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ファンドマネージャーに聞く①

日銀の出口戦略が株価本格的上昇の号砲に!



今回は元アセマネOneのファンドマネージャーでハイブリッドマネジメント(株)代表の坪田好人さんに現在の株式相場の見方や考え方、投資理論や資本市場の課題について聞きました。

坪田さんは1982年に日本興業銀行に入行し、1989年に興銀投資顧問に派遣された後、30年間日本株アクティブファンドマネージャーとして活躍しました。2000年にモーニングスターの最優秀賞を皮切りに数々のアワードを受賞され、2018年2019年と連続でR&Iファンド対象投資信託20年部門最優秀ファンド賞を獲得した、日本を代表するカリスマファンドマネージャーです。
アセマネOne退職後はハイブリッドマネジメント(株)www.hybridm.co.jp を設立し、株式投資を真剣に学びたい個人投資家や機関投資家向けに投資理論の解説だけでなく、実際に運用を始めて解る悩みを相談する場を提供されようとしています。


日本株は大きな転換点に入っている

河北:坪田さんは大きくは10年ごとに相場の転換点がきているとおっしゃっていますね。
坪田:はい。1989年のバブルのピークからの大調整局面、1999年のITバブル相場とその崩壊を経て、2003年の国内金融不安からのリバウンド相場、2009年のリーマンショックからの反発と、その後のアベノミクス相場、2019年からの米中覇権争いを転機とした調整局面と、新型コロナウィルスによる暴落からの新相場と、大きな区切りがあり、2019年からは新サイクルに入っていると考えています。

河北:ついに日経平均が40000円台に突入した今の株式相場をどう見ていますか?
坪田:日本株は2012年からの中国の地政学リスクとアベノミクスにより大きな上昇相場に入り、その後も長期的な上昇相場が継続、米国ほか先進国の株高にも支えられて足元の株価水準に達しました。ただこれはこの間数十兆円に及ぶ日銀のETF買い等公的資金が投入された結果であり、純粋な相場観に基づいた投資活動によりもたらされた株価水準ではまりません。これから日本はこの出口に向かって試行錯誤を繰り広げる未来が待っています。ただこの解決の過程が、仮にその痛みによりいったん大きく調整するにしても、その後の新たな株価上昇につながると考えています。

河北:日銀のETF売却は、短期的には需給から見たら悪材料と考えられがちですが、長期的に見た場合むしろ本格的な上昇要因となると見ているわけですね。
坪田:はい。一方で短期的にはここまでトレンドとして形成された上昇トレンドが崩れるのはブラックスワン的なイベントによるものと考えられ、そのタイミングとイベントの内容はとても断定できるものではありません。投資家は予断を持たず相場の動きを注視する必要があると考えます。

河北:相場のリスクを具体的に挙げるとするとなんでしょう?
坪田:米国のインフレ加熱、中国の金融不安、台湾有事などの地政学リスク、が現状考えられる大きなリスクですが、このどれかあるいはいくつかが相場を大きく揺るがすことになってしまうのはもう少し先と想定しています。短期的にはこの一時的な下落があっても日本はインフレや金融株の強含みが相場を下支えするので、指数全体の上昇トレンドを崩す様な下落には当面ならないと考えています。
もちろん、一週間後には言っている事が変わっているかもしれません。相場を見ながら考えていくし、外れた時にどう対処するかの準備が出来ているのかがファンドマネージャーとして大事ですね。私はなかなかできなかったですけど(笑)。

現在の株式相場には大幅調整の兆候もある

河北:なるほど。そういう意味では坪田さんの本当の相場観を理解するためには、現在のポジションを聞くのが良さそうですね(笑)。
坪田:もちろん、とても半身ですが基本的には強気でロング(買い持ち)のポジションとなっています。ただ、組み入れている一部の小型グロース株のパフォーマンスは厳しいです。個別株ではショートしておらず、指数で一部ショートをしていると、足元の相場ではロングのポジションが指数に勝てず、全体でプラスのリターンにはなりますが、苦しいポートフォリオ運用を強いられています。
河北:強気な相場観でありながら、潜在的には不安を持っているという事でしょうか?どの様な点に不安を持っていらっしゃいますか?
坪田:現在の相場は典型的に相場がピークを付ける時の形に似て来ていると心配しています。過去で言うと、ITバブル、ブラックマンデー前夜、89年の後半にも少し似ているところがあります。一部の銘柄に物色が偏り過ぎている事が問題で、AIの議論はITバブルの時の議論と重なります。ただ、現在、相場がピークを付ける6ヶ月前なのか一か月前なのかは分かりません。
90年代に神様のように言われたヘッジファンドの運用者の中にも、89年の後半には潰れかけるところがありました。相場のリスクを認識しつつ死なないようなポジションを取ることが大事だと思います。今ショートを振りに行って、何年後かに相場が下がっているのを見て、あの時の自分の意見は正しかったと言っても、その前の上昇相場で破綻していては意味がまりません。

河北:何を指標に見て相場がピークを付けたと判断するつもりですか?
坪田:現在の指標銘柄です。日本株だと、東京エレクトロンの株価などを指標として見ています。
日本では製造装置の株価が崩れたら一旦は終わりです。ただ、銀行株などにはチャンスがあると思っています。過去30年、銀行株は上昇しても、極めて短期で終了してきました。その都度、期待する人はいましたが、そこで相場についていかない人が結局正解でした。これが今後どうなるかは日本株のポイントです。

河北:銀行株は結局イールドカーブが立つかどうかで決まるわけで、これまでは環境が悪すぎました。デフレが終わり、インフレになるのならば、環境が大きく変わります。
話しは少し横道にそれますが、銀行株とアクティブファンドの関係でいうと、日本株アクティブファンドは銀行株をアンダーウェイトすると書いていなくても、結果としてアンダーウェイトする運用方針となっているものが多いです。ある意味で、見えない投資哲学になっています。そのためアクティブファンドのパフォーマンスは苦戦しており、ますますパッシブ化も進んでいます。最近、外国人が買っているという話が多いですが、パッシブの買いの場合はダメだと思ったらすぐに引くことが出来ます。本格的な買いとはとても言えません。

米国株が調整した場合日本株の下げが最もきつくなる

河北:さて、先程の話で、坪田さんは相場が大天井を付けるリスクを意識されているわけですが、その時日本はどうなりますか?米国ほどの過熱感はないし、東証の市場改革など独自要因もあります。
坪田:まず、株主還元やガバナンス改革、女性活躍などが相場の本質的なプラス要因になっているとは思っていません。これらは相場上昇局面で後付けの説明として使われているだけです。
残念ながら、米国が大天井を付けて下落する時には少なくとも短期的には日本株の下げが一番きつくなるのではないか考えています。

河北:日本株の下げが最もきつくなるのはなぜですか?
坪田:これは市場構造に問題があるからです。日銀のETFポジションが大き過ぎ、価格がコントロールされているマーケットだとの認識がグローバルにあるため、まともな長期の投資家が本格的に日本株を買ってはいません。一方でバブル崩壊後の経験則から、相場が下がりだした時に、独自の判断で買い向かう国内投資家が短期的にはいません。個別で下げ止まるものがなく、無抵抗にただ下落することになります。
株の売買の仕方も日本人は下値で指値(価格を決めた注文)をする傾向にあります。外国人は基本的には成り行き(売買値段を指定しない注文)です。日本人が売りの道を作り、外国人がトレンドを出してしまいます。目先で少しでも安く買って高く売るべきという投資教育に問題があると考えています。どのように買うか売るかが大切です。

河北:この辺りの話はトレードに関するかなりテクニカルで難しい所ですね。
坪田:投資に関してさまざまな説明がありますが、本当はこういうところも教えた方がいいです。専門家として説明している人が自分のお金では株式投資をしていないのも問題です。他人のお金で株式を売買しているだけなので、自分のお金を扱った時に心理やお金の管理の仕方を分かっていません。私もこの3年間は自分のお金で個人投資家として売買していたので、さまざまな気付きがありました。

NISAの説明はもっと丁寧に

河北:なるほど、その他に現在気になっている事はありますか?
坪田:NISAに関する説明がひどいです。NISAの意義を長所だけでなく、短所も含めて正確に伝えて欲しいです。「長期・分散・積立」「オルカン」だけでやれば必ず資産がどんどん増えるといった説明はおかしいのです。

河北:「長期・分散・積立」は資産形成の基本だと思いますが、その意味をリスクも含めて正確に伝える必要がありますね。ましてや坪田さんの相場観から見れば「オルカン」や「SP500」を出来るだけ早く、出来るだけ多く買えばよいと言った論調には、かなり問題があるという事ですね。
坪田:そうです。短期的にはとても皮肉ですが、初心者であればあるほど勝ちやすいと言えます。初心者は相場で損をした経験がないから、いくらでも現在の相場トレンドに沿った勝負が出来ます。これは今に始まった事ではなく、いつの時代でも共通しています。そして大半のマネージャーがそのトレンドが終わった時に消えていきます。今の相場も押し目があればすべて買うという人がもっとも儲かってきました。オルカンや長期積み立ての話もそれらしいし分かり易いです。だからどんどん買えるのです。しかし、買う時にストレスがないものは怖いく、ストレスなく買えるようになると終わりが始まっていると思った方がいいです。
せっかく個人の投資文化が始まろうとしているわけですから、しっかりとリスクも含めて説明して欲しいです。
河北:インフレ時代に投資は不可欠ですし、ただ陣取り争いのように販売するのではなく丁寧に説明して、日本人の投資リテラシーが高まるようにしたいですね。

さて、せっかくなので最後に最近の投資テーマについても少しだけお願いします。

半導体・PBR1倍企業

河北:日本株を主導している半導体株については、どのように見ていますか?
坪田:半導体は装置や素材はたしかに日本はシェアが高いが、マージン的に米国勢が参入しない分野だという要因が大きいです。本質的な参入障壁自体が高いわけではなく、シクリカル(循環的な景気変動のこと)だと思っています。ただ、この辺は半導体の専門家に聞いて欲しいです。AI革命は半導体製造装置や材料ではなく、サービスの分野を注目しています。

河北:東証のPBR改善要請などで上昇しているバリュー株についてはどう見ていますか?
坪田:PBR1倍割れに関しても手段が配当・自社株買いに偏っているのには違和感があります。本来投資に回すべきお金を配当・自社株買いに回していたら企業価値を最大化できず、本末転倒になります。そもそも株主還元という言葉自体が、負債に対する金利とごっちゃにしているような言葉でおかしいと思っています。
日本企業は潰れそうにならないと大きくは変わってきませんでした。今でも現時点で問題がある事業のリストラを進める会社はありますが、本来は5年後が危ぶまれる事業を切って行かなければなりません。そのような企業がちらほらみられるようになりましたが、まだ本格的ではありません。
河北:投資家も表面的な企業の変化ではなく本質的な企業改善が行われているかにより注目し、しっかりと対話をすることが重要ですね。そのためには投資家もより勉強しレベルアップしないといけないと思っています。

河北:坪田さん、本日はどうもありがとうございました。これからも定期的にお話を聞かせてください。


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