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無愛想な花屋さんの中にある本当の優しさ


そこは、とある田舎の小さなスーパーの前。

スーパーの出入り口に、彩り豊かな花々と野菜の苗、木の苗がズラリと並んでいた。

ちょうど畑計画をしていた私は、別の用事で来ていた場所の駐車場で車を降り、吸い寄せられるようにその場所に向かった。


花を買いに来たおばあちゃんたちと親しげに話している男性がこの花屋さんの店員さんのようだ。

40歳くらいだろうか。茶髪で肌の色が茶色く焼けた店員さんは、何やら忙しそうにおばあちゃんたちと話している。

「そうなんよ。客がほんと来なくて。みんなどこに行ってるんかな。やばいわー」

あれ?
お客さん相手にめっちゃタメ語やなぁ。
しかも、少し口調が強め。

(うーん。なんかこの店員さん、質問しにくそうだな……)

そんな風に思っていたら、店員さんがお客さんのおばあちゃんに大きな声で叫んでいる。

「え!?なに?何番?1253?あぁ、あれね。わかった、わかった。持っていくけん、そこでまっちょきよ(待っててね)」

様子を見ていると、おばあちゃんの買ったお花や野菜の苗をおばあちゃんの車までせっせと運んでいる。

(あれ?思ったより優しいな)

次々に来るお客さんとはもう顔見知りみたいで、この前買った花が咲いたよというお客さんに、「そろそろかなと思ってたわ」と答える店員さん。

(よくお客さんと買った花も覚えてるな)

そんな様子を見て、少し安心した私は、気になっていたかすみ草の育て方について聞いてみた。

「あぁ、それね。俺、毎週久留米まで買い付けに行ってるんやけど、それは名古屋から来たやつや。今どき珍しいでしょ。背の低いのが今は主流なんだけど、それは背が高いやつで切花用だからあんまり売ってないんだよね。だからどうしても高くなるんやけど、1380円、1000円でええよ。白だったらもう少し安くなるけど、ピンクやけんちょっと高いんよなぁ。あ、育て方は簡単よ。見た目はなんか弱そうだけど、結構強いし、庭に植えても毎年花を咲かせるからオススメ」

(すごく詳しいな!)

すると、お兄さんの背中越しに遠くからさっきとは別のおばあちゃんが叫んでいる。

「ねぇ、ちょっと、ちょっと」

お兄さんに呼ばれていることを知らせると、

「え?俺?誰か他の人呼んでるかと思ったわ、はいはい、なに?」

とすぐに駆け寄る。


ベンチに座ってるおばあちゃんは、ニコニコしながら、飲もうとしているペットボトルのジュースのキャップを開けて欲しいと伝えていた。

「あ?あぁ、はいはいこの蓋ね。……ほい」

おばあちゃん、にっこり。
店員のお兄さん、開けたらさっさと真顔でこっちに戻ってくる。笑

なんだかそのやりとりにほんわりと心が温かくなった。

おばあちゃんが公衆電話で呼んだタクシーがつくと、何も言われなくても、すぐにおばあちゃんの買い物の荷物(野菜や花の苗ではなかった)をタクシーまで持っていくお兄さん。

や、やられた……。




なんで無愛想なのに、そんなに優しいんだ。

ズルい。
ズルいぞ。

私はこの手の優しさに弱い。自分にはない自然体の優しさだな〜といつも思う。



その後も、私はお兄さんについつい色んな質問を投げかけ、色んなことを教えてもらった。

毎週ここに立っているというお兄さん。


「いやー、なんか今年はみーんな花見に行って買いに来てくれないし、やっと桜終わったと思ったら、地区の集会?かなんかでみんな忙しいみたいでさ。みんな自由やけんなぁー困るわー」

文句を言ってるようで、なんだか少し口調が優しいお兄さん。ていうか、花屋の売り上げが地区の集会で左右されるという事実に、またまたほっこり。


「なんか、お兄さんとお客さんのやりとり見てたら癒されました。笑」

私がつい、そんなことを言うと、

「え?なんで?いや、みんなほんと自由やから、いつも全然話聞いてないんよ。来週、再来週は野菜の苗のピークだから、相当俺ピリピリしてると思うわ。笑」


私は、話を全然聞いてくれないおじいちゃんおばあちゃんと、ピリピリしながら、何度も大きな声で同じことを言ったり、めんどくさそうにしながらも、せっせと車に荷物を運ぶお兄さんの姿を、なぜか見に来たくなった。


その日、何も買う予定がなかったのに、いつの間にか私の前には、かすみそうとブルーベリーの木が2本、ミモザの苗、ナス、山芋の苗が並べられていた。



お兄さんに「これください」と言うと、育て方の注意点を足早に話しながら、袋詰めをしてくれ、ちゃっかり値引きもしてくれた。

そして、「これもどうぞ」と言って、ラベンダーの苗を一つ追加してくれた。おまけだった。


私が買おうかどうか迷いながら、ラベンダーの香りを確かめていたのを見ていたのか、見てなかったのか。

またまた、やられた〜と思う私なのであった。


こういう人には、一生敵わないなぁと思う。


無愛想でぶっきらぼうで
だけどやることは自然体で優しくて。

誰かによく思われようという打算もなく
特に好かれようとも思ってない。

おばあちゃんたちが、ペットボトルのキャップを開けてってお兄さんに頼むのも、わかる気がするな。



また、野菜の苗がズラリと並ぶとき、ピリピリ優しいお兄さんの姿を覗きに行こうかなと思う。


そしたらまた、きっとまたこんな風に心がポカポカになるんだろうなぁ。

ブルーベリーの花


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