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石を考える、おまけに傷や大伯父を考える

『君たちはどう生きるか』の感想や考えたことをnoteに綴りたいなと思い、鑑賞してから感想をちまちま書き続けております。
こちらは何と第3弾の記事になります。

前回の記事では、眞人が美しいだけではない現実を選んだことについて、順序を追って書いていました。今回は、作中に出てきた主な『石』について、それぞれ考えたことを書こうと思います。

自分にとっての石

私は今は驚くほど石に関心はないのだけれど、1歳児の息子は道や公園にある石には目がないです。家に帰る時、ドアに至るまでに砂利が敷き詰められているエリアをかするのですが、必ず止まってめぼしい石を手にします。それを、外に置いた傘立てにチャリーンと入れて玄関に入る、というルーティーンを作っているくらい、息子にとっては石はとても興味を惹きつけられるものです。

私が小さかった頃を思い出すと、どこかで見つけたスベスベのまあるい石を数個、家に持ち帰って置いておいたことはしていたかもしれません。そこから発展はなかったのですが、『自分が見つけた特別なもの』と思うとお宝のようで、持っているというだけで何か楽しかったのを覚えています。

石の用途から意味を考える

ざっと思いついた、石にまつわる事柄を列挙していきます。

・硬さゆえ、打つ・削る・すり潰すための道具→変容させるもの
・火打石→新たなものを生むもの
・武器→攻撃性
・遊び道具(マンカラなど)
・障害物
・異物(胆石など)
・宝石(金銭的価値のあるもの)
・玉砂利(御霊が宿るもの)
・記念碑、歴史、証
・神的力の宿るもの
・未知の物体(隕石など)

きっと、すでに哲学されていることでしょうけど、素人が考えられたのはこれくらいで、しかも、『あ、これとこれは大きく見れば一緒じゃね?』というのがあります。けれどここでは割愛させていただきます。
上記のものだけでも『君たちはどう生きるか』の石を考えるには十分なのではないかなと思います。

意味の異なる石たち

1回観ただけなので全てを網羅できているかといえば自信がないのですが、作中ではいくつかの石が登場しました。そして、その複数の石たちが物語の中で重要な役割を果たしていたように思いました。

①自分を傷つけた石
②アオサギに一矢報いた鏃(やじり)
③産屋への通路の石
④異空間に浮かぶ謎の大きな石
⑤積み木の石

印象に残った石は上記の5つでした。これらを、先に挙げた石の意味と照らし合わせて、物語の文脈の中で考えていきたいと思います。

①自分を傷つけた石

異空間に行く前、疎開先の学校で殴り合いの喧嘩をした帰りに、眞人は地面にあった大きい石を自分の頭に打ち付けました。よくも思い切りできたな、というくらい深い傷を作るのに成功していましたね。
後に眞人はその傷のことを

「悪意の印です!」

と大伯父に宣言していました。
(※前記事で大伯父を『大叔父』と表記していました。ジブリが『大伯父』表記としていたので今回からこちらを使います)

そこらへんに転がっている手のひら大の大きさの石が、眞人によって攻撃性をはらんだ悪意のある道具に成り果てました。

②アオサギに一矢報いた鏃(やじり)

この鏃、眞人がどこで入手したのかは失念してしまいました。ナツコの部屋ですくねたタバコを取引材料にして、使用人のおじいちゃんに加工の仕方をレクチャーしてもらっていましたね。
アオサギの羽(風切りの七番。飛行の際、推進力には欠かせない羽だそうです。)を使った弓矢はミサイルのようにアオサギを追跡し、嘴に穴を開けることに成功しました。歴とした武器ですね。
正確な台詞は失念してしまいましたが、アオサギはこんなような旨のことを眞人に言って、嘴の穴を塞いでもらっていましたね。

『傷をつけたものにしか治せない』

このことは、眞人が頭につけた傷についても同じことが言えるのではないかな、と観ている時に思いました。

 眞人の傷

外傷的な頭の傷はお医者に来てもらって手術し、塞がりました。が、眞人が傷つけたのは果たしてその頭の傷だけでしょうか?
私はそうではないと思っていて、心にも、傷を負わせたのだと思いました。戦争下で通常の生活が送れない日々、母を亡くし、心が開ける友達はいない、否が応でも環境が変わってしまう。自分が何に苦しんでいるのかわからなくなって、苦しみの証としてつけた傷ではないかと考えました。

外科的手術や絆創膏、薬の助けを借りつつも、最終的に傷を治癒するのは身体的としても心的意味としても自分の治癒力です。眞人がアオサギに誘われた異世界での体験で、眞人は自分で生きていこうと、傷に、現実に、立ち向かうことができました。

また、『祖父が危ないからと塞いだ』という、大伯父が建てさせた館の入り口も、同じ原理なのかもしれません。他人が塞いだからといって不可思議な力までは封じられなかったのでしょう。
まぁ、あの館の入り口は隕石の元々の形もあるのでしょうが、大伯父の意向で改築されたのだから、あの入り口も本当に塞ぐのならば大伯父が関わるしかなかったんだと思います。しかし、大伯父の世界の崩壊とともに崩れていきました。

③産屋への通路の石

通る者に呼応してパチパチしていたアレです。あれは結界的な石なのかなぁと思うのですが…SECOMみたいな石でしたね。上で当てはまるのはあるかなぁと思ったのですが、ここに来て早速分けられず途方に暮れました(笑)

それで後出しですみません、考えたのですが、狛犬みたいな役割をしているのではないかなと思いました。そこはシーサーでも、その地域のものでもいいのですが、境界に佇むモノとでも表現しましょうか。
現実世界ではわかりやすく動物に扮して効力を発揮しているところを、不可思議なことが起こりうる異世界では動物の形を取らずとも本来の機能が発揮できる、と見ました。

④異空間に浮かぶ謎の大きな石

まさしく未知の生命体。現実世界にある本を所蔵した館が隕石であれば、あれは隕石の核みたいな、謎の(知的)生命体なのかもしれませんね。あいつの正体は、唯一契約した大伯父のみぞ知る、です。

⑤積み木の石

白い、遊び道具の積み木の危ういバランスが、あの異世界を保ち続けていました。大伯父は自分の後継ぎを眞人と考えて『悪意のない石』として選りすぐりの積み木を集めて渡しました。

突然ですがあなたが眞人ならどうしますか?

多分、ほとんどの人は『そんなことやってられるかぁーっ!』と受け継がないと思うのですが…。後継ぎになりたかった人、挙手してください。

結局、眞人は受け取らず、後をつけていたインコ大王が『こんなことで世界が成り立っているなんて、バカバカしいことがあるもんか』という勢いで積み上げてしまいました。
でも、あれでよかったんだと思います。あの世界は、発展の見えない、死ぬほどゆっくりな速度で終わりに行くしかない世界だったんだと思います。

 大伯父は誰か

大伯父は読書家が高じて、ある境界を越えてしまって④の謎石と契約してしまったのでしょう。また、自分の世界に閉じこもり、外の現実世界での生活を手放したことを考えると、大伯父は潔癖なほど変化を望まない保守的な人なのかもしれませんね。

余談ですが、この記事を書く合間にほかの方々が執筆した『君たちはどう生きるか』の感想や考えを読ませていただいてきました。すると、いくつかで『大伯父が表しているのは高畑勲監督で〜』という話が散見されました。
高畑勲監督とジブリと宮崎駿監督の間がどういう関係性なのかは何も知らなかったので、『こういう見方もあるのか』とただ驚くばかりでした。

私が思うに、純粋な・危ういバランスの世界より、すでにどこか崩れて、不純で・どうしようもない世の中でも、自分はそこで生きていくんだという覚悟が持てるかどうかで、それは誰にでも当てはまることなのではないかなと思いました。(今の日本だってそうじゃないですか?)自分にとっての大伯父は誰なのか、何なのか、考えると面白いかもしれません。

終わり

とりとめもなく、石から考えられることを書き連ねてきました。同じ作品内でいろんな石が意味を持って出てくるので、まとめたら面白いかもと思ってそのまんま書いてしまいましたが、いかがだったでしょうか。
何かがどなたかにとっての閃きになれば幸いです。

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