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天使の君へ 愛の翼に|掌編小説

140字からはじめて―


朝、目を開くとき。私の隣には寝ぼけ眼の貴方がいて、
「おはよう」と、貴方は私の朝を祝福します。

夜、目を閉じるとき。私の隣にはとろんと目尻を下げる貴方がいて、
「おやすみ」と、貴方は私の夜を祝福します。

貴方に身を寄せると、甘くて切ない香りがします。どこか遠くの、私の知らない花の香り。

貴方に抱かれているとき、貴方の体温に包まれた私は、他の誰よりも幸せになれます。

歌うようなその声で、貴方が囁く愛の言葉は、私の心をくすぐります。揺さぶります。

いつも整えるのに苦労している癖毛、時に悪戯っぽく輝く瞳、私の頬に触れる少し大きな手、優しく私に微笑みかける貴方の全てを、天使のような貴方を私は愛しています。



長い髪をなびかせて微笑を湛える君を見ていると、僕はふとした瞬間に、あの頃を思い出す。

段ボールを抱えて涙を流しながら歩く、今よりもずっと小さな君。
それは、ウチでは飼えない捨て猫に、こっそりご飯をあげに通う君。

溢れそうな涙を堪えて歩く、今よりも少し幼い君。
それは、友達と喧嘩して、次の日には自分から謝ってしまう君。

今日の夕飯がカレーだと聞くと踊って喜ぶ、明るい君。
取っておいたプリンを弟に食べられて怒る、食には妥協しない君。
やっと告白した憧れの先輩に振られて哀しむ、失恋の君。
何でもない日常を大切な人に囲まれて楽しむ、愛らしい君。

独りだけだった退屈な日々に、眩しいほどに鮮やかな色が付いた瞬間。君がいるだけで、白い明日が待ち遠しくなる。

いつからだろう。君に触れたい、名前を呼ばれたい、
もっと近くで、その屈託のない笑顔を見てみたい、そんな風に思うようになったのは。

例えそれが許されなくても、僕は君だけを想いたい。
墜ちてもいいと、そう思ってしまったから。

僕の腕の中で笑う君を、僕はこんなにも愛してしまっている。



でも、あの日、
私は見てしまったのです。夜の窓辺で独り、涙を零す貴方を。

扉の隙間から見えた貴方の白い翼は私が今までに見たどんな鳥よりも、私が今までに想像したどんな妖精よりも、美しく輝いていました。

知っていますか?天使は誰かを愛してはいけないのです。貴方は私を想ってはいけない。ここにいてはいけない。だって、貴方自身が破滅してしまうから。私は貴方を灰に返したくはありません。



あの日、
僕は静まりかえった僕らの家で、夜空を眺め、運命を呪った。

焼け付くように痛む胸を、天使であることの定めを。

溶けていく己、君を愛せない苦しみ。

天秤にかけたら、なぜだか涙が止まらなかった。



私と出会い、愛してくれたこと、私はそれを貴方に、そして天に感謝します。でも、貴方の愛を独り占めはできないから。それは許されないことだから。私はここを出て行かなければなりません。

どうかカミサマ、彼をあまり責めないでください。傷つけないでください。

私たちのこと、彼を愛してしまったこと、その罰は私が受けるから―

あんなに綺麗な天使さんを、私のために彼を苦しめたりしないで。



待って、行かないで。僕は君と離れたくない。君のいない僕は僕じゃないんだ。君のためなら、君との未来のためなら、僕は何だってできる。

君と一緒にいるためなら、僕自身だって捨てられる―



夜、目を閉じるとき。私は貴方の背を撫ぜる。
一度しか見ていなくても、触れればわかる。なくなったんだってこと。

「本当に捨ててしまったの?」

声を震わす私に、貴方は優しく微笑む。
歌うようなその声で私に囁きかける。

「捨ててなんかないよ。君にあげたんだ。君だけの翼に」


付き合って間もない君はよく、天使は恋をすると灰になるのだと僕にいった。皆に与えるはずの加護をたった一人にしか注がない故の罰なんだそうだ。本当は、恋の温度に耐え切れず跡形もなく溶けてしまうんだよ。焼けるほどに痛む胸を押さえながら、あとどれくらい持つだろうかと君の横顔を見つめていた。
スズキ サイハ


火樹銀花(Twitter)にて定期更新中、メンバーから送られる140字小説を10倍にして返すプロジェクト。第三回は、スズキ サイハ(Twitter)の作品。前回作『大人になるため母を殺した』はこちら

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