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読書記録9「殺人者」

あらすじ

大阪で相次いだ猟奇殺人。被害者はいずれも男性で、ホテルで血まみれになり死んでいた。フリーのルポライター木部美智子は、警察に先んじて「謎の女」の存在に気づく。綿密な取材を続け女の自宅へと迫る美智子。だが、そこでは信じられない光景が待ち受けていた。そして、さらなる殺人が発生し・・・・事件の背景に隠された衝撃の真実は!?承認欲求、毒親、嫉妬などの心の闇を描く傑作長編。

「殺人者 望月諒子」

感想

本屋の店員さんの「イチ押し」コーナーに「蟻の棲み家」と共に並べられていた本です。
店員さんの推薦文もさることながら、初めの数ページをめくると、ページごとに印象に残る言葉がたくさんちりばめられていたのも購入するきっかけになりました。

例えば、本文には次のような言葉がありました。

・不幸になるのは自分のせいだ。
 不幸な人って、必ずその原因を他にもってく。
・人間は何かに集中して、知性や理性を働かせている時、おのずと端正な顔立ちになるものだ。
・異性から相手にされていないと思うこと、また、人からそう見られていると思うことは、人間最大のコンプレックスなのではないか?
・本能を制御するはずの文化は、今、その本能を刺激するばかりなのだ。
・多くを期待しなければ、おのずと憎しみはわかない。
・人は家庭が円満でないとうらやみません。
・道徳的であろうとするのは、すなわち、自分に自信がないからだ。
・孤独は人を哲学者にする。

 小説家は「人間の本質を描く」仕事をしていると、聞いたことがあります。ミステリー作品として、犯人あて、事件解決(動機やトリックの解明)という形にはなっていますが、普段、あまり深く考えなかったような人間の内面を「えぐり」、たしかに・・・と読んでいる自分が納得してしまう「答え」が提示されている哲学書と言うか、現代社会の分析書という感じもしました。

「殺人者」と、ストレートなタイトル。
読みながら怖さを感じましたが、それは、猟奇とか狂気と言うイメージの「怪物」ではなく、冷徹と言う言葉からイメージできる冷ややかさや哀しさ、そしてどことなく凛とした感じを受けたからです。

刑事ではない主人公が、事件の真相にたどりつきます。
真犯人がつかまって解決するという話ではありません。いや~な終わり方と言えなくもないですが、ぬめっとした重たさではなく、すっきりしているというか、モヤモヤはしませんが、物語の中で語られる人間の本質にかかわる言葉の数々に圧倒されるという感じでした。

主人公に犯人(殺人者)が語った言葉
「人の心の中なんて、理解する必要があるんでしょうか。」
いろんな意味で、考えさせられる一言でした。

発行所 新潮文庫
作者  望月諒子
    他に「蟻の棲み家」「神の手」「腐葉土」「呪い人形」なども書いています。

密度の濃い、重厚な作品ばかりです。

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです

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