朝井リョウ「正欲」

「マイノリティ」とは誰が考えた言葉なんだろうか。
本小説の登場人物は奇しくも皆あるマイノリティな事情を抱えている。
昨今何かと話題になるLGBTやジェンダー論であるが、本書で描き出されるマイノリティはもっともっとマイノリティ。
「なにそれ、そんな人いるの」と思わせるようなニッチでディープな悩みを抱えた人が、理解されない苦しみを半ば放棄しながら、それでも生きるという話である。

結局マイノリティとは、マジョリティ側にいる人間が「自分じゃない方」の人たちを便利にくくる為の便利なものさしでしかないし、そのことに気づいてすら居ない。ワイドショーやSNSで流れてくるマイノリティの苦悩の安易な切り抜きに一喜一憂する自分を含めた大衆の勘違いにはっとさせられる作品であった。

というのがおそらく一般的な見方で、筆者の凄いところはここから。
朝井リョウはそのマイノリティ側の人間すらも刺す。
どこか斜に構えて「わかってもらえないでしょ」スタンスの人間を白日のもとにさらして、非マジョリティの人が特権的に浸れる、「理解されない事の居心地の良さ」すら抉り出してしまう。

「何者」のときにも感じたが、このどこまでもリアルで容赦の無い描写が、とにかく胸に突き刺さる。

読者の全てを当事者にして、自分という存在の拠り所に目を向けさせる、そんな作品です。是非。

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