辛さ

辛さは人それぞれだ。

何を当たり前のことを言っているのかと思われるかもしれないが、当たり前でも大事なことは山ほどあるだろう。

辛さは人それぞれで、だからこそ、その人にとっては大事なものだ。他の誰にも侵されない、大事なものだ。

辛さなんてない方がいい。気分が滅入り、死に思いを馳せ、青く高い空に消えていきたくなる。そうなる原因など、ない方がいい。

個人的には辛さを抱えていた方が人間として面白いと思うが、辛さを抱えている人間を面白いと思っているのか、面白いと思った人間が辛さを抱えているのかは判然としない。とはいえ、精神衛生上辛さはない方がいいが、あったとしても総合的にマイナスになるとは限らないと思いたい。

でも結局これはただの願いだ。辛さに意味があってほしいという願いだ。
だってこんなに苦しいのに、ただ苦しいだけなんて信じたくない。
自分だけのもので、だからこそ誰にもわかってもらえない辛さを抱えるしかない痛みが、いつか何かいいものにに変わって欲しいと、そう願ってしまう。

しかし、これは自己中心的な願いだ。人の辛さはわからない。それ故にその切実さを完全に受け取ることはできない。
高校生がクラスが嫌だと言ったとしても、高々数ヶ月我慢すれば終わることだろうと思ってしまう。かつて自分も似たようなことで切実に辛かった記憶はあるのに。

その人にとっては生死に関わる辛さであっても、辛さを理解することはできない。「あなたの気持ちはわかる」なんて傲慢だ。

だからこそ、辛さに価値を認めねば、共存できなくなる。押し潰されてしまう。
自分が分かる範囲の辛さ、つまり自分の辛さに価値を願い、人の辛さについてはわからないものの、その辛さを尊重する、そういう態度が大切だと思う。

辛さを比べるのも悪手だ。自分の価値を蔑ろにしてしまいうるし、他者の辛さの不尊重にもつながる。

辛さは虚数みたいなものだろうか。その数自体の価値はあるが、大小を比べることはできない。虚数の情緒を感じなければならない。


辛さに価値を願い、今日もこの絶望的な辛さと付き合おう。

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