注目される株主提案を巡る攻防
今年も株主総会の季節になりました。今年は特に株主提案の動向が注目されます。
かつては、株主提案が真面目に議論されることは稀でしたが、以下の理由から株主提案が可決される可能性も高まっていることがその背景です。
①安定株主の減少と機関投資家比率の増加
②機関投資家はスチュワードシップ・コードの受け入れにより、議決権行使方針及びその結果の公表を求められている
つまり、株主の権利に沿った議決権行使を行う投資家が増加している事から、以前に比べて株主提案が可決あるいは、株主提案が高い賛成率なる可能性が高まっているわけです。
株主提案に対する賛成率が高くなる場合、企業はコーポレートガバナンス・コードで、高い賛成率をどのように考え、今後どのように対応するのかを説明する事が求められる事から、たとえ可決されなくても株主提案はインパクトを持つことになります。
とくに注目すべきなのは、株主提案の内容が賢くなってきている事です。かつての株主提案は、株主の論理を押し付けるものも多かったのですが、最近のアクティビストの提案は、他の投資家からの理解を得やすい内容のものが増えています。
機関投資家の議決権行使方針は、開示されている事もあり、機関投資家がどの様な案件に賛成しやすいかは事前にわかるため、アクティビストは機関投資家が賛成しやすい形で提案をするようになっているわけです。
優良事業の売却や大幅増配など、長期的に見て企業価値を損ねる可能性が高い株主提案であれば、機関投資家は反対するが、「資本コストや株価を意識した経営」に沿うように、ROEやPBRを投資家が求めるレベルに引き上げるためのプランを示せといったメッセージであれば、機関投資家も反対しづらいわけです。
3月に行われた江崎グリコの株主総会では、配当内容を株主総会でも決められるよう定款変更を求めた株主提案が42.9%もの賛成票を集めましたが、株主の権利を重視する議決権行使方針を踏まえれば、この様な株主提案に反対するのは困難と考えられます。
機関投資家の議決権行使方針はマチマチですが、株主提案に対しては以下のような方針が多いようです。
1.企業価値向上につながるかどうかを個別に判断する
2.社会的、政治的な主張や、業務執行に関わる議案には反対する
3.情報開示の充実を促す提案は原則賛成する
4.会社がすでに取り組んでいる場合には反対する
これを見ると、必ずしもアクティビストの提案が簡単に通るわけではなさそうですが、アクティビストの攻勢に対して、企業は対話や提案を一部のみ込み、自ら企業価値の向上につながるアクションを起こすケースも増加しています。
アクティビストとしても、コストや労力のかかる株主提案よりも、水面下で企業と合意できればそれに越したことはないわけです。株主提案にまでエスカレートする案件は、ある意味ではエンゲージメントの失敗とも考えられます。
ただ、通年で行っているエンゲージメントであっても、株主総会は1つの区切りとなるため、ここで出て来る株主提案や、企業のアクションには注目していきたいと思います。
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