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常世の国から⑤

「しぬ」

20代のころの話しです。

いつもひとりで呑みにいくカラオケスナックがありました。
ハチノムサシというお店で、その昔ヒットチャートのトップを何週も独占していた
平田隆夫とセルスターズの平田隆夫さんのお店です。
平田先生とギターの菊谷さんのお二人には、生前大変お世話になりました。
その話しはいずれ懐かしいお話としてしたいと思います。

けっこう酔った僕は、夜中の2時くらいにお店を出ました。
店を出て横断歩道までいくのが面倒で、道路を渡ろうとしたときです。
ものすごいスピードで車が走って来てあやうくひかれそうになりました。
その瞬間 死ぬ と頭に浮かびました。
自分ではなく 車に乗った人がです。

ドーン‼︎
車はすぐそばのT字路を曲がることなく、そのままのスピードでものすごい音とともに、電柱にぶつかりました。

急いで駆けつけると
フロントの真ん中まで電柱が食い込んでいました。

「大丈夫ですか」

「ウルセェ馬鹿野郎」
運転していた男は、そう言うとまるでコントのように外れたハンドルを回しています。
中を覗くと後ろにふたりと助手席、全部で四人。みんな若い男で、運転手以外は下を向いてピクリとも動きません。運転手は眼も開けれず酩酊状態。
助手席は死んでいる。……そう感じました。

スマホもない時代。すぐ近くの電話ボックスから救急車を呼んで、来るまで見ていると、ひとりだけ毛布に包まれて搬送されていました。助手席の人です。

翌日、新聞でひとり即死と書いてありました。
その日は成人式でした。

ひのたろう

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