蚊帳と蛙と、蝉時雨

先日の日経新聞に、歌人長塚節の記事がでていて、歌集「鍼の如く」の蚊帳の歌がたくさん紹介されていました。
蚊帳、懐かしい。

子どものころは、夏休みに祖母の家で、蚊帳を吊ってもらっていました。
つい、フワッとやって、大きく入りたくなるのだけれど、その入りかたは、邪道。
蚊と一緒に入ってしまうから。
小さく開けて素早く体を滑り込ませるのがコツですが、なかなかうまくいかない。

蚊帳の中に入ってあたりを見回すと、世界がふわふわと柔らかで、天蓋付きベッドで眠るお姫様の気分でした。
畳に布団で、外では蛙が絶え間なく合唱していたので、かなり和風なのですが。

母は、蛙がうるさくて眠れないとよくこぼしていたけれど、私はあの規則的な合唱が、お経みたいで妙に落ち着きました。

すぐに眠り込んでしまい、気がついたら朝で、クマゼミがしきりにシュワシュワシュシュ…と鳴いていて。
蛙の合唱も、蝉時雨も、夏は、生きるエネルギーに満ちています。

いつの間にか、すっかり涼しくなりました。祖母の家の蛙は、まだ鳴いているのかな。

小さなる蚊帳こそよけれしめやかに雨を聴きつつやがて眠らむ

長塚節「鍼の如く」


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