最期の1日

「パパーご飯食べたら公園行こうよー。」
4歳の息子ソウタが食卓から身を乗り出し言う。
「おー分かった。何がしたい?」
「ぼくサッカーやりたい!保育園でもね、おともだちとサッカーして、ぼくすごく上手になったんだよ!!パパ見てー。」
それを見て妻が笑う。
「ふふ、ソウタ。ご飯早く食べないと公園行けなくなるわよ。」
「はーい。すぐ食べるから待っててねーパパ。」
「はいはい。ところで大丈夫か?なにかあったらすぐ連絡してくれよ。」
「ふふ。心配性ね。まだすぐには産まれないから大丈夫よ。」
妻は大きなお腹を擦りながら笑った。
あと一月ほどすれば娘が産まれる予定だ。家族みんな新しい命の誕生を心待ちにしている。
「パパー食べ終わったよー!」
「そうか、じゃあ出かける準備しておいで。」
「わかったー。」

息子と近くの公園でサッカーボールを蹴る。
息子はまだあっちこっちに蹴ってしまうので、ボールを追いかけすぐに息が上がる。
「ソ・・・ソウタ!少し休もう。」
「仕方ないなぁーすこしだけだよー。」
子どもは元気だ。赤ちゃんの頃はすぐに熱を出す子で心配したものだが、元気に育ってくれて、それがないより嬉しい。
「なぁ、ママにケーキ買って帰らないか?」
「いいね!ママが好きなお店のやつ?」
「そうそう。少し歩くけど頑張れる?」
「うん。ぼくも好きなの選んでいい?」
「いいよ。帰って皆で食べよう。」
私達は歩いて10分の5階建てビルに着いた。
各フロア2~3店舗の飲食店・美容室・クリニックなどが入っている。
妻はこのビル2階のケーキ屋さんのチーズケーキがお気に入りだ。
「ぼく、このくまさんのケーキがいい!」
ソウタはくまの顔がついたかわいいチョコケーキを選んだ。
「すみません、くまさんケーキとチーズケーキを」
『ドン!!』
突然大きな爆発音がビルの中に響いた。
「キャァ!!」
店員が悲鳴を上げる。
ソウタを見ると音に驚き固まっていた。
「ソウタ!!」
すぐに息子を抱きかかえる。
『ドン!!!』
今度はすぐ近くで爆発音がしたかと思うと土煙を上げて爆風が吹き荒れる。
すぐに店内も土煙に飲み込まれ、すぐ先が見えない。
とにかく逃げなければ!!
息子を抱いたまま店の外へ。
すぐにあるエレベーターのボタンを押すが反応が無い。電気が切れていて動かないようだ。
「くそ!!階段はどこだ!!」
手探りでドアを探す。
『ドン!!!!』
またすぐ近くで音が聞こえたかと思ったと同時に身体が宙に浮いた。そしてしたたかに壁に打ち付けられた。
「ソウタ!大丈夫か?」
「パパ?頭と足がいたいよ・・・。こわいよ・・・。」
息子は弱々しい声で答えた。息子の身体にはガラスの欠片が刺さっていた。
「くそ!どうなってるんだ!!」
急いで非常階段への扉を探す。
「見つけた!!」
息子を抱えて駆け下りる。
1階の出口手前に人の姿が見えた。
「爆発だ!すぐに外に出ろ!」
男に叫ぶように言うがなぜか動かない。
近づくと男はニヤニヤ笑っている。不気味な表情だ。
男は手を上げた。そこにギラリとナイフが見えた。
「ふふふふふふふふふふふふ・・・・・・。」
男は気味悪く笑いながら私達に向かってきた。
急いで来た階段を引き返そうとするが、子どもを抱えていては早く階段を駆け上がれない。
『グサリ』
嫌な音が背後から聞こえた。背中を刺された。振り返るとナイフを抜き男が振りかぶっている。
私はとっさに息子を抱き込めうずくまった。
ぐさぐさ・・・身体を刺す嫌な音と痛み。意識が遠のく・・・。

急に視界が開けた。
「!!ソウタ!!」
とっさに息子の名を呼ぶ。
辺りを見回しても息子はいない。
「ソウタ!どこにいる!!返事をしてくれ!」
「・・・あんたが何者かそこの鏡を見てみな。」
・・・静かな空間から冷ややかな声がした。
「ひ・・・・た・・・たすけてーーーー!」
そこに写っているのは私を刺した犯人だ。
「それ、あんただよ。あんたは死を望んでビル爆破を起こしたくさんの人の命を奪ったよな。裁判で死刑判決が出て喜んでいた。そんなの死んだ人の大事な人たちが納得するはずないんだよ。だから亡くなった人の最期の1日を仮想現実で体験してもらうのさ。どんなに幸せで未来を合った人をあんたの身勝手で殺したのか分かるだろうよ。まだ1人目だ。まだまだ先は長いぞ。
精神が壊れても心配するな。どうせあんたは死刑だからな。さて、次は翌日に結婚する予定だった女性か。時間はたくさんある。せいぜい自分の罪に向き合ってくれ。」

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