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子供が投げたおもちゃにそっくりなのに飛行船になれない

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点滅社で書いている躁鬱病と閉鎖病棟での措置入院体験についてのエッセイ。
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子供が投げたオモチャにそっくりなのに飛行船になれない【第四話】:「何者にもならない群れたち」

子供が投げたオモチャにそっくりなのに飛行船になれない【第四話】:「何者にもならない群れたち」

「そのまま生きようとしてればいい」

主治医のカバの言葉が頭の中でリフレインしながら私の心の言葉とのポリリズムが産まれた。

生きようとする事は何者かに成らなければならないという事、そんな風に考えて生きてきた私は生きようとすることの責任感に押し潰されそうになった。
生きようとする「だけ」なんて無責任なんじゃないだろうか?

鳴り止まない頭の中はキリキリキリキリとした音で覚めた。
拘束室の冷たい鉄の

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子供が投げたオモチャにそっくりなのに飛行船になれない【第三話】:「ようこそ都合のいい天国へ」

子供が投げたオモチャにそっくりなのに飛行船になれない【第三話】:「ようこそ都合のいい天国へ」

「魚住さんが着てるパーカーの首元の紐、取っちゃいましょう。ここで首吊られると困るからね」

「それとボールペンも没収ね、手首とか引っ掻かれると困るから」

「これから朝昼晩かかさず薬を飲んでもらって、あーその前に主治医の紹介があるからちょっと待ってね」

看護師が入院の説明をしているけれど私はここから出られる気は全くしなかった。
現代風のちょっと綺麗な座敷牢という感じで看護師は患者を人間として扱う

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子供が投げたオモチャにそっくりなのに飛行船になれない【第二話】:「動かない車窓から」

子供が投げたオモチャにそっくりなのに飛行船になれない【第二話】:「動かない車窓から」

アルコールと精神薬がしっかり体に馴染始めてから半年以上経った。レキソタンを2シートと黒霧島を飲んでとても興奮している。
その足で私は今家の近くのビルの屋上に来ている。ぼんやりと旦那さんが階段を駆け上がってくる音が聞こえる。

私と旦那さんは深い共依存関係になっていた。
お互いに深く愛し合っていたし、互いの事を全く知ろうとしなかった。それなのに私は旦那さんがいなくなってしまったらもう生きていけないと

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子供が投げたオモチャにそっくりなのに飛行船になれない【第一話】:「回想、私がペンギンを好きになったのは彼らが空を飛べなかったからなのか」

子供が投げたオモチャにそっくりなのに飛行船になれない【第一話】:「回想、私がペンギンを好きになったのは彼らが空を飛べなかったからなのか」

祖母が生きていた頃、祖母の住む長崎県によく父親と遊びに行った。
幼い私は長崎ペンギン水族館が大好きで何度も連れて行って貰っていた。
私の生まれは熊本県熊本市、寡黙で勉強好きな父親と精神的に不安定な母親の元に産まれた。それから成長するにつれて私が躁鬱病と不安障害に悩み閉鎖病棟に措置入院するまで、そして退院してから何を考えながらどう生きているかをここに残したいと思う。

「私の幼少時代は、青春時代はき

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