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人見知り発動!

過日。大好きなスーパーマーケットに行った際、店内においてそれほど仲の良くない知人とバッタリ再会した。正確には向こうが気づいてくれた。

「これはご無沙汰しております。こんな偶然があるのですね」
知人の芥さんが驚きながらも声をかけてくれた。坊主頭で上下白色のジャージを着ている芥さん。

「これは芥さん。気づかずに失礼しました。息災でしょうか?」
すると芥さんはゆっくりと頷いた。どうやら元気だったようだ。

友人と飲んでいる席で、途中から芥さんが参加されて一緒に飲んだ記憶がある。確か2回ほど。だけどまさかこんなところで再会するとは思いもしなかった。

だから、けっこう気まずい。

それにここはスーパーマーケットのお肉売り場。店内で一番奥まっている場所。出口までも厠までも遠い。
ってか、すでに僕の人見知りが発動しているのかも知れない。

芥さんのかごの中には、白菜、豆腐、葱、椎茸が入っている。
「あ、芥さんは今宵、豚しゃぶでも拵える算段でしょうか?」

すると芥さんが首を左右に振った。

「いいえ。今宵は湯豆腐でございます。お肉は週に3日ほどしか摂取しません。お恥ずかしながら、年々お肉の脂がキツくなってきましてね…」
芥さんが俯いた。

確か芥さんは齢35.6のはず。和牛の霜降りなら分かるけれども、豚肉くらいならまだイケるでしょう。

「TAKAYUKIさんの今宵の肴はなんでしょう」
芥さんに言われた僕は、慌てて籠を見た。何も入っていなかった。

今宵はお惣菜のみ購入し、〆は冷蔵庫に入っている白米を利用してチキンライスを拵える算段だったのだ。

つまり、店内に入ったら一目散にお惣菜コーナーに行けば良かったのを、いつもの習慣で野菜売り場から通ってきたので、こうして芥さんと再会してしまったのである。

僕が言葉に詰まっていると、芥さんが口を開いた。
「もし良ければ、我が家に来ませんか? 嫁と子供がおりますけど………」
芥さんがニヒルな笑みを浮かべた。

いやっ。それは偏見だ。芥さんは凄く素敵な笑みを浮かべたのだ。

しまった。僕の持っているかごの中が空っぽだったので、気をきかせて芥さんが誘ってくれたのだ。せめてかごの中に蛸や鱈、烏賊めしでも入れておけば良かった。

だけど、ちょっと待ってくれ。

確かに芥さん、君とは2回飲んだ。だけどそれは僕の友人たちがいて初めて成立したこと。
それが数ヶ月ぶりにスーパーマーケットの店内で再会し、しかも現状は初となる2人きり。それに僕はすでに人見知りが発動していると言うのに、さらに我が家に招待し、嫁と子供に引き合わせる算段ではないか。

これはいくらなんでも無謀過ぎやしないか?

人見知りのレベルを超えて、もはやほぼ見知らぬ中年男性の自宅に突撃して行くようなもの。

過去に『突撃隣の晩御飯』っていうテレビ番組があったけどサ。

僕が沈思黙考している中、芥さんは僕を凝視している。狙った獲物は逃がさない、そんな目つきに見えてきた。

僕は咳ばらいをしてから言った。
「お誘い誠に感謝します。ですが僕は今宵の肴をすでに拵えておりますゆえ、大変申し訳ございませんが、また次回にお誘いいただければ………」

「何と弱気なことを申されるのです。肴を食べて飲んでから、自分に連絡をくれれば良いです。妻に迎えに行かせますから」
芥さんが破顔した。先ほど勘違いしたニヒルな笑みではなく、とても人なっこい笑顔だ。

これは参った。
そんな事を言われては、ゆっくり晩酌できないし、酔いにかまけて参加するのは良いけれど、迎えに来てくれると言うことは送ってくれるのか、それとも「TAKAYUKIさん、寝床をご用意致しました。おやすみなさいませ」なんて言われたらどうすれば良い?

僕はMy枕ぢゃないと眠れないのだ。あとふんわりとした毛布もないとネ!

「されど………今宵の急展開は僕の範疇を超えております。どうか日を改めては如何でしょうか」
僕は懇切丁寧に芥さんに語りかけた。

「それでは明日はどうでしょうか。土曜日の夜。大いに飲めましょうぞ!」

また芥さんが破顔した。もはや芥さんの笑顔が眩し過ぎて、僕はもう芥さんの目が見られない。陽気で有名な南国ブラジルの方々も、こんな笑顔とテンションなのだろうか。これは疲れる。

ってか、どんだけ僕と飲みたいのだろうか。それなら2回会った時になぜ、LINE交換をしなかったのだろう。
それに僕はいくら酔ったからって、自分から喋る方ではない。どちらかと言えば、月を愛でながら、野良猫をモフりながら、チビチビと飲んでいたいのである。

もしかしたら、芥さんは飲む口実が欲しいのかも知れない。例えば奥さんが恐妻家なので普段は飲ませてもらえないけど、外で飲んだり家に招く時は奥さんが寛大になるのかも知れない………。

「ごめんなさい!」
突然、僕と芥さんの間から、かごを持ったおばさんが通過して行った。

「これはうまそうじゃ…」
次いで後ろに手を組み、おそらく買う権限のない、おじいさんも通過して行った。

僕の身体が熱くなりました。
普段、店内において僕が一番腹立つ行動を、いま自分が行っているのだと、この時初めて気づいたのです。

さらに僕は恥ずかしさのあまり、叫びたくなるのを堪えます。

すると、芥さんの事がどうでも良くなったのです。いま僕の恥ずかしと言う熱量に対し、芥さんの存在など、皆無に等しいと感じたのです。

だって、たった2回しか会ってないじゃん。この先友達になる保証もないし、きっと友人なくしては僕の方からコンタクトを取ることは七度生まれ変わってもないでしょう。

ちょっと言い過ぎかナ?

開き直った僕は、芥さんにこう伝えました。
「やっぱやめときます。再度友人を交えて飲みましょう。ではでは」

僕は軽く会釈をすると、お惣菜コーナーに向かいました。
去り際、芥さんはこの世の終わりのような表情をしていました。

ごめんなさい、芥さん。

僕は極度の人見知りなのです。すんまそん!


自宅に帰った僕は疲労困憊。


風呂から上がると、蛸の天婦羅を肴に飲み始めました。


窓を開けると、満月が………。


野良猫の鳴く声も聞こえます。


「やっぱ、これが一番だね」


僕は満月が見えなくなるまで、飲み続けました。



【了】


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