死神との安楽椅子ラブコメ

 人間的に正常な働きができない状態が異常ならば死ぬことができないのもある意味では病気と表現をできるのかもしれない。

「正確には死んでいるんですが、なんやかんや生き返っている状態なので死神に嫌われている可能性が高いかと」

「死神本人に言われるとはな」

 そう言って病院のベッドで横になっている男の子がかたわらに立つそのへんにいる女性っぽい格好の死神を見上げる。

「まあまあ、神さまやら魂やユーレイの存在は五百年前にかしこい人類に証明されてしまっているから今さらですし」

「カルテさん、今日も調べさせてもらいますね」

 色々な医療道具をのせたトロリーを押しつつ看護師がカルテと呼ばれた男の子の病室に入ってきた。

「死神さんも毎日おつかれさまです」

「看護師さんも大変ですね」

「そのぶんの給料はきちんともらっているので死神さんも同じでは?」

「死神に労働基準法はないですよ。数日前にエンマさまが暗殺されて、わちゃわちゃしていますし」

 死神の発言をいつものように聞きながし看護師はカルテの身体に触れる。医療道具もつかい彼の口の中や眼球運動も確認していく。

「やっぱりカルテさんは肉体的に死んでますね」

「そうですか」

「自分で身体が動かせないのも肉体的に死んでいて機能してないから。と先生からすでに聞いているんでしたね」

「こちらの死神からも聞いてます」

 なぜか目玉だけは動かせますけどね、とカルテは看護師のほうに視線を向けた。

「それでは、やっぱりエンマさまが殺されたことがカルテさんが生き返っている原因?」

「原因というかエラーとかバグのたぐいです。最新のエンマさまが働いててあっちは正常なのにカルテくんだけは異常なまま」

 現在のオカルト話ってところですよー。軽い調子で死神が話をつづけている。

「死神がオカルトとか言うなよ、こわいだろうが」

「あー、すみません。えっと、エンマさまか神さまのイタズラってところですねー。てへりん!」

 表情を変えず自分のかわいさをアピールするようなポーズをする死神を、カルテと看護師がひややかな目で見た。

「という感じなのでカルテくんの死神担当のわたしが今回の件が解決するまでの間はご奉仕しなさいと上司から言われています」

「死神さんの直属の上司は」

「わたしの上司の場合は天国を担当してらっしゃる方です。なぜか昨日ナイフで二十回ぐらい刺されて殺されてしまいましたが」

 しれっと死神がトロリーの二段目の台の上に赤い血らしきもので汚れたナイフを置く。看護師に処分をお願いしているのか彼女がウインクする。

「では、あとは若い二人で」

「看護師さん。お願いだから助けてください」

「安心をしてください。カルテくんの顔はわたしのお気に入りなので殺したりしません」

「一応カルテさんはすでに死んでますけどね」

 看護師が死神に軽くつっこんでいた。

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