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「ニュースで見たのですが、食物アレルギーのこどもって増えているのですか?」

皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、アレルギー担当の竹村豊です。
 
今回は“教えて!近大先生〜アレルギー編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問です。

「ニュースで食物アレルギーのこどもが増えていると聞きました。本当ですか?本当だとしたら、なぜですか?」

早速ですが、結論です。

「この20年間で食物アレルギーのこどもが増えたのは間違いなさそうです。その原因は明らかでありませんが、アトピー性皮膚炎の関与、花粉食物アレルギーの増加、日本人における新たに注目すべきアレルゲンの出現などが要因として考えられます。」

となります。
この結論にいたった理由について3つにわけてお話しします。

 1. 最近の調査によると学童期の食物アレルギーは増加している

2. 幼児期では令和に入って減っているかもしれない

3. 皮膚炎の関与、花粉食物アレルギーの増加、木の実類アレルギーの増加が原因かもしれない

1. 最近の調査によると学童期の食物アレルギーは増加している

先日、一般の新聞に「食物アレルギーの児童増加」という見出しで記事が掲載されました。公益財団法人日本学校保健会が9年毎に行なっている「アレルギー疾患に関する調査報告書」[1]が公表されたのを受けての報道です。今回の報告書で、最も注目されたのが下の図です。

これは、平成16年度、平成25年度、令和4年度に行われたそれぞれのアレルギー疾患の有病率をまとめたものです。上から2つめの食物アレルギーをみると、平成16年度の有病率は2.6 %でしたが、平成25年度に4.5 %、そして最新の令和4年度では6.3 %と増加しているのがわかると思います。
なお、重篤なアレルギー症状が誘発されたときの治療に使用できる自己注射薬「エピペン」の所持率は全体で0.48%でした。内訳は小学校では0.57%、中学校が0.43%、高校が0.3%と成長とともにその所持率は低下していました。ちなみにエピペンは、ちなみにエピペンは、すくナビのInstagram「医療用語解説(https://www.instagram.com/p/CwFjY9SppRO/?igshid=MzRlODBiNWFlZA==)」で解説をしているのでご覧ください!
原因食物(アレルゲン)は、卵が最も多かったです。これは、多くの調査結果で共通しています。しかし一般に卵に次ぐ2番目に多いアレルゲンは牛乳ですが[2]、この調査で牛乳は果物類、甲殻類、木の実類に続く第5位でした。学童期のアレルギーでは果物がとても多い、とも言えますね。

2. 幼児期では令和に入って減っているかもしれない

日本において、食物アレルギーの有症率を経時的に調査した報告は多くありません。代表的なものが前章で述べた学校保健会の調査と、東京都で行われている「アレルギー疾患に関する3歳児全都調査」です[3]。この調査は都内で3歳児健康診査の受診者を対象に、無記名による自記式調査票を配布して、郵送またはWebの入力フォームにより回答を得ています。
その結果を以下に示します。食物アレルギーの有病率は、平成11年度以降、平成26年度までは7.9%→8.5%→14.4%→17.1%と続けて増加していましたが、令和元年度は初めて14.9%へ減少しました。

令和に入って減少した原因は、この調査では言及されていません。いくつかの可能性があると思われますが、筆者は調査対象者の年代ではないかと思います。すなわち、先の学校保健会の調査では対象者が学童期であり、東京都の調査では対象者が3歳児であるということです。
3歳児の食物アレルギーは、ほとんどが乳児期に湿疹があり、卵、牛乳、小麦をアレルゲンとするものです。今回は詳しいお話はしませんが、これらの食物アレルギーに対する対応方法は、この20年間で大きく変化しました。変化を簡潔に述べると、湿疹(アトピー性皮膚炎)を適切に治療することで食物アレルギーを減らすことができることがわかったり、アレルゲンとなり得るものも遅滞なく摂取を開始することでむしろ食物アレルギー発症を減らすことがわかったり、といったものです。これらの変化が、3歳児の食物アレルギーを減少させた可能性があると考えられます。しかし、これらはあくまで筆者の推測の域をでません。
ここで言えるのは、少なくとも東京都では3歳児の食物アレルギーは、平成の終わりから令和にかけて減少したということです。

3. 皮膚炎の関与、花粉食物アレルギーの増加、木の実類アレルギーの増加が原因かもしれない

ここで、今回の本来のテーマである学童期の食物アレルギーに話を戻します。これが増えた明確な理由はわかっていませんが、筆者は以下の3つの可能性を考えています。
①     経皮感作の増加と皮膚炎を理由とした離乳食開始の遅れ
②     花粉食物アレルギー(口腔アレルギー症候群)の増加
③     クルミアレルギー(木の実類アレルギー)の増加
まず①については、第2章でお話した内容を覆す様ですが、いま学童期を迎えているこども達が乳児であったときには、今ほどの知見はありませんでした。そのため、不適切なスキンケアや食事指導をされていた方の割合が今より多かったと思われます。この考えが正しければ、次の学校保健会の食物アレルギー調査では、少なくとも卵、牛乳、小麦のアレルギーは減少しているはずです。
次に②ですが、これも詳しくお話すると1つのテーマくらいのボリュームになるので、ここでは簡潔にお話します。花粉食物アレルギーとは、口腔アレルギー症候群とほぼ同意義で、学校生活管理指導表では「口腔アレルギー症候群」と記載されています。このタイプのアレルギーは、先に花粉症になることにより、その花粉のタンパク質と同じ様な形をもつ果物や野菜にもアレルギー反応を生じます。代表的な果物はモモやリンゴ、スイカやメロンなどです。小児の花粉症の有病率は高くなっていることが報告されている[4]ため、このタイプの食物アレルギーの増加に関与します。また、花粉症は3歳児に比べると、学童期の方が多いです。実際に第1章の最後に触れた通り、学校保健会のアレルゲン別有病率で、果物は卵に次ぐ第2位でした。これからも、このタイプのアレルギーは増加するかもしれませんね。
最後に③は、過去にこのすくナビでも扱ったテーマなので、詳しく知りたい方は是非そちらもお読みください(https://note.com/kindai_ped/n/n788e338c4b9e)。簡潔にまとめるとこの10年間でクルミを中心とする木の実類アレルギーだけが、日本で急増しています。さらに、初発のアレルゲンとして、木の実類は乳児期以降に増加することがわかっています。下の表[2]は年代別の初発アレルゲンを示したものですが、1歳から17歳では、木の実類が1位、2位にあることがわかります。

さらに、木の実類アレルギーは一般に自然寛解(特に治療をしなくても自然に治ること)する割合が卵や牛乳に比べると低いです。他方で、木の実類以外の食物アレルギーが減っているわけではないので、結果として学童期の食物アレルギー児童・生徒の総数が増加しているものと考えられるのです。
 
ここまでのお話で、「ニュースで見たのですが、食物アレルギーのこどもって増えているのですか?」の回答が「この20年間で食物アレルギーのこどもが増えたのは間違いなさそうです。その原因は明らかでありませんが、アトピー性皮膚炎の関与、花粉食物アレルギーの増加、日本人における新たに注目すべきアレルゲンの出現などが要因として考えられます。」
とお答えした理由がご理解いただけたでしょうか。
この様な話を直接聞きたい、という方は近畿大学病院小児科を受診してください。また、受診の希望はないけど、ご質問やご意見などがあれば、このブログにコメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。
 
近畿大学病院小児科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。

竹村 豊

 [1] アレルギー疾患に関する調査報告書(https://www.gakkohoken.jp/books/archives/265)
[2] 令和3年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf)
[3] アレルギー疾患に関する3歳児全都調査(令和元年度)(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/allergy//pdf/20203saiji_1.pdf
[4] 岡野光博他、鼻アレルギー診療ガイドライン2020

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