたがこの相談事項のオーナーです。クライアントからすると、あなたにこの相談をうまくクローズしてほしいという期待が生まれ、あなたにはそれに応える責任が発生します。
 うまく期待に応えられれば、あなたはクライアントから信頼されるはずです。「この人に相談したらなんかいい感じで終わった」という体験は、次の相談の機会につながります。
 また、クライアントから信頼されれば、格段に仕事がやりやすくなります。ちょっと無理めな資料依頼でも、あなた先生が言うならしょうがないにゃあ・・いいよ。となるかもしれません。やりすぎると嫌われますが。

 ちなみに、リモートワークがメインで、自分が直接相談を受ける機会が全くないチームもあるかもしれませんが、そういうときは普段から先輩に「相談対応やりますんで何かあったら声かけてください」と言っておき、こいつは積極性があるかわいいヤツだと思われておきましょう。インチャージはバリバリのタチなので、積極的な姿勢を持った後輩が大好きで興奮を覚えるはずです。また、自分から手を挙げない人には永遠に機会が回ってこないのが監査法人だということにも留意しましょう。

 繰り返しになりますが、重要なのは、あなたがこの相談事項のオーナーであり、最後までやり切る責任とクライアントの期待があるのだということです。仕事をやり切らない奴は成長しませんし、期待に応えられないので当然信頼もされません。

初動対応

 まずはクライアントからどのような内容なのかを聞きます。実際の相談内容は多岐にわたるので一般化は難しいですが、「この会計事象をどのように処理したらよいですか」というよくある質問をベースに、概ね共通して留意するべき点を記載します。
 クライアントが相談しにくるとき、検討に必要な情報を完璧に揃えた状態でやってくることはほぼありません。初動で追加の確認事項が出ることは当たり前だと思っておきましょう。
 初動対応がイケてないために必要な情報が欠けていると、後述の論点整理や検討の過程で後から追加の質問や資料依頼をすることになり、時間がかかってしまいますし、何より面倒です。なかなか難しいですが、最初にその時点で入手可能な情報を質問、入手または依頼しきってしまえるのがスマートかつベストです。ベストを尽くしましょう。

5W2H+時系列を整理する

 情報の整理には色々な切り口・観点がありますが、会計論点の検討については、5W1H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように)に1H(How much:いくらで)を加えた5W2Hが、基本的ですがそれゆえになかなか便利です。特に「Why:なぜ」の部分は相談をしてきた背景の理解や、後述の経済合理性の評価にも必要なことが多いので、可能な限り深掘りして質問しましょう。
 5W2Hを意識して、時系列に沿って事象をまとめればだいたいの会計事象の整理はできるかと思います。
 登場人物が多く複雑な会計事象の場合は、後述のお絵描きをしながら話を聞くのも有用です。

足りない情報を依頼する

 そもそも5W2Hの情報が足りずどういう話をされているかよく分からん、という場合にはクライアントに追加確認を依頼しましょう。クライアントの経理担当者も営業部門など現場からの伝聞で相談してきていて、十分な情報を持っていないことはよくあります。
 そのうえで、後述の論点整理のなかで検討に必要な事項も依頼しておきます。例えば、貸倒引当金をいくら積むべきかという相談に対しては、回収可能性の検討に必要な債権先の財政状態に関する情報、個別の交渉状況、入金スケジュール、過去の回収実績などがなければ話が進みません。
 最初から完璧に依頼しきるのは難しいので、論点整理と検討を行きつ戻りつしつつ、足りない情報を補完していきましょう。これは経験を積むとだんだん精度が上がってきます。

クライアントの意向を聞く

 忘れてはいけないのは、あなたは監査人だということです。あくまでクライアントが作成した財務諸表に対してそれが適正かどうかを判断する立場であり、会計処理そのものを決めるのは常にクライアントです。「で、会社はどう考えてるの?」と後で必ず聞かれます。ですので、クライアントとしてはどのような処理を考えているか、あるいはどのような処理にしたいかを聞きましょう。
 クライアントに特に考えがない場合、本来はきちんとポジションを持つよう指導するべきではありますが、それをうまくやるにはかなりのコミュニケーション能力が求められます。なのでいったんその場は打ち切って、後で先輩に聞かれたら、「会社に特にこだわりはなく、あるべき処理が知りたいようです」とでも言っておきましょう。
 なお、監査人としてはクライアントの会計処理を批判的に検討する義務があり、クライアントに過度に忖度する必要も全くないのですが、監査人の本質的な役割は資本市場のステークホルダーの利害調整だということを踏まえると、基準が許容する範囲でクライアントに寄り添ってあげるのがよい監査人だと個人的には思います。

期限を聞く

 監査人もそうですが、クライアントは我々以上にスケジュールに追われています。月次決算、四半期決算、年度決算のそれぞれで仕訳入力を確定させなければいけません。いつまでに回答が必要かを聞きましょう。上場会社の会計処理の相談であれば、翌月の月次決算の締め日か、四半期決算の締め日までに回答してほしいと言われることが多いかと思います。
 あまりに回答期限が短い場合は交渉が必要です。相談内容を分解して、先に回答が欲しい部分を特定するなど柔軟に対応できるとGoodです。期限の短い相談が続き疲弊するようなら、チームとしてクレームを入れる必要があるかもしれませんので、インチャージまたは上席者に相談しましょう。こっちは監査報告書日までにFSが正しくなってりゃ義務は果たしてんだからお前らの都合なんか知ったことかよ、なあ?
 回答期限が決まったら、期日から逆算してやるべきタスクを整理し、回答までのスケジュールを引きましょう。気をつけるべき点は、後述のチーム内協議など人に動いてもらう場合には先に予定を抑えておくことです。チーム内の偉い人ほど普段何やってるかよく分からんくせに忙しそうな予定表になっています。備えましょう。
 また、併せて相談が来たこと自体についてもチーム内で一報を入れておきましょう。即時の情報共有のメリットは種々あります。後述しますが、内容と金額によっては法人内の審査などを受ける必要があり、想定より時間がかかる可能性があるので、情報共有することでそのことに気付く機会を増やしましょう。また、監査現場はいつ誰が倒れて引継ぎが必要になるかわからないTOUGHな環境です。備えましょう。

補論・言質を取られるな

 クライアントによっては、やたらと前のめりに言質を取りにくるケースもあります。経営者・上席者が怖かったり責任追及が厳しく、心理的安全性が確保されていないために担当者が監査法人のせいにして安心したい場合に多い気がします。(統制環境に不安を感じますね。契約解除しろ!
 あなたの発言はあなたが思っている以上に重く受け止められることがあります。監査人は外部者であり、クライアントからみると最終のチェック者です。「〇〇先生が言ってました」でクライアントが意思決定を進めてしまうこともありえます。
 吐いた唾は飲めません。そこまでビビる必要はないですが、発言には慎重になりましょう。知らないところ、分からないところ、記憶が曖昧なところは確認して回答しますとはっきり言い、あやふやなことは言わないようにしましょう。前言撤回は信頼を失う行為なので、よく考えてから発言・伝達することが大事です。
 あまり関係ないですが、「きんだめ先生確認済」とかを資料や稟議に書くのはやめてください。いやマジで。

論点整理

 クライアントから取引の概要を聞いたあなたは、質問に対する回答を考えるために、この会計事象から検討すべき論点を抽出します。
 時間的に厳しければ別ですが、質問されたことだけに対して調べて回答するのは、端的にいうとカスの仕事です。クライアントの財務諸表の適正性に寄与するには、ある会計事象に対して必要な論点が適切に検討されている必要があり、あなたはその指導を行うことが専門家として期待されています。
 論点整理は網羅性がポイントです。ある事象が会計・監査に与える影響を検討するときは、多様な観点から立体的に検討することが重要です。その検討が正しいかどうかは基準を見ればある程度わかりますが、網羅的な検討ができているかどうかは、まさに専門家としての能力が問われるところです。

お絵かきをする

 「5W2H+時系列で整理する」の続きとも言えますが、登場人物と取引の内容を図にまとめましょう。以下の点を中心に、あなたの思考は整理されるはずです。

  • 登場人物は誰か?それぞれはどんな役割を負っているか?

  • モノ・サービスの動きはどうなっているか?(誰から誰にどのような履行義務がいつ履行されるか?)

  • カネの動きはどうなっているか?(どのような条件でいつ資金が決済されるか?)

仕訳で考える

 思考が整理できたら、それぞれの登場人物がいつどのような仕訳を起票するべきか考えましょう。権利義務と損益は必ず仕訳の形で整理できます。仕訳作成能力も会計士の強力な武器です。鍛えましょう。

アサーションで考える

 監査をやる会計士のさらなる武器はアサーションです。アサーションに沿って考えれば、会計処理の基本的な論点は網羅されるはずです(これに沿って財務諸表の適正性を検証するのだからある意味当然です)。実在性、網羅性、権利義務の帰属、評価、期間帰属、表示の観点それぞれで、追加的に検討すべき点がないかを考えましょう。

その他の影響を考える

 とはいえ、アサーション一本槍では現代の企業内容開示制度に完全に対応することは難しいのも現実です。アサーションの検討を軸に、他に波及するところがないか、これを受けた監査上の対応も考えます。
 相談事項の種類は多様なので一般化は難しいですが、以下によくある(漏れがちな)検討の観点を列挙します。私はどの項目の検討でも、そこまで考えてなくてあとからヤベェッ!となった経験があります。

  • 財務諸表本表に与える影響(表示区分・比較情報の組替え含む)

  • 注記に与える影響

  • キャッシュ・フロー計算書に与える影響

  • 税金・税効果に与える影響

  • 会計上の見積りに与える影響

  • 翌期以降の財務諸表に与える影響

  • 連結仕訳に与える影響

  • セグメント開示・損益に与える影響

  • その他の記載事項(事業報告/有報前段)に与える影響

  • 内部統制評価に与える影響

  • 監査手続に与える影響

  • 監査計画に与える影響

  • 監査意見に与える影響

補論・経済合理性を考える

 特に、これから始める新規取引の相談の場合によくあるのですが、話を聞いていると、登場人物の一人または複数がなぜその取引を行うのかが説明できない取引、例えば一人だけが明らかに損している取引や、そいつがいなくても別によくない?という取引があります。
 たいていは前提・背景情報が抜けていたりして、よくよく聞くと合理性に納得できることがほとんどですが、マジの不正な取引ということもゼロではないです。やる奴はやります。懐疑心を発揮しましょう。
 また、不正でなくとも、色んなしがらみがあって等価交換が成立してるかこれ?という取引もあります。監査人としてはクライアントが行うビジネス上の判断や取引そのものに口を出すことは基本しませんし、その能力も権限もありません。ですが経済合理性がない取引は、主に会計上の測定の面や税務上の寄附金課税、関連当事者取引(利益相反含む)の観点などで問題になることがあります。
 上記のような取引を認識した場合は、とりあえず懸念をインチャージまたは上席者に報告しましょう。報告・連絡・相談さえしとけばそいつの責任です。ほうれんそうは上席に責任をなすり付けるサラリーマンの嗜みです。押し付けましょう。

検討(基準への当てはめ・対応)

 論点が抽出できたら、それぞれの論点に対して会計基準・監査基準を当てはめ、あなたなりの見解・結論を出します。会計オタク的には一番楽しいところです。
 検討の目的は、後述のチーム内協議を通じて監査チームとしての結論を出すことですが、この相談事項案件のオーナーはあなたです。あなた自身が納得し、なぜその結論に至ったかをクライアントに説明できるようにすることがゴールです。
 以下に、私が検討するときにいつもやっていることを記載しますので、参考にしていただければと思います。

ググる

 私はインターネットの妖精なので、まずは検索します。知らない単語が出てきたら全部ググります。今のWebブラウザは単語をドラッグして右クリックするとワンクリックで検索できるので便利です。
 インターネット検索する際に留意するべき点は、あくまで検討の取っ掛かりに使うべきでありきちんと出典の基準にあたることと、情報源にもTierがあることです。特に情報源の信頼性を評価するのは、監査人としても重要なスキルです。
 私の個人的なネット情報のランク付けは以下の通りです。

  1. ASBJ・JICPAその他官公庁系の情報

  2. BIG4の解説記事

  3. BIG4以外の監査法人、顕名の会計事務所HPの解説記事

  4. 非会計系の企業などが運営している会計情報のまとめサイトの解説記事

  5. 個人ブログ、知恵袋系

  6. 新興SaaS系会計ベンダーの解説記事(嘘ばっか書いて許さんからな)

基準にあたる

 インターネット検索で当たりをつけたら、根拠となる基準の記載を確認します。当たり前ですが、基準本体で参照されている結論の背景や、関連する研究報告・実務対応報告などもちゃんと読みましょう。そのほか、基準設定時の公開草案に対するコメントなどで、意外と知りたいことがドンピシャで書かれていることがあったりもします。

法人のナレッジを活用する

 一定規模以上の監査法人所属であれば、監査品質管理の施策として法人内に相談部署や法人内のQ&Aなどがあるはずですので、そこに問い合わせたり参照したりします。ここの詳細は身バレが怖いので各ファームの運用に従ってください。イイネ?

詳しい人に聞く

 色々調べてもよく分からん、結論が出せない、というときは、詳しい人に聞くのも選択肢のひとつです。大手監査法人であれば、同様の事例を検討したことがある人もいるでしょうし、それこそ会計基準の設定自体に関わったような、ただの会計オタクじゃない、ド級のド会計オタクがゴロゴロ転がってます。人脈という言い方は好きではないですが、こうした人的ネットワークを構築するのも一つの能力ですし、大手監査法人ならではのうま味です。
 ただし、テイクばっかりしているとだんだん嫌われていくので、紳士的に何かこちらから助言を差し出せるような得意分野を磨いたり、他のことでもちょくちょく貸しを作っておいたりしましょう。

書籍にあたる

 個人的には書籍は意外と最後の方に採る手段です(上記でだいたい解決してしまうので)。とはいえ、特にニッチな分野の専門書はそこにしか書いてない情報がたくさんあり、検討の助けになることも多いです(為替換算調整勘定の実務なんか誰が読むねん)。
 書籍の購入は頭脳労働者にとって製造業の仕入と同じですので、関連する書籍はその時全部読まなくとも、目次に目を通すだけでよいのですぐに購入しておきましょう。専門書は気づくと絶版になっていることがよくあります。さらに積んだ本からはよい六角電波が出ているので不思議な力でIQが爆上がりします。その頭に巻いたアルミホイルを取れ!
 全然関係ないですが、私はリモート会議でカメラに専門書でいっぱいの本棚写してる奴を見るとマウント取られている気がしてかなりイラッとします。

チーム内協議

 当初設定した期日までに、あなたなりの見解をチームメンバーにぶつけ、監査チームとしての結論を出します。これまでの検討がきちんとできていて、あなたの判断が合理的であれば、特に異論も出ずハイハイそうそう仰る通りという感じで簡単に終わります。検討が不十分な場合には宿題が出されるので、クライアントに追加の確認をします。
 結論が合理的でも、基準に書いていない要素が大きく、判断の割合が大きい場合はチーム内で意見が割れる可能性もあります。そのようなケースでは最終的な判断の責任は業務執行社員が負いますので、あなたは遠い目をして時間が過ぎるのをボンヤリ待っていればOKです。
 慣れてくれば、会計士100人いたら何人くらいが同じ判断をするかというのがだんだん分かってくるようになり、まあ99人が同じ判断するだろうなという感じで、自分ひとりで捌ける幅も広がってくるかと思います。(ただし100人に1人が業務執行社員のパターンもあるので油断は禁物です)

検討をまとめる

 これまでの検討をまとめてチームに報告しますが、見やすいわかりやすい枠組みはだいたい決まっており、概ね以下の流れになるかと思います。

  • 事案の概要

  • 論点

  • 検討(基準への当てはめ)

  • 結論

 上記を文章なり口頭なりで説明します。後述の協議レベルにも関係しますが、会計士はすぐに数字を聞きたがる困った欲しがりさんなので、最初にどれくらいの金額規模の話かをまず説明しましょう。監査上の重要性の基準値や手続実施上の重要性、明らかに僅少とみなせない額と関連付けて話せるとGoodです。
 なお、これはほぼ監査調書と同じ構造なので、きちんと書けていればコピペして監査人の検討を追加すればそのまま監査調書になります。

協議のレベルを判断する

 少し上級編ですが、監査法人の品質管理システムがまともに機能していれば、論点の量的・質的な重要性に応じてどのレベルまでの審査を受ける必要があるかが決まっているかと思います。最上級の審査ともなるとただの監査オタクじゃない、ド級のド監査オタクを何人も相手に会計処理の根拠と監査上の対応を作り込んで説明する必要があり、回答までの時間もかかりますので、協議のレベルに応じてクライアントと回答期限を相談しましょう。

クライアントへの回答

 これまでの検討を踏まえてクライアントに回答します。以下に留意点を記載します。

回答は対面+文章で

 回答は対面で、少なくともテレビ会議で行うことをオススメします。理由は簡単で、文章だと顔が見えず相手がこちらの説明を理解できているかどうか分からないからです。俺はちゃんとゆったからね!というスタンスもあるかと思いますが、最終的な目標はクライアントの財務諸表の適正性を担保することですので、認識の齟齬が生じるリスクがあるやり方は控えましょう。
 また、口頭だけだと言った言わないになり揉めるリスクがありますので、口頭で伝えた上で文章でも回答するのがベストの対応です。検討時に文書でまとめていれば、そこからコピペでいけるはずです。

シンプルに回答する

 会計士試験の論述で散々注意されたと思いますが、まずは聞かれていたことを思い出し、それに対して結論と根拠をシンプルに答えましょう。これまでたくさん検討してきているので、つい話したいことや細かいことから話してしまいがちです。そういう回答の仕方をしている人をよく見ますが、かえって伝わりにくいですし、会計オタク臭いのでやめましょう。

その他の気づき事項、留意事項、追加検討事項を伝える

 直接的な回答以外の部分について留意するべき点をクライアントに伝達します。クライアントの担当者は最終的な開示や担当外(税金・キャッシュなど)のことまで考えてないことが多いので、そのあたりまでアドヴァイスできるとオッ、キミやるネェと思われるはずです。
 また、内容によってはクライアント側で追加の検討・対応が必要な事項も出てきます。特に会計上の見積りが絡むような論点については、クライアント側でこういう資料を作る必要があります、という話になることが多いです。事前にしっかりどんな資料が必要かイメージし、認識に齟齬が生じないように説明できるよう頑張りましょう。

おわりに

いかがでしたか?

 なんとなく相談対応の一巡の流れが理解でき、どのあたりに気をつけて仕事を進めればいいのかがわかってもらえたら幸いです。作ったりレビューしたりしなきゃいけない大量の調書とか法人内の原稿とかをほっぽり出して書いた甲斐があり、日本監査業界の行く末を真に憂う者冥利に尽きます。

 ちなみに、散々書いといてなんなんですが、今回は前提として「この会計事象をどのように処理したらよいですか」というのをよくある質問として挙げましたが、ホントはこんな質問されてちゃダメです。「この会計事象をこのような根拠でこのように会計処理しますが、よろしいですか」が本来の姿です。会計処理の検討はクライアントがやるべきものです。
 このあたりについて、二重責任の原則をきちんと理解して監査法人に言及している人は上場企業の経理部員を含めて世間にはロクにおらず、監査法人に過大な期待を寄せる愚かな人類にいつもX(Twitter)で憤っているので、そのうち会社向け監査法人への相談の仕方マニュアルか二重責任の原則の解説記事も書きます。書くかもしれません。書けたらいいな。誰か書いてくれ。頼んだぞ。

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