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「子どもが不登校になったらどうしたらいいの?」

みなさん、こんにちは、初めまして!今回のすくナビの担当は西野です。

今回は“教えて!近大先生〜不登校編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問です。

「夏休み明けから、中学1年生の息子が学校に行かなくなりました。どうすればいいのでしょうか?」

早速ですが、結論から言います。

「子どものこころのエネルギーを回復させることが大切ですが、最終目標は登校させることではなく、将来自立して社会生活できるようになることと考えて、焦らずに見守っていくことも大事です」

となります。
こうお答えした理由を3つに分けて説明します。

1.  不登校はこころのエネルギーの喪失が原因です。

2.  登校させる取り組みも必要ですが、時間がかかる場合もあります。

3.  不登校自体でもこころのエネルギーが消費されるので、こころのエネルギーを回復させる日々の心がけが大切です。

それぞれについて詳しく説明して行きます。

1.  不登校はこころのエネルギーの喪失が原因です。

まず「不登校」とはなにかについてです。
「不登校」とは子どもの状態を示す言葉であり、診断名ではありません1)。「子どもが登校しない、あるいは、したくてもできない状況」が「不登校」という状態です。
ここで不登校になったときにどうすべきかを説明する上で必要な`こころのエネルギー`についてお話します。
`こころのエネルギー`とは「自己肯定感や基本的な安心感を土台とした、様々なことに前向きに取り組むためのエネルギー」のことです。こころのエネルギーは日々の活動で消費され、ゆっくり休んだり楽しいことをしたりすることで補充されます。日々の生活ではエネルギーは少ししか消費しないので、一晩休めば回復します。しかし、テストや部活が忙しくてなかなか休めなかったり、ともだちとトラブルが続いたりすると消費するエネルギーが増えます。この場合でもともだちや家族などの励ましや気晴らしに遊びに行ったりすることで回復します。しかし消費が続き回復が間に合わなければイライラ感や不安、焦りなどの感情が強くなっていき、少し長めの休養が必要になります2)。

不登校とは、あるときなにかがきっかけで ‘こころのエネルギー’を回復できないほど失ってしまい、学校に行けなくなる状態です。不登校になる子どもは先生からの注意やともだちとの喧嘩といった単発のトラブルだけで不登校になるのではなく、色々なことの積み重ねによってこころのエネルギーが消費され続けた結果、不登校になるのです。

2.    登校させる取り組みも必要ですが、時間がかかる場合もあります。

不登校になる前段階には「頭が痛い」などの身体症状を訴えて登校を渋ることがよくあります。診察や検査を受けても身体的な異常が見つからない場合、「何か病気があるはずだ」と受診を繰り返すよりも、子どもが学校に行きたくないと思っていることを受け入れた方が良いでしょう。こころのエネルギーの低下が少しであれば、「無理に行かなくてもよい」と伝え、子どもの話をしっかり聴いたうえで励ますことで、すぐに登校できるようになり、また登校を続けるなかで回復していく場合もあります。しかし、学校に行かせようとすると強く抵抗する場合には、こころのエネルギーが大きく低下しているので、しばらく休ませることにします。
この時期、こどもはどうしたらいいのか混乱しており、「こんな自分は誰にも合わせる顔がない」と感じて部屋にこもって、家族とさえ関わりを持とうとしません。そのような状態でも学校に行けないことを責めず、「見捨てていないよ」というメッセージを伝えるために「おはよう」「おやすみ」「一緒にごはん食べない?」などドア越しでも、聞いていなくてもいいので毎日声をかけ続けることが大切です。そのうち時間が経つと少しずつこころは落ち着きを取り戻していき、自分の部屋から出てきて家族と会話をしたりと食事をしたりと、関わりを持ち始めます。この時期のこころのエネルギーを貯める場所は家なので家の`居心地`をよくする必要があります。注意が必要なのは、ここでの居心地のよさというのは「好きな時間に起きて、好きな時間に寝て、好きなものだけ食べて、欲しいものはなんでも与えられる」という「好きなことが許される」という居心地のよさではありません2) 3)。「食べる」「寝る」という生物としての基本的なことを規則正しく行うことができる環境、家族から受け入れられているという‘安心感‘を得ることが、ここでの居心地のよさです。居心地をよくして家で休養させ、少しずつこころのエネルギーが貯まれば、子どもは家の中だけの生活に飽きて、外に目を向けるようになります。はじめは夜の散歩やコンビニへの外出程度ですが、その繰り返しからエネルギーが少しずつ蓄積され、継続的な外出や家族以外の人との関わりがとれるようになります。家にいる間は家族からしかエネルギーを受け取れなかったものが、外に出て家族以外の人とも関わるようになると、その人たちからもエネルギーを受け取り、こころのエネルギーが十分に回復していきます。エネルギーが十分に回復し、子どもが力を取り戻してきたらはじめて少しずつ再登校を促すようにします。学期や学年の節目に「そろそろ今後のことも考えて動き始めたらどうかな」と声をかけます。学校には行きたいけれど、不安で教室に入れないのであれば、保健室などへの「別室登校」をすすめます。今の学校には戻りたくないのであれば、少人数で不登校のこどものこころの傷つきやエネルギーの低下を理解した上で対応してもらえる適応指導教室やフリースクールなど社会復帰への準備を行うのもひとつの選択肢です。復帰に関しては必ず事前に子どもの意向を聞くようにして、その約束を越えて先に進んだり無理矢理行かせたり、怒ったりしないことが大切です。子どもは「遅れていくのは嫌だから、行くなら朝から行く」と言うかもしれませんが、これはこどもの心の準備ができていない証拠で、まだ登校の時期ではないので無理をさせてはいけません。最初はあくまでリハビリ期間であり、1時間以内からはじめ、最大でも4時間程度が妥当です。その後、教室と別室を行き来できるようになれば、少しずつ増やしていくことで、元通りの学校生活が送れるようになっていきます2) 。

3.  不登校自体でもこころのエネルギーが消費されるので、こころのエネルギーを回復させる日々の心がけが大切です。

体調を崩したことが原因の場合も、いじめや友だちとのトラブルが原因の場合も、勉強がわからなくて学校がつまらない場合も、ただ学校がめんどうくさいという場合も、非行がきっかけで行かない場合も、学校に行けないことで基本的な安心感や自己肯定感が失われて、‘こころのエネルギー‘が低下し、自分の将来に対して希望を持って意欲的に生きることができない状態になっているのです。そのため、子どもが動き始めるきっかけを見つけるためにも、できることを探して少しずつ取り組ませる、家に引きこもらず少しでも一緒に外に出かけることで子どものこころのエネルギーを回復させることが大切です2)。それと同時に不登校の子どもの最終目標が再登校ではなく、子どもが`こころのエネルギー`を回復させ、大人になったときに、社会の中で自立して生活できるようになることであるということを理解し、焦らずに見守っていくことも大切なのです2) 3)。

ここまでの説明で「子どもが不登校になったらどうしたらいいの?」の回答が「子どものこころのエネルギーを回復させることが大切ですが、最終目標は登校させることではなく、将来自立して社会生活できるようになることと考えて、焦らずに見守っていくことも大事です」となった理由がご理解いただけたでしょうか。

近畿大学病院小児科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。

参考文献:
1)    日本小児心身医学会. 小児心身医学会ガイドライン. 南江堂, 2015, pp. 87-116.
2)    小柳 憲司. 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた. 新興医学出版社, 2020, pp. 85-99.
3)    日本小児心身医学会. 初学者のための小児心身医学テキスト. 南江堂, 2021, pp. 282-290.


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