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読書紹介54「レイクサイド」

あらすじ

妻は言った。「わたしが殺したのよ」ー湖畔の別荘には、夫の愛人の死体が横たわっていた。四組の親子が参加する中学受験の勉強合宿で起きた事件。親たちは子供を守るため自らの手で犯行を隠蔽しようとする。が、事件の周囲には不自然な影が。真相はどこに?そして事件は思わぬ方向に動き出す…傑作ミステリー。

感想など

登場人物は、名門私立中学受験のために河畔の別荘に集まった4家族。
そして、講師の津久見。
4家族のうち、並木家では、夫の並木俊介と子供の章太の血のつながりはない。妻の美菜子の前夫の子である。そして、そんな複雑な事情のためか、俊介は浮気に走り、愛人である高階英里子も別荘に来訪する・・・。

この段階から、何やら事件の予感がする出だしでした。
 
「夜の湖」というと、薄暗く、霧や靄が立ち込め、なまあたたかい風や湿気が多くて蒸し暑いといったイメージがあります。
海や川と違って、動きが少ない分だけ静かで、わずかな音でも響きわたったり、鳥や獣の声なんかも聞こえたりしそうです。
もちろん、自分の勝手な思い込みです。

だからというわけではありませんが、今回の「レイクサイド」という話は、なんとなく、ずっと違和感が続く、何かおかしい、何かすっきりしないという感じが続く話でした。
それは、主人公?である並木俊介の妻が「わたしが殺したのよ」と告白した後から話の最後までずっと続きました。

それはどうしてか?
 
ストーリー的には、物語の前半は、並木俊介の愛人である高階英里子が殺され、4家族内の藤間が中心となって事件を隠蔽するストーリーが展開されます。他の家族にバレないように完璧に隠せるか、あるいは、後から事件が明るみになった時、警察の捜査をどう切り抜けていくかのアリバイ工作が読みどころの一つです。

ただ、この段階でも、子供の受験で付き合いのある家族同士が、どうして殺人の隠蔽に手を貸すのか、何か家族同士で深いつながりがあるのか、殺された女性も、何やら怪しい動きをしていたなどの伏線が描かれていて、読みながら、常に、何か裏にあると感じさせる書き方になっています。

物語の後半は、並木俊介が「裏に何かある」、その謎を追いかける探偵?役になっていきます。
そして、別の真相が浮き彫りになっていきます。
 
どこかで、こんな展開の話を読んだことがあるなあと気になっていましたが、本のページが終わりに近づいたころ、夏樹静子さんの名作「Wの悲劇」と似ているんだ!と気づきました。
「私、お祖父さまを刺し殺してしまった」という告白から事件の隠ぺいを図る家族の様子を描きつつ、最後には別の真相、真犯人に迫っていく内容です。
 
同じような構想ではありますが、この東野さんの「レイクサイド」は、さらに何層にも伏線や布石、しかけが張り巡らされていて、4家族のつながりや真犯人が見えてきて終わります。
「イヤミス」とまではいきませんが、警察や探偵役が事件解決を図るわけではなく、この後、この家族たちはどうなるのか、どうするのか?が描かれないまま、もや~霧がかかったかのような終わり方でした。まさに「レイクサイド!」
 
しかけの一つは、登場人物の「内面」があまり語られない、描かれないところです。例えば次のような表現です。
 
・呆然と立ち尽くしていた。それから瞬きし、口を何度も開け閉めした。
・はーっと息を吐いて、そばの椅子に座った。
・二人は一度顔を見合わせ、次にはそろって下を向いた。
 
他にもたくさんありますが、とにかく登場人物たちの「感情」「考え」は直接書かれないままストーリーは進んでいきました。
演劇のように、その人の言葉や行動、描写された表情などから、読む人が「想像」することで、見えてくる感じに書かれています
また、事件の隠蔽を図るストーリーの中で、本来は許されない事(殺人、殺人の隠蔽)を行っているわけですが、本心はどうなのか。本当に隠蔽を良しとしているのか、違うのかなども内面描写がないのであいまいになります。そのあいまいさが、事件の背景や真相をぼやけさせ、読者が考えていく余地が与えられています。
 
こうして、内面描写が隠されていることで、多彩な効果があり、読み応えあのある作品にかえているのではないかと感じました。

レイクサイドによくある、霧がかかったかのような終わり方でしたが、その後の話を想像したり、新しい「章」を立てて、話を追加してみるのも、おもしろいかもしれません。

著書情報
・発行所   文藝春秋社
・発行年月日 2006年2月10日

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