タイムマシンに乗れなくて

 青年がトイレに行っている間に、仲間たちは完成したばかりのタイムマシンに乗って、過去へ行ってしまった。
 何かの手違いで作動させてしまったのか。
 残念だ、と思いながらビルの屋上にでる。
 澄み切った青空を見上げると、正六面体の真っ白なタイムマシンがパッと、中空に現れた。
 静かに下降すると、音もなく着地した。
 ドアが開き、二人の仲間が現れた。
 長身と肥満の男二人がやつれた様子で、その場に腰をおろした。
 青年は、明るい声色で二人に尋ねた。
「どうだった、過去世界は。まさかとは思うが、歴史や、人物の未来を改変するようなことは、してないよな?」
 押し黙る。
「何か言ってくれよ」
 その時、世界は振動し、視界は歪み、何か訳の分からない暗闇に三人を含めた全てが吸い込まれた。
 青年は気づくと何もかもを忘れた。
 緑濃い山の麓、家の自室で小説を執筆していた。網戸から涼やかな風がはいってきて、一枚のメモをひらりと床に運んだ。
 そこにはこうあった。
『パラレルワールドに飛ばされた男が、それに気づいたらどうなるか――』 

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