自分で自分は意外と見えない
鏡にうつる自分は今日もかわいい。と周りの人間に伝えているかのようにヒカリは折りたたみの丸い手鏡に向かって笑顔をつくった。
前髪の位置が気に入らないようでヒカリが指先で微調整をする。電車の動きに合わせて彼女の黒色のミディアムボブが左右に揺れた。
「お嬢さん、かわいいね。学校なんかサボタージュしてお茶とかしない?」
むっとした表情ではしっこの座席に腰かけていたヒカリが声のしたほうを見上げる。相手が知らない人間ではないことを確認すると彼女の顔つきがやわらかくなった。
「古いナンパはお断りしているので」
「きれいな女の子が、かわいい女の子をナンパするのは新しいと思うけどな」
「確かに」
「ぜんぜん否定しないとか、かわいすぎかよ」
大人しそうな見た目とは裏腹に豪快に笑いアンナはヒカリの隣に座る。ほとんど透明にちかい水色の髪が腰かけていた彼女に当たるのを気にしてか少しだけ距離をとっていた。
「彼氏でもできたの?」
「女子としてのたしなみだから」
「そお。てっきり、あたしはあのかっこいい転校生のためなんじゃないかと」
「答えが分かっているのに質問をするのはあんまりかわいくないような」
「図星なんだ」
「うん」
にやつくアンナに隠しごとは無意味だと判断したようでヒカリは小さくうなずく。
「誘わないの? ヒカリだったら男子でも女子でも断られることはないでしょう」
「そういう問題じゃないよ。普通に声をかけようとするだけでも緊張するのに誘うとか絶対にムリ」
「よく分からないな。転校生に見てほしいからこそかわいくなろうとしているのに、声をかけたりするのはNGなんてね」
「アンナはそういう女心が分からないタイプだし」
「あたしは女子じゃなかったのか」
ショックだなー、と口にしながらも女子としてのなにかしらが欠落していることを悩むつもりはないようでアンナがあくびをしている。
「女心が分かるようになる食べものとかある?」
「からあげとか」
「じゃ、あとでコンビニで買おう」
「その……ごめんね」
「んー、別に気にしてないよ。あたしは生まれた時からこういうやつだって受け入れているから。女心が分かっちゃったら、あたしじゃないんでね」
「それでも、ごめん」
「分からないな。こんな風にきちんと謝れたりするのはヒカリが良いやつで自信をもっていいのに」
アンナが左手でヒカリの頭に触れる。つややかな黒髪の肌触りのよさに驚いているようで大きく目を見開いていた。
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