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個性学③:道はひとつじゃない[迂回路の原理]

ゴールに至る道は一つではない。
そう聞いて、当然だと感じる人は多いだろう。

しかし、頭では分かっていても、心から納得するのは難しい。
今回の記事は、以下の本を参考にしつつ、心理的納得感を高めることを目的として書いた。


道はいつだってひとつじゃない

赤ちゃんの発達経路は千差万別。

歩くという動作は、人類共通の行為だ。
ゆえに、研究者は60年近くの間、歩くまでの過程にも共通のプロセスが存在すると信じてきた。
いわゆる典型的な子供は、平均的な発達過程を辿るはずだという前提があった。その前提を疑った人間が、カレン・アドルフという科学者だった。

アドルフは、赤ん坊が歩くまでの発達段階を調べた。そして、複数の段階(腹這いや高這いなど)を同時に経験する子供、先に進んだかと思えば逆戻りする子供、途中の段階を省略してしまう子供など様々なタイプがいることを発見した。

たとえば、「腹這い」は幼児が歩くまでの過程で避けては通れないものとされてきた。しかし、アドルフの研究対象になった幼児の半分近くが全く腹這いをしなかったのだ。


癌の成長経路も、ひとつではない

結腸ガンは世界で最も患者数が多いガンで、死亡率も高いとされている。何十年もの間、結腸癌が発生して進行する過程は「標準的な経路」があると思われてきた。その経路は、結腸癌の患者データを広い範囲から集め、その結果を平均したものだった。

しかしやがて、研究者たちが個々の患者に注目したとき、意外な結果に驚いた。結腸癌の実例のうち、標準的な経路に該当するのは全体の7%に過ぎなかった。一口に結腸癌といっても様々な形があり、どれも独自の成長経路を辿っていたのだ。癌の成長に標準的な経路が存在するという思い込みによって、重要な事実が隠されていたのだ。

複数の経路が確認されると研究も大きく進展し、早期発見につながっただけでなく、特殊なパターンに対応した薬も開発されるようになった。


一直線な教育の弊害

仮にあなたがゴールまでの道が1つしかないと信じているなら、どれだけ進歩しているか評価する方法も1つしかない。各段階に到達するまでのスピードを比較すればいいのだ。道が1つしかないなら、より速く習得したものはより優れていると判断される。

「飲み込みの早さ」が評価される背景には、こういった価値観が影響していることだろう。神童という言葉にも、早さ=才能という価値感が反映されている。

しかし、スピードと学習能力のあいだに関連性がないとしたら、どうだろう。今の制度では、飲み込みが早い生徒が評価されることが多い。同じ頭の良さでも、飲み込みが遅ければ授業についていけず、振り落とされてしまう。

逆に、スピードと学習能力に相関が無いとすれば、どうだろうか。制限時間を設け、問題を解くスピードを評価する方法は、正しいのだろうか。じっくりと取り組ませて、内容で評価するべきではないのか。

ベンジャミン・ブルームは、学習ペースを固定したグループと、学習のペースを生徒に任せたマイペースグループに分け、各グループの学習成果を比較した(1980年)。

従来の固定された学習ペースで学んだグループは成績優秀者が20%だったのに対し、マイペースグループは80%だった。

学習するペースに僅かな柔軟性を持たせるだけで、ほとんどの生徒が成績を大きく向上させたのだ。それ以後も様々な手法で実験が再現されてきたが、常に同様の結果が得られた。

これらの結果から、学習速度と学習能力を同一視するのは間違っている可能性が高いと言える。たとえ時間がかかろうが、最終的に問題が解ければいいではないか。運転免許証に、取得までにかかった時間は記されているだろうか。最終的に達成できれば、飲み込みの速さは本来は気にしなくていいはずなのだ。

迂回路の原理

人間の体、精神、モラル、職業など、いかなるタイプの成長についても、たった一つの正常な経路など存在しない。
この事実から個性の第三原理である、迂回路の原理が生まれた。

1.人生のあらゆる側面において、ゴールに辿り着く方法は一つでない。
2.最適な経路は、個性によって決定される。

人間は個性にバラツキがあり、しかもそれはコンテクストに左右されることを、過去の記事で説明してきた。
進歩の速度も、結果に至るまでの順序も、異なるのが当然なのだ。

自信満々に自分のサクセスストーリーを披露し、それを他者に当てはめて上から指摘してくる上司や知人は、きっとあなたの周りにもいるだろう。

そんな人には人差し指を向けてこう言おう。

「ゴールに至る道はいつも複雑で、お前の話は当てにならない!」

 Aさんにとっての成功ルートは、Bさんには当てはまらない。当然、逆も然りだ。

人は誰しもが、行く人の少ない道を歩んでいるのだ。

ここ最近、旅行などもありけっこうサボってしまったので、なんとなく筆が鈍っている気がする。
精進します。
乞うご期待。

過去の記事


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