見出し画像

「果物を食べたら口がかゆくなりました。アレルギーですか?」

皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、アレルギー担当の竹村豊です。
 
今回は“教えて!近大先生〜日常生活編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問です。

 「果物を食べたら口がかゆくなりました。アレルギーですか?」

 

早速ですが、結論です。

「食べたのがモモ、リンゴ、スイカ、メロンならPFASというアレルギーの可能性が高いです。しかし、キウィやパイナップルなどを食べた場合、アレルギーではない可能性もあります。」

となります。
この結論にいたった理由について3つにわけてお話しします。

1. 果物の成分でかゆみを感じることがある。

2. 花粉症から発症する果物アレルギーがある。

3. 加熱したら食べられることが多い。

1. 果物の成分でかゆみを感じることがある。

果物や野菜の中には、アレルギー様の症状(触れた部位のかゆみなど)を起こし得る様々な生理活性物質が含まれています。キウィやパイナップルには「セロトニン」という成分が含まれています。実はセロトニンは、それ自体がかゆみを引き起こす物質なのです。果物や野菜にはその他にも、以下の様な生理活性物質が含まれます(図1)。

図1 アレルギー様の症状を起こす生理活性物質 (※生理活性物質→それが含まれる果物や野菜)

では、食物アレルギーと、この「生理活性物質」とは何が違うのでしょうか。食物によって身体に困った症状がでているので、アレルギーと言っても問題がなさそうですよね。
実は、食物アレルギーと診断するためには
①   食品によって、身体に困った症状がでる
②   その食品に対して免疫の反応を起こす抗体が存在する
の2つの条件が必要なのです。
①だけを満たして、②がない状況のことを「食物不耐症」と言います。先ほどお話した生理活性物質による症状もこの食物不耐症に含まれます。食物不耐症には他に、牛乳をのんで下痢をする「乳糖不耐症」も含まれます。この状態については、過去に我々のすくナビでブログを書いているので興味があればご覧ください[1]。

2.花粉症から発症する果物アレルギーがある。

前の項でアレルギーと呼ぶためには、その食品に対する「抗体」が必要ということを説明しました。アレルギーが起こるときに働く抗体のことをIgE抗体と言います。これについても、以前の乳糖不耐症のブログで説明しましたが、大切なことなので、ここでも同じ説明をします。笑
IgE抗体というのは、アレルギーを起こす細胞の表面にくっついて、原因食品(アレルゲン)が入ってくるのを待ち構えるアンテナの様な働きをしています(図2)。そしてIgE抗体は、原因食品(アレルゲン)とくっつくと(下図①)、アレルギーを起こす細胞からヒスタミンを代表とするアレルギー物質が放出されます(下図②)。

図2. IgE抗体の働き

このアレルギー物質が体中に不利益な症状を引き起こします。不利益な症状とは、口のかゆみだけでなく、咳やゼーゼーなどの呼吸器症状や、腹痛や下痢・嘔吐などの消化器症状がでることもあります。
ここから先は、以前の乳糖不耐症のブログではお話していない内容です。そもそもこのIgE抗体は、原因食品のみに反応する様になっています。具体的に言うと、鶏卵に反応する抗体をもつ鶏卵アレルギーの方は、牛乳をのんでもアレルギー症状を起こさない、ということです。しかし多くの果物アレルギーでは、先に花粉に対するIgE抗体が体の中でできて、その花粉と同じ様なタンパク質をもつ果物を食べたときにアレルギー反応がでる、という少しおかしなことが起こるのです。上の図で説明をするなら、果物がくっつくIgE抗体はもともと、その果物に対して反応する様につくられたものではなく、ある種の花粉に対して反応する様につくられたものである、ということです。この様に、本来と異なる原因物質に反応する現象を「交差反応」と呼びます。交差反応する「花粉」と「果物・野菜」には以下の図3の様な組み合わせがあります[2]。

図3. 交差反応する花粉と果物・野菜の組合せ

この様な花粉症になることで、果物・野菜の食物アレルギーになる状態を花粉 – 食物アレルギー(PFAS, Pollen food allergy syndrome)と言います。PFASは「ピーファス」と呼ぶことが一般的です。症状は口周囲の粘膜面に限定されることが多いため、口腔アレルギー症候群(OAS, Oral allergy syndrome)と呼ぶこともあります。ちなみにOASは「オーエーエス」と呼ぶことが多いです。このPFASとOASは病気の症状や成り立ちから、厳密に同じというわけではありませんが、現在ではほとんど同意義と考えられています。
花粉症は赤ちゃんより成人の方がかかっていることの多い病気です。そのためこのPFASという食物アレルギーは、乳幼児より学童期の方が多いです。以前に我々の施設で、小児の果物アレルギーについて調べたところ、原因としてモモ→リンゴ→キウィ→メロン→スイカの順に多かったです。この内、キウィを除くモモ、リンゴ、メロン、スイカはPFASであることがわかりました。一方で、キウィアレルギーは乳幼児期に多く、PFASではない一般的な食物アレルギーである可能性が高いと考えられました[3]。キウィは1項で説明した生理活性物質として症状がでることがあり、実際には判断が難しい場合もあります。このどちらかを判断するには、IgE抗体の関与を確認すると良いです。確認の方法は、医療機関で原因となる花粉と果物・野菜のIgE抗体の数を血液検査や、皮膚テストで調べます。IgEがあればアレルギー、なければ生理活性物質、と言えます。ただし時にIgEがあってもアレルギーでない場合もあります。担当医と相談してそれ以上の検査を行なうかどうか決定してください。

3. 加熱したら食べられることが多い

さて、ここまで果物や野菜を食べたあとにかゆくなったりピリピリしたりしたときには、生理活性物質による場合と、アレルギーによる場合があることをお話ししてきました。そして、アレルギーの場合には、花粉症をきっかけに発症するPFASが多いことも説明しました。では、PFASと診断されたら、どの様に対処したら良いのでしょうか。
実は、残念ながらPFASを完治させる治療法や治療薬は開発されていません。そのため、PFASと診断されたら
①適切に除去する
②誘発症状時の対策を立てる
の2つを行います。
①の適切な除去ですが、通常の食物アレルギーと異なり、ひとつの食品だけ除去するだけでは不足があるかもしれない点と、年を追うごとにアレルゲンが増えるかもしれない点に注意が必要です。通常の食物アレルギーでは、たとえば鶏卵アレルギーがあるからといって鶏肉を除去する必要はありませんし、ましてや牛乳を除去する意味はありません。しかし、PFASではモモで発症したらリンゴでも症状がでるかもしれません。また、今年は食べられた果物が来年にはかゆくなるかもしれません。この点がPFASを管理する上で厄介な点です。特に果物は、季節毎で食べられる種類が変化します。旬の時期がやってきたら、すでにわかっているパターンの花粉症で予想される果物や野菜を食べるときに、はじめは少しずつ食べてみるのが良いと思います。PFASでは原因食品を食べて1-2分で口や耳などがピリピリしたりかゆくなったりしますので、判断はそれほど難しくありません。
②の誘発症状時の対策は、抗アレルギー薬を内服します。ただし、薬を内服してから効果がでるまでに30分くらいかかるので、1-2分で症状が出始めるPFASでは、症状を素早く治す有効な治療とは言い難いです。他方で一般に「アナフィラキシー」と呼ばれる時に生命の危機に陥ることもある様な強いアレルギー症状がでることは少ないです。しかし、一部の方や一部の食品では重篤化することもあり、その場合には内服薬以外の治療薬を備える場合もありますので、担当医と相談なさってください。
有効な根治療法のないPFASですが、加熱をすることでアレルギーを起こしにくくすることができます。例えば、リンゴジャムやトマトソース・ケチャップなど、加熱されたものは食べても症状がでないことが多いです(図4)。

図4. 加熱による低アレルギー化

ブナ目の花粉症になった方の中には豆乳にもアレルギーを起こす方がいます。しかし、その内のほとんどの方は豆腐や醤油など加工された食品は食べられます。なお、豆乳のPFASは比較的強い症状がでる場合が多いとされ、診断されたら注意が必要です。
 
ここまでのお話で、「果物を食べたら口がかゆくなりました。アレルギーですか?」の回答が、「食べたのがモモ、リンゴ、スイカ、メロンならPFASというアレルギーの可能性が高いです。しかし、キウィやパイナップルなどを食べた場合、アレルギーではない可能性もあります。」とお答えした理由がご理解いただけたでしょうか。
この様な話を直接聞きたい、または果物や野菜を食べて何らかのアレルギーが疑わしい症状がすでにある、という方は近畿大学病院小児科を受診してください。また、受診の希望はないけど、ご質問やご意見などがあれば、このブログにコメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。
 
近畿大学病院小児科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。

竹村 豊

参考文献:
[1] note「すくナビ、乳糖不耐症」https://note.com/kindai_ped/n/n5d1a7b2e5303
[2] 海老澤元宏他、食物アレルギー診療ガイドライン2021
[3] Takemura Y et al. Asia Pacific Allergy 2020, 10. e9


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?