マンボウが消えた日

私は風船が好きだ。
街頭で風船を配っているのをみると、あ、いいなと思う。
大人の私は、当然ながら、もらえない。
大人って、ちょっと悲しい。

風船は好きだけれど、数日でしぼんでしまうのが寂しい。
こどものころ、せっかくもらってきた風船が部屋の隅で力尽きているのをみて、がっかりしていた。

そんなとき、ヘリウムガスの風船を知った。こちらはずっとパンとしているし、ガスの補充もできる。
私は親に、マンボウの風船を買ってもらった。

ずっとしぼまないマンボウ。
部屋の天井にいつも浮かんで、水族館気分が味わえる。私はベッドに寝転がりながら、惚れ惚れとマンボウを見つめた。

でも、幸せな時間というのは、長くは続かない。
ある日学校から帰ると、母が「大変。マンボウが、旅にでちゃった」と言ってきた。
母が窓を開けて洗濯物を外に出している間に、マンボウは私の家を脱出し、悠々と大空へ泳いでいったそうだ。

失意の私は、メアリー・ポピンズを思った。
彼女も白いコウモリ傘で風に乗ってやってきて、また風に乗って帰ってしまう。
メアリー・ポピンズはその後再び帰ってくるけれど、私のマンボウは、帰らないままだ。

母さん、私のあのマンボウ、どうしたんでせうね?

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