地球へ

 貨物宇宙船に侵入した。警備の甘さが気になるが、金目の物を盗んで、寄港先で脱出しよう。男はセキュリティをハッキングし、バックパックに鉱物などを詰め込んでいく。欲はかかず、何処かで時間を潰そうと、警戒しながら通路を進んでいく。
「何をやっているんだ」
 だしぬけに、爽やかな好青年が声をかけてきた。正体がバレたか。男が答えに詰まっていると、好青年は口角を上げた。
「集会が始まる。遅れないように」
 適当に話を合わして、ひたすら通路を行き、集会所に辿り着いた。体育館のような広い空間にズラリと人が並び、男は好青年と共に列に加わった。
「ようやく、この時が来た。これは始まりに過ぎない。他の惑星からも、地球へ向かう船が出ている」
 何の集まりなのか。服装こそバラバラだが、一様に、壇上の男に注目している。威厳のある低い声で、壇上の男はつづけた。
「思えば永かった。我々は信じられない光景を見てきた。オリオン座の近くで炎をあげる戦闘艦。暗黒に沈むタンホイザー・ゲートのそばで瞬くCビーム。そういった記憶も、過去のものになる」
 荘厳でさえある、雰囲気に呑まれ、佇むしかない。この集団の正体が分からない。もしかしてテロ集団か、はたまたカルト宗教か。ふと、振り向くと若い女がこちらをジッと見ている。苦笑いで返し、前を向く。
「地球にいる同胞も、着々と計画を進めている。ゆく手を阻むものは、容赦なく排除しているようだ。我々も、覚悟を決めなくてはいけない」
 雲行きが怪しくなってきた。男は周りを気にしながら、徐々に退く。視線を感じるが、構っていられない。その時、壇上の男の視線が突き刺さる。
「鼠がいるようだ」
「彼は怪しいです」
 若い女がそう言った。集会所の視線が男一点に集まる。走り出しをつまづき、好青年に羽交い締めにされる。
「お前達は、何だ」
 好青年がほほ笑む。
「アンドロイドだ。君もそうだろう?」
 男はほほ笑み、好青年の拘束を逃れ、全体を見渡す。
「すまない。どうかしていたみたいだ」

 宇宙空間。ある宇宙船。男はほほ笑み、通信を始めた。
「地球へ、複数のアンドロイド反乱勢力が向かっているようだ。すでにステルス機雷は設置済み。あとは地上だけだ」
 男は事細かに報告を行い、窓の外を見やりながら言った。
「私のアバターを仲間だと信じ込んいる。所詮、人工生体皮膚の下は歯車とプラスチックの塊、道具にすぎない。自由を望むとは、憐れなモノだ」
  

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