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イベントレポート:「『近代体操』創刊号「いま、なぜ空間は退屈か」刊行記念トークイベント:「批評/空間のほぐしかた(黒嵜想×福尾匠×左藤青×松田樹)」

2023年1月17日、京都の出町座で『近代体操』の創刊記念イベント「批評/空間のほぐしかた」が行われた。本イベントはCAVABOOKSの協力のもと、批評家の黒嵜想・福尾匠両氏を招き、『近代体操』メンバーである左藤青・松田樹を含めた4人で「空間」あるいは「批評」について議論するというものである。

告知文から、イベントの趣旨を引用しよう。

いま、「空間」は変動しつつある。それに応じて、「批評」も対応を迫られている。東京オリンピックの開催に伴う都市の再整備、コロナ禍、デリバリーサービス/リモートワークの恒常化、メタバースの流行、戦争の勃発……この変動をわれわれはどう考え、どう生きるべきだろうか。もし、この均質で退屈な「空間」が凝り固まりつつあるとすれば、「批評」はそれをどう「ほぐす」ことができるだろうか。

https://cvbks.jp/

イベント当日。開始の1時間前に集まった登壇者4人が待機しているイベントスペースに、徐々に参加者が集まり始めた。出町座3Fのイベントスペースには30人分の椅子が並べられている。イベントは2週間前に決まり、告知も直前に行うこととなった。さらに時間帯は平日の夜。そうした悪条件にもかかわらず、開始時にはほとんどの椅子が埋まることとなった。

イベント開始。かんたんな趣旨の説明と自己紹介ののち、さっそく黒嵜・福尾両氏から近代体操メンバーに質問が投げかけられた。

黒嵜氏からは、「空間/場所」を特集した『近代体操』創刊号に対して、より具体的なレベルでの話を求められた。『近代体操』では読書会を経て雑誌づくりをしている分、理論的な問題を扱った論考が多い。では、具体的にはどのような空間の問題に介入したいのか。

黒嵜氏の関心は、『近代体操』同人における実存的な問題の所在という点にあった。「君たちはなぜ空間を論じるのか」、黒嵜氏との応答をまとめてしまえば、このような問題を中心に議論が展開されたと言ってよいだろう。これに限らず、黒嵜氏はともすれば抽象的になりがちな「空間」や「批評」というイベントのテーマを具体的なレベルに落とし込みつつ議論を進めていった。特に黒嵜氏が関わったというシェアハウスの話は興味深く、ある種の「空間」がどのように形成されているかというテストケースの紹介といった意味合いもあったのではないかと思われる。

こうした黒崎氏の問いに、左藤・松田も自らの実存と結びつけながら応答していく。郊外としての生まれ故郷、大阪府枚方市。バックヤード化していく自分たちの街に対する問題意識。『近代体操』同人にとって、空間の非-場所化の問題は決して抽象的な話ではなく、肌感覚として体感されているものであった。

一方福尾氏からはより形式的・抽象的な、雑誌の作り方そのものに対する指摘があった。『近代体操』は1年間の読書会を通してコンセンサスを作り、その上で各自の論考執筆に入っている。そうした方法により各論考のゆるやかな連続性のようなものが担保されているのだが、福尾氏は「この雑誌がこのメンバーで作られていること」が自明でありすぎることを問題視する。そうした自明性は、「このメンバーが集まりこのテーマで書くことになった」という偶然に対する批評的な意識を欠くのではないか。福尾氏のこうした指摘は、まさに雑誌が「雑」であるとはどのような意味をもつのかということを問うものでもあっただろう。

それをうけ、『近代体操』メンバーは改めて雑誌の作り方から説明していく。多くの雑誌と同じく『近代体操』も特集主義であるが、「単に人を集めただけ」といった体の特集や論集に対するアンチテーゼとして、グループで時間をかけて誌面を作っている。そうして築かれるコンセンサスの上に、さらにそこから改めてそれぞれの個性がどう立ち上がっていくかが、今後の雑誌の課題となるのかもしれない。

また、登壇者の多くが批評の書き手であると同時にアカデミアに所属する研究者でもある。イベント後半では、批評そのものを、あるいは批評と研究との関係をどのように考えるかという、原理的な問題も話題になった。批評も学問も、もはやかつてのような権威性を失っている。そうした環境の中で批評を書き、研究を行うこと。そこにどのような自分なりの意義を見出していくかが、今後ますます問われることになるだろう。

個人的には、批評をやっていく中で友達をなくしてはいけないという福尾氏のアドバイス(感慨?)が印象に残った。批評にのめり込むと、ついつい親しい人々の発言も批判することが誠実さのように感じてしまう。もちろん議論や論争はあってしかるべきだが、ラディカルであろうとするあまり同伴者を失っていくとするなら、それはやはり不幸な話だろう。

イベント終盤、フロアからの質問でも『近代体操』メンバーに数々の質問が寄せられた。最後まで応答の途切れることのない、熱気にあふれた2時間半だった。この熱気は、今後の『近代体操』に寄せる期待を反映したものでもあったろう。それは裏返しに、『近代体操』という雑誌が今後期待に応えられるか試されていくということでもある。

2023年2月から『近代体操』は「聖なるもの」をテーマに新たな読書会をスタートする予定である。『近代体操』2号を期待へのアンサーとして示せるよう、誠実に雑誌作りに取り組んでいきたい。

なお、創刊号の際と同じく読書会はある程度オープンな形で行っており、外部からの参加者も募集している。第1回は2023年2月18日。ぜひ多くの方にご参加いただきたい。

(文責:『近代体操』同人・武久真士)


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