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父の日の出来事

わたしは毎年、この日がキライだ。


父に感謝… 
していないわけではない。

ただ、
これまでにあらゆるプレゼントを贈ってみたが
父は1度たりとも喜ばなかった。
決まって返ってくるのは
「こんなんいらんから、酒買うてくれ。」



消耗品をあげるだけの行事になった。


その日、わたしは弟を散髪に連れて行くため、
妹は諸用を済ませるため、揃って出かけ
昼過ぎには家に戻った。

居間には赤土色で不貞腐れ顔の父の顔。
母の困った顔。
アルコールの臭い。
あかん感じなのはひと目で察しがついた。

そういえば父はわたし達が出かける少し前に
なんだかよくわからない用事を
ゴニョゴニョと言いながら出かけた。
このゴニョゴニョはっきりしないのは
お酒を買いたい時である。
そしてわたしたちがいないのを見計らって
真っ昼間から浴びるように飲み、
わたしたちが帰る頃には
へべれけ状態。

出かけている間に飲んでいることも
まあ有る事で、
わたしたちが帰ってきたところに
「どこいっとったんや。」
「なに買うたんや。」
「なにしてきたんや。」
(くり返し)
のくだりをされる事を
鬱陶しくもあれば、慣れてもいた。
正直、ここまでは想定内だった。


わたしたちは知らなかった。
父がつい先ほど買ってきたはずの
焼酎のパック25度1800mlが
空になって父の背後に転がっていることを。


夕方になり、ご飯にしようかというころ、
父はおかしな場所に転がっていた。
私「なにしとん、これ。」
母「さぁ。」
もぞもぞとしながら、起き上がれないように見えた。
母「お父さん!」
父「うぁ?」
私「大丈夫か!」
父「あぅ…」
母「あっ!おしっこでてしもてる!」
私「ええ!ちょっとお父さん!1回起きて!」
父「ぅるふぁぁい!!」
私「自分で起きられへんの?」
父「うぅ…。」
頭をべたりと床につけたまま、
手だけが不気味に宙を掴もうとする。

起きる気があるのかないのか。
これはもう酩酊状態じゃないのか。
急性アルコール中毒を起こしているんじゃ
なかろうか。
意思疎通が怪しい。
もしも嘔吐でもすれば危ない。

私「救急車呼ぶか!?病院いくか!?」
父「んあ。どぅあぃじょおぉぉぶ!」
なんかキレてるし。
目の焦点合ってないわ。
父は70代男性にしてはかなりガタイがいい。
わたしと母、ふたりの小女で
言うこと聞かん大男を持ち上げるのは
かなりむずかしい。
参った…。

隣の部屋で弟とワンコをなだめていた妹が
「救急車呼ぶかどうするか迷った時にかけるダイヤルあったんちゃうん?」
と冷静に言った。

父は救急車を嫌う。

脳梗塞を起こしたときも、
感染症(コロナではない)で高熱だしたときも、脚立で足を滑らせて静脈が切れて血まみれになったときも、
とにかく頑なに嫌がって、
わたしが車ですっ飛んでいく(法定速度遵守)
手順をいやというほど経験済みだ。
今日もそれじゃないんか?

母が「◯◯さん(叔父)に来てもらえへんやろか?」と申し訳なさそうに言う。

父の弟である。

そうだ、もしかしたら叔父さんになら
なにか違う反応をするかもしれないし、
上手くすれば病院に行く気になって
くれるかもしれない!

わたしは叔父に電話をかけた。
「すぐ行くわ!」
叔父は二つ返事で飛んできてくれた。

叔父「おーい!兄貴!」
父 「あ!〇〇!」
叔父「ちょっと飲みすぎやでぇ。大丈夫かいなぁ。」
父 「はっはっはっ。大丈夫やでぇ。」
家族「!?!?!?」

ちょ、待てよ!!(木村さん風)
なにはっきり喋り始めちゃってんの?
さっきまでのなによ!
わたしが叔父さんに大袈裟に言ったみたいに
なってるやん!

叔父「皆が心配するんやで、ほどほどにせななぁ。」
父 「ははは。そうかぁ?そんなに呑んでないでぇ〜。」
誰…ですか?
別人格を召喚させ、愉快そうに話すのを見て
ため息しかでなかった。


長々と世間話をしようとするので、
叔父には丁寧にお礼を言って帰ってもらった。
酔っぱらいの相手させるために呼んだみたいで
あまりにも申しわけなかったが、
意識ははっきりしているし、
呂律も回ってるし、吐かないし、
叔父が来てくれた事で緊急性がないことだけは
はっきりしたので叔父にはとにかく感謝だ。

叔父が帰るとごきげんの人格もお帰りになり、
また不機嫌な顔で寝そべっている。
甘えなのか?
家族は不愉快にさせてなんぼの対象なのか?

「便所。」とだけ言い
ふらふらと立ち上がったので、
わたしと母は支えようとつかむと
「さわるな!」
と怒鳴って振り払い、
壁にぶつかりながらトイレに着き、
さらにベチャベチャになって戻って来た。
時間をかけて着替えている時、
冷静に現場を確認したところ、
空のパックを発見し、あ然としたのだった。

この夜わたしは2度のトイレ大掃除を
するハメになった。


とんだ父の日だ。
むしろ叔父に感謝だ。

父はいつアルコールと手を切ってくれるだろう。
その日がくるまではわたしたちの関係性に
夜明けはこない気がする。

父がキライなんじゃないんだ。
父をそんなふうにさせてしまうお酒がキライ。
父の日にありがとうって言えないのが悲しい。

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