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市場動向の確認と経済ニュースの注目点(8/11~8/17)

割引あり

今週はあまりにも急速な株式市場の戻りに驚きました。下げも上げも急なので先日書いたボラティリティと資産配分の話としてはよい事ではないのですが、主体別の売買動向などを見ていると、中期的に日本株が上昇するのではないかと思わせる様な動きも見られました。今週も1つ1つ確認していきたいと思います。

また、岸田首相の総裁選不出馬表明は、秋の衆議院議員選挙の可能性を高めたと考えられます。岸田首相も2021年10月の就任1カ月足らずで衆議院を解散しており、次期首相も早期解散に臨む可能性が高いと考えられるからです。衆議院を解散は株高というアノマリーに加え、次期首相によっては、日本の変革期待が高まる可能性もあります。


<マーケットチェック>

株式

8/5~8/9の投資主体別売買動向を見ると、海外勢の1.3兆円と先物を大幅売り越し、信託が先物と現物を合わせて約4000億買い越していますが、これは概ね先週お話していた理由の通りです。

ここで注目したいのは事業法人の5000億の買い越しです。事業法人は7月11日からの相場下落局面で着々と買入れを続けてきましたが、急落局面で買入ペースを上げ合計1.17兆円(7/12の週1800億、7/19の週1300億、7/26の週2000億、8/2の週1400億)の買い越しとなっています。

これは、信託銀行(年金など)の買いに匹敵するサイズであり、株主還元の拡大のみならず、市場インパクトを与える規模と言えます。また、外国人も現物では約5000億円買っており、外国人でも長期の投資家は買った可能性もあります。

個人の損益状況も松井の信用評価損は8/5の▲25%から改善し、金曜日の大引け時点では▲8.6%ですからだいぶ余裕が出て来ています。

株価が下落した局面で説明された、円キャリーの巻き戻しは外国人の先物取引に最も良く反映されていると考えられ、個人も信用取引では投げ、現物取引で買っていたと考えられるので、短期的な主体が売って、長期的な主体(個人の長期投資やNISA、年金など)と企業(自社株買い)が買っていたという構造が明確です。

8/2、8/5の下落は日本株市場の脆弱性を示したようにも見えますが、長期的な主体がしっかりと買い向かい、その下げを取り戻していったことは勇気づけられます。従来はこの様な局面は日銀のETF買いに頼っていたわけですが、それを企業や長期投資家が担ってきたことで、日本株全体への信頼が高まると共に、この様な局面でしっかりと自社株買いを実施できる企業と出来ない企業の差は広がると考えられます。ちなみに、24年4月~8月(15日まで)の累積発表金額は10.9兆円。23年度の4-8月期の約2倍となっています。

<ご参考>

さて、日本では株価急落のきっかけとして、米国経済のリセッション懸念を挙げる方も多かったと思いますが、。NYダウの下落は限定的で、既に史上最高値更新が視野に入っています。

7月の小売売上は市場予想を上回っており、ウォルマートも好決算発表で史上最高値を更新しており、リセッション懸念は後退しています。失業者が増えることで、お金なくなり、消費減退するというサイクルは今のところ見られません。

その結果、失業率の上昇は数字ほど懸念する必要はなく、(特に移民による)労働参加とミスマッチが引き起こしているとの見方が、再び強まっています。移民の流入自体は既にピークアウトしているので、2024年前半に雇用者数の押し上げもピークアウトしています。アンマッチによる失業により、移民の流入から1年目は12%失業していますが、これも徐々に慣れてくるに従って低下していく(1年目12%→3年目6%)と予想されています。(米国はこの様な議論を繰り返しているように思えます)

8月22~24日のジャクソンホール(利下げの方向性は確認できるかもしれないが、今回の小売り統計を見ると50bpの利下げの可能性は低くなるかもしれません)、28日のNVIDIAの決算などが注目されますが、9月初めには前回ショック要因になったISM製造業指数や雇用統計の発表もあるので、楽観的になり過ぎるのは危険かもしれません。

トランプ前大統領の復帰は株高との期待が多いですが、9月10日にハリス副大統領とのテレビ討論会があります。S&P500は9月下旬に過去5年連続下落しており、季節的には9月頃までは株式市場全体として不安定な動きが続く可能性もあります。日本株も急落と急反発の後でもあり、外部要因の変化によってセンチメントが振れやすいことには注意したいと思います。

また、改めて考えておきたいのは円ドルと日本株との関係で、日本株は上昇局面でも為替の要因を除くと米国株にアウトパフォームしておらず、ビックテックがない分割負けるという状態が続いてきました。外国人が本格的に日本株を買うには円高+日本株高という構造が不可欠と考えられます。日本企業は海外移転を続けてきたので、大型株では海外売上は約5割となっており、企業業績自体に為替が大きく影響します。日本の内需はデフレと人口減少で長期的に期待が出来ず、それであれば日本株よりも米国株の方が有利であるというのが外国人の考え方です。今後、日本の内需型産業が成長を示せるかどうかが、中期的に日本株が上昇できるかどうかを左右すると考えられます。

4~6月の実質GDP成長率が2四半期ぶりにプラス成長に転じ、名目GDP(年率換算)が初の600兆円に乗せ、企業は賃上げしながらも業績拡大を拡大しました。8月15日時点でほぼ全てのプライム企業が2024年度1Q決算発表を終えましたが、1Qの売上は前年同期比+6.7%、営業利益は+13.0%と直近コンセンサス予想を上回っています。この様な流れが今後続くかどうか確認していきたいと思います。

金利

金利も株式市場ほどではありませんが、落ち着きを取り戻してきています。
個人的には日銀の利上げを考えると日本の金利は上昇余地があると見ています。今後も米国の動きを強く受けながら落ち着きどころを探る展開になると考えます。

日銀の金融政策変更の結果ですが、利上げをしても財政赤字を抱える日本では円安・債券安となるという最悪の日本崩壊シナリオは回避されており、少なくとも今のところは、しっかりと金融政策が効いています。

日銀の金融政策の今後に関しては、今回の教訓を受けて、グローバルな金融政策のミスマッチによる影響をより慎重に考えていくことになるのかもしれません(昭和のブラックマンデーの時にも日米独の金融政策のミスマッチが指摘された)

為替

継続して主張していますが、米国の政策金利は引き下げ方向、日銀が金融引き締め方向に動いていることは変わりなく、2022年以降の構図が金融政策的には一気に逆転してきています。円キャリートレードの巻き戻しは一旦終わり、株式市場のパニックを受けてた内田副総裁がハト派のコミュニケーションによって、再びやや円安傾向となっていますが、金融政策決定会合時のレート迄日本円を売るのは動きは取りづらいと考えられます

日銀コメントからは今回の利上げを最終にしたくないという意志が伝わっており、植田総裁も記者会見で0.5%は天井でないと明確におっしゃっているわけですから、マーケットが落ち着けば、日銀はさらなる利上げを狙ってくるという思惑は消えないと思います。そう考えると、円安をベースにしたトレードはやりにくいのではないでしょうか。

つまり、Easy tradeの巻き戻しは一旦終わったが、元のポジションに戻るわけではないという考え方を維持します。


<注目したニュース記事>

8/11日経 情報中毒から理性守れ

<要約>
カナダ・トロント大学の哲学者ジョセフ・ヒース教授は、現代社会におけるテクノロジーの影響と人間の理性について、深い懸念を示しています。彼の見解によれば、情報技術の進化が恩恵をもたらす一方で、非合理的な行動や社会分断を助長するリスクが増大していると指摘します。

理性の退潮と現代社会
ヒース教授は、トランプ前大統領の台頭や新型コロナウイルスに関連するデマや陰謀論の広がりを例に挙げ、理性的な判断力が弱まりつつあることを憂慮しています。彼は、1960年代のカウンターカルチャーの時代から、人間の非合理性が資本主義によって利用され、むしろ強化されてきたと論じています。

テクノロジーと資本主義の矛盾
ヒース教授は、現代の資本主義がハイブリッド車やオーガニック食品など、環境保護という理念を商業的に利用している点に注目しています。これにより、環境配慮型の消費行動がファッション化し、SNSを通じて自己顕示的に広まっていると指摘します。

ビッグテックと人間の弱点
教授は、ビッグテック企業が人間の注意力を奪い、思考停止を招くと批判します。アルゴリズムが私たちの行動を操作し、気づかぬうちに長時間をオンラインで過ごすように誘導している現状を懸念しています。人々が自らの弱点に目を向け、テクノロジーの影響を自覚することが必要だと述べています。

テクノロジーの適切な利用
ヒース教授は、理性をサポートするテクノロジーを積極的に活用することが重要だと強調します。彼自身が実践している例として、スマートライトや睡眠管理デバイスを挙げ、これらが理性的な生活習慣を促進するツールとして役立っていると説明しています。

現代社会への警鐘
最後に、ヒース教授は、テクノロジーの不適切な使用が理性の力を損なう危険性を強調し、民主主義や市場経済の健全性が脅かされる可能性を警告します。テクノロジーとの付き合い方を選択的に考え、合理性を維持することが現代社会の最大の課題であると結論づけています。

ヒース教授の主張は、私たちがテクノロジーとどのように向き合い、社会の健全性を保つかについて、深く考えさせるものです。

<河北コメント>
私は著書の中でも繰り返し書いていますが、情報に埋もれることなく自分自身で判断していく事が投資では必要です。情報を吟味することなく取り過ぎることは情報が少ない場合よりも危険な場合があると私は考えています。

8/13日経 億ション続々、高騰でも… 日本の住宅「割安」

<要約>
日本の住宅価格:国際比較で見た「割安」感と地方活性化の課題

都心の高額マンションと国際的な「割安」感
東京都心の新築マンションの平均価格が1億円を超える中、日本の住宅価格が割高であるという印象を持つ人も多いかもしれません。しかし、国際的な視点から見ると、日本の住宅価格は「割安」と評価されることがあります。経済協力開発機構(OECD)の指標「住宅価格収入比率」によると、日本はOECD平均を下回る水準にあり、住宅価格の上昇率もコロナ禍後はOECD平均より低いのが実情です。

新築偏重と中古市場の低迷
日本では依然として新築住宅への志向が強く、これが中古住宅市場の低迷につながっています。欧米主要国では市場に流通する住宅の約80%が中古住宅であるのに対し、日本ではわずか14%しかありません。このため、住宅市場全体が活性化せず、空き家が増加し、価格も上昇しにくい状況が続いています。

空き家と地方の課題
日本の空き家率は13.0%で、これは米国や英国よりも高い数値です。一方で、新築住宅の着工数は人口1000人当たり6.6戸と米英を上回っており、新築住宅が供給され続ける一方で、既存の住宅が有効に活用されていない状況が浮き彫りになります。特に地方では、空き家問題が深刻化しており、これを解決するためには中古住宅市場の活性化が不可欠です。

海外資金と地方活性化の可能性
円安傾向が続く中で、海外からの資金が東京都心の物件に集中していますが、この資金を地方にも分散させることが重要です。地方の住宅市場が活性化すれば、個人の家計にも恩恵がもたらされる可能性があります。日本の地方部には、外国人観光客が魅力を感じる地域も多く、彼らの中には移住や別荘購入を検討する人々もいるかもしれません。

政策提言と未来の展望
不動産市場の活性化には、透明性の向上が不可欠です。建物の情報を整備し、インターネットを通じて海外からも簡単に取引できる仕組みを整えることが求められています。また、リモートワークの普及が進めば、都心から地方への人の流れが変わり、地方の住宅市場が活性化する可能性もあります。

まとめ
日本の住宅市場は、都心の高価格にもかかわらず、国際的には「割安」と評価される一方で、地方部や中古市場の活性化が課題となっています。海外からの資金を地方に分散させ、地方市場の活性化を図ることが、今後の日本の不動産市場の安定と成長に寄与するでしょう。

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