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第111回 「探究学習に携わる教員(大学生)の専門性について」

 第111回は大学院生の方に報告していただきました。経済学(学部生時代)や人文地理学(院生時代)を学ぶ報告者はインターンシップや大学生サポーター(高校生のキャリア教育や探究を支援する学生団体に所属)として学校現場にかかわっているそうです。外部人材には①教員ではない年上の人(ファシリターター、一緒に悩みを考える人、モヤモヤをぶつける壁)②研究のノウハウを知っている人③専門知識をもつ人、3つの役割があるとしてその考えに至った経験、エピソードを紹介してくれました。
 基本的にやっていたのは、教室の中をウロウロして、高校生の質問に答えたり、悩んでいる生徒やサクサク進みすぎている生徒に声掛けだったそうです。そこで意識していたのは探究活動を面白いと思ってもらえること、思考のキャッチボールをすること。自分の専門知識が生かされた場面はほとんどなく、"一緒に考えたり悩んだりしてくれる大人”。大学や大学院で得た知識を専門家として伝えて探究の質を高めるより、高校生の主体性やそこから生まれる葛藤、達成感を重視したほうがいいと考えていたということでした。外部人材としての経験を積む中で自分の研究分野も経済学から地理学に変わり、アドバイスしたほうがいい知識なのか、言わずに見守るほうがいいのか悩む場面が多くなるなど変化も感じておられます。
 また、生徒のテーマと大学生の名簿を照らし合わせて事前にマッチングする学校もあり、生徒のモチベーションを刺激しようと自分の専門性を強く意識してかかわった例も紹介してくれました。専門性を発揮できる場面は多かったけど、そこでも、論の膨らませ方がわからないと悩んでいる生徒の話を聞き続けると「わかった気がする」と言ってくれたこともあり、専門知識が発揮できなくてもモヤモヤを言語化する壁として振る舞うだけでも探究活動に効果的な役割を果たせると感じたというお話が印象的で、報告を聞いていた先生方の中には探究の進め方を振り返る機会になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 今後もサポートにいく学校の目的や要望、生徒たちの様子に応じて専門性を意識するけども生徒の主体性や葛藤を大事にしながら高校生が意欲的に探究を進めていける活動を支援したいということでした。大学院生でありながら熱心に活動される報告者に刺激を受けた時間となりました。

ー 質疑応答 ー
・研究(自身の実践とその振り返り)から得られた知見があれば教えてほしい。高校教員が活かせるものはあるのか。→大学生が外部人材として探究に関わる上で何を意識した方がいいのか、そしてその結論として、斜め上の存在(教員とは違う年上の人)としての力を発揮しつつ、大学生、研究者としては、生徒が自ら学ぶことを阻害しないようなサポートの仕方を考えなければならないと考えている。
・報告者は専門性を必要だと考えているのかどうか。社会科の教員が探究活動で活かせる専門性とは何か。→専門性の必要不必要にこだわっているわけではないが、文系の探究を文系の教員が、理系の探究を理系の教員がみるのは妥当だと考える。確かに歴史や地理の専門性が発揮される場面はうまれにくいが、研究の手法や考え方を促すことはできる。理系の探究でも実験や数式モデルを扱うなどのノウハウは専門性の発揮と言えるのではないか。
・報告者が考える高校生の楽しさとは?→答えが与えられていないものについて、こうしたらいいのか、やってみよう、とワクワクしながら前のめりに進める姿勢、悩みながら突き詰めようとする姿勢に楽しさを感じる。混乱してやりたくないと諦めているのと対極にあるもの。学生団体で活動する中で、高校生が「面白い」「楽しい」という感想を口にするのが嬉しい。
・中江兆民の『三酔人経綸問答』を思い出した。一人三役の立場を学生に考えさせると自分でリサーチクエスチョンを見つけてレポートもかける。難しいけどそれが国際政治。ウクライナ問題とかガザ問題があるのもこういうことをずっとやってきたから。でも対話を止めてはいけないと伝える。報告者の先生も近いことをやって生徒たちに探究の面白さを伝えているように感じた。→似た状況。地理専門家の仮面をつけて高校生と話しているけどいつでも外せる、のようなことをしていると思う。

ー 議論(総合的な探究の時間に関わる教員の専門性、外部人材の活用、教科教育との棲み分け) ー
・少なくとも総合的な探究の時間に教員の専門性はいらない。「専門じゃないからそれは担当できません」という教員が出てくる。生徒の興味を専門の教員が偶然担当してくれることはあるかもしれないがラッキーなだけ。すべての生徒をマッチングするのは不可能。探究活動中の高校生に、教員や外部人材が持ってる知識をすべて与えていいという意見と全部言わなくていいという意見があった。報告者の「高校生にとっての壁打ちになれてよかった」という話があったが外部人材としての大学生の役割はそれでよい。ファシリテーターとしても勉強中で、高校生にとってプラスにならないこともある。ただ、外部人材の大学生も校内の教員も専門分野を共有していると、それに近いテーマの生徒が出てきたときに「聞いてみたら?」と促すことができる。
・外部人材として高校生の探究活動にかかわる報告者には学生団体の経験を通して培ってきた専門性(ファシリテーターの経験も含めた広い専門性)がある。
・探究活動における専門性とはそもそも何か。教科の様子とはまた違った生徒の活動を見るのは面白いし、例えば専門外の美容分野などの担当になったとしても生徒とともに新しい知識を得たり発見したりできるのは楽しいが、教員の中には積極的でない人がいるのはなぜか。学生時代に経験しなかった授業スタイルは苦手意識があったり、生徒をどんなふうに導いていいのかがわからず、苦手意識があるのではないか。
・大学の先生にはファシリテーターとしての特別なスキルがあるのか。例えば国際関係ではウクライナ問題やパレスチナ問題などの国際情勢やその他の様々な要素を踏まえて考えると生徒はジレンマに陥る。しかしその中でちゃんと問いが生まれ、次のジレンマに陥っていくことを繰り返す中で深く考えられるようになっていく。
・学生は授業や書物やその他の様々なものの中から自分で何らかの問いを見つけてくる。学生の見つけた問いを良いものか悪いものかこちらが指示せずに自分で考えさせて進めていく。
・報告の中にあったように生徒たちの話を聞いてあげるのが一番。その中で時々グサッとくる一言を言ってあげれれば、それが探究の進め方ではないか。ただ、途中で生徒が我慢できなくなって嫌にならないように我慢する支援が難しい。
・報告者が自分でいろんなことを考えている事自体が探究。各先生が学校の環境や生徒の状況に応じて自分で何らかのやり方を見つけなければならない。自分が一生懸命やっていることを子どもたちにやらせればいい。生徒に専門知識はなくてもプロセスは応用できる。【参考文献紹介:日本社会科教育学会編『教科専門性を育む教師教育』東信堂、2022年】
(参加者16名)

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