見出し画像

わたしの詩集

 切なさの詩集

2018/3/17

 -くしゅん-

くしゅん

くしゅん

へっくしゅん

ややや花粉だな

三月は冬ぽい荒涼が漂い残る

黄色い野花の幻が浮かんでいて

そよ風にそよいでいる

鼻がこそばゆくて

何度も何度もくしゃみをしてしまう

へくしゅん

へくしゅん

へっくしゅん

2020/2/6

 -根-

空気が花の鮮やかな色を嗅ぐと

花壇の土から声がした

寂しい小さな声がした

なんだろう

2018/3/18

 -ゆめうつつ-

はてと。

陽の光が鮮やかだが

もう鳥たちが飛んでいるのか

長閑な森に聴覚も薄れる

ただ静かな世界が

私の胸に

たゆみ、揺れている。

2018/3/24(土)

 ‐陽気‐

机の隅で

ぼーっと顎を腕で支えていたら

漂う風に

春の訪れを感じ

乗っていた自転車の

霞みがかる山々を思った

 -レストラン‐

窓硝子の中で

透明な太陽が春らしい光で騒いでいる

2018/3/25

 -ランチ語り-

春の訪れ

店の雰囲気

日陰にある小さな机は

コップを満たす水のことより

弥生の空や草花について思い出させた

しかし

景色を思う暇もなく

すぐ一品が運ばれてきた

田舎の緑の姿は去って

グリーンカレーを見つめてしまった

「これはなかなかうまそうな」

そう囁くのは湿りはじめた

私の舌の

麗らかな語り部

季節の風景より

この一品に魅了されたようだ

2018/10/10-12

 -髑髏-

 《Ⅰ》ささやかな意思

それは、春に転がる髑髏
微風を待ち、嗚呼、僕は
菜の花畠に、死んでいます

それが、淋しい晴れ姿
母よ、父よそれが人生でした
空の羽毛は暖かいまま―

 《Ⅱ》骨の涙

春に転がる髑髏の唄―――
嘆け、はたと泣いたこと

雪の涙のその音は
   雲に消え
      そして山に消え

 -時間帯-

路地裏はややこしく入り組み

おもしろい一軒にひとを連れこむ

ふてぶて猫が

赤錆びた鉄階段の一段を塞いでいた

やっとのことで港へ出たが

春の夕陽はなかなか沈まない

※三原在住時

2018/3
2019/7/4

 -気の早い腕時計-

向こうに夏が見えた
それに慌てた短針が、真昼の暑い2時まで動く

灼熱の海は硝子に映った、
まだ暦は春だというに

2018/3/27

 -森林浴-

小枝が親しげに

麦わら帽子のカーブを転ぶ

山の緑に涼しい風が絶え間ない

肌へ打ち付けてくる

陽射しは黄金の音楽

葉がかさこそと

震えだす

2018/ 10/31-11/1
2019/2/7-9修正

 -寂れた家-

《Ⅰ》 短冊

枯れた笹を震わせて

そよ風が囁きはじめた

短冊の薄れた言の葉

さらさら

さらさら

剥がれた壁の

穴を通じて

空へと流れた

《Ⅱ》  古書

そよ風のように

低く低く

蟻は

畳を這って

古書のページを、歩き回り

文字を静かに、静かに掴んだ

音もろとも

引きずってゆき…

2020/10/××

 -お膳の秋-

紅葉狩りの日

朝は晴れて

蓮根煮に添えられた人参が

楓の色に映えていた

 -夕空-

爽やかに響いた山鳥の声

なにかを不思議がるような声だ

他にも人がやって来たのか

秋の大空が暮れてゆく原っぱで

哀れな風の音を捉えている青年が

古いカメラを鳴らしていた

 -散歩は自嘲しながら-

秋の大地はあくびを噛みころし
空はゆるゆる眠気を流す

ひとっこ一人いないような公園で
ひとっこ一人ゆうに見つけ
とぼとぼ寒さに強張りながら
逃げる鴉を急かして遊ぶ

その鴉から恨みを買って…
そんな絵面を思い浮かべて

くだらぬ欲で悪さするのは
嫌な天候してるからだと
口の白息燻らし僕は
どうにか空に笑われたいさ

そう山にでもくすっとされれば
おかしな話

もっとも平野を見渡すうちに
空想閉じるいつもの話
青空からは塵ひとつ落ちないな
丘から見下ろす田んぼの風景

寂しさは友ではないというのに
風へと体の熱は出てゆく

冷たいこの日に逆立つ産毛は
足先の震えを凌ごうとする
その身をじゃりじゃりトイレまで引き
尿を寒々 足していた

ああ緩すぎないか、この昼下り
中途半端な木曜日

2022/12/15

 -落葉が風に吹かれる一日-

    落葉
   か
  ら
 ら


             ら    
  恒星の輝き       ら 
            ら
  飛んで渦巻く落葉は匂う?   
            ら
         |窓硝子|
         
         通    ら
         行
         し
         た       ら
         冬        ら
  落      の
  葉      時     ら    
         間
         、
         そ        
  か      し      ら
         て
 ら       そ         ら
   ら     の
   ら     傷      ら
         を
 ら       撫       ら   ら
         で
         よ
                  
 お湯はたぷたぷ。お料理ふにゃり。   ら
     夢は整然。炬燵の深み。 ら

                ら
         |勝手口|                   
        「ア  
 落       ケ          か
 葉       ル       落
         ノ       葉  
   から    カ」       
       ら       ら   らら  

2023/4/11

 -藪にて-

ひらひら舞い落ちた雪の想いは

古新聞を濡らして

悲しいことに

水に還っただけだった

 -手品ショー-

浮かんだハット
よろめく、シルクへ
眩く観客
床にはそっと

ときめく目の色
流れはとろい
手品師ひろって
閃く電灯

あらわれ安堵
ひそめくこわばり
花めく手の先
拍手の一途

 -残念な一張羅-

農家の家にゃ鼠が隠れる

そこに暮らすは年寄り夫妻
翌朝聞いたその夜の知らせ

服喰われたはわたしの婆ちゃん
さっさと消えたはしらない鼠……

-----その一張羅は着れないそうな

2018/2/25
2023/8/13

 -二人-

遠い昔

素朴な社会が営まれていた時代

恋の喜びと悲しさを歌う文化はあっただろう

村落を離れて二人は

風のまま流れる雲のように

言葉を伝えあった

2020/10/××

 -シルエット-

空調で空気はゆうらりゆらりと動く
カーテンの隙から漏れて射す陽光

ベット台の脚が明るく照らされていた
床で一本の影が
細くなったあと太ってゆく
太くなったらまた細くなる

早朝に柔らかなシルエットが揺れた

 -挿絵のようなイメージ-

池に浮かぶ

空き瓶は昼寝していた

ふと柔らかな

水が湧いた

一度音符が鳴った

そして陽が光ると

虫の羽が見える

 -久遠の昼-

静かだ

平和がもたらす小鳥の囀り

道を通っているとき

日溜まりで何かがしゃがんでいた気がした

忘れられた土着の精霊だと

後で知った

命の陽炎が生まれて

土塊の歳月が沈んでいて

森の隠し事は愉快だ

 -太陽讃歌–

この星を生きる葉や羽根や屋根瓦をすべて射鳴らし

綺羅びやかな海の鱗を覆した

太陽の光線よ

空はいつでもその数を諳じられる

 -黄昏時の歌-

夕暮れは
町のはずれまで黄昏の大鎚を振るいました

そして夕日の衝撃は大地を鳴り響いて来ました

ビリリリリリリリリ
カッシャーン

屋根瓦は宙を舞って
降り注ぎ… 《まるでガラスの破片が輝くように》

道路は押し潰されて
曲がり… 《一面のゆらぐ太陽のように》

私は嬉しくて
手提げ鞄をおもいっきり、空にふって投げたのでした

山には鱗粉のような光りが落ちて
ただ
金色に綺麗でした。。。。そして

物陰にはなにも
聞こえてしまわないのでした

何も…

2018/2/25

 -寝室-

ベットで淡い意識が消え始めた

まどろむ二つの眼を遥かな月へ

           投げかけた

夜や

睡眠薬や

藍色の部屋

ここに

僕と足

2018/2/25
2020/7/6

 -月夜に開く窓-

花を活けた花瓶一つ

そこへ清らかなる三日月の祈りが

注ぐ傍では

永遠のように

心静まるというよ

誰でも

 -天文学の歌-

ふかき光跡の太陽に続いて
章を綴るように見つかってゆく星たち
点描に似た夜空

地に臥して己と旅をすると
右脳を霊が訪れる
脳の穴から栓抜いて
青い波長で空を注いでくる
五尺の体にその実と体の実態をぎゅっと注ぎ入れてきます

これは造化の仕事でも
7日間じゃ到底幕切れない量

ガスや隕石の無限の悲劇を
喜劇のように素描したのだ
時をも潰す孤独を経して
休みもよこさず書ききったのだ

友の昔の話のように
仲間の絆で語ってくる

遠く遠く手の暦から
長い長い引用をして

地面に描いた天球や空に描いた伝説は
惑星地球の生み出した
架空の星座に呟きかける、
淋しいこの世のイメージなのだと
少し振り返って語り切る

 痛みの詩集

2023/

 -石碑-

むかしそこに
そうですあなたが丁度立ってるあたり
その方は暮らしていました
彼は
すごく寂しがっていました
いつも言葉に困っていました
消えない痛みに病んでいました
分かり合える人間を必要としていました
でも無理だったそうです
そこで石に言葉を彫って
後世の人間の誰かに読んでもらえば
独りではなくなると思ったそうです
悲しいですね
その後どこでどう亡くなられたのか
この石碑は彼の願いを背負って
まだ倒れずに居ます

2023/3/23

 -焚き火-

日が昇っても夜が更けても
この焚き火と井戸を往復しては
俺に水をどばっとぶっかけるやつがいる
俺は意地だ
誰かの生きたいという情熱の火だ
あいつは悲運が雇った揉み消し屋だ
憐れな生命を揉み消したいんだ

俺は燃える
俺は消えない

そばで主が凍えているから
そばで暖を取る弱い生き物が凍えているから

2023/

 -とある大人が泣く詩-

流れる涙が綺麗だとは限らないから

濁したくもなる

月並な悲劇で泣いた頃が懐かしい

世を恨んで泣く熱い涙

清流だったのに

今は濁流なのだ

2023/81

 −悲しい叫び−

ああ淋しい痛みよ
僕の胸に落ちる零落した一羽の鳥の涙よ

淋しい痛みと鳥の涙は叫ぶ

僕等は
「孵化せずに食べられた卵」なのだ

僕等は
「空の見上げられられない月」なのだ

僕等は
「山奥でひそかに倒れた樹」なのだ

そして淋しい痛みと鳥の涙は眠った

僕は起こさないよう呟く
「ああそうさ」

 -覚悟して-

あれは本当に愛だったか
暗い疑いが頭をもたげるから
冷たい夜気を一身に浴びて問い直す

本当でもあり偽りでもある関係なのか
裏切られる恐怖を押し殺す
あれは本当に愛だったか

2022

 -終わる-

携帯置いて

靴に足を押し込んで

情けない自殺を決意した

遂に僕は楽になれる

死だけが痛みを癒してくれる

僕に無関心なままだった世界

世界に登場することのない僕

夜道をゆく

星の光に中指を立てて

苦痛な運命を呪いながら死ににゆく

慟哭を通りすがりに聞かれた気がした

駆け足になる

2023

 -扉よ-

ああ

扉は閉まる

鉄製で鍵の音

泣き声

――僕は幼かった… ザラザラした床

ああ

扉は閉じる

遠のく足音

恐怖湧く静けさ

――僕は抵抗した… でも無理だった

トントン

トントン

君に心があったなら

通して欲しかった

扉よ

2018/3/27

 -思い出-

思い出はないか

幸せなものが浮かんでこないか

するとある瞬間

過去は息に乗って

写真の白い縁へ映った

そこには小さな文字が浮かび上がる

「青葉を嗅いでドライブをして
憂鬱のなかの幸福を生きていた
希望というのものはどこまでも希望に過ぎない」

そんなふうに書いてある

時の中に沈む記憶に

そんな切ない

光景があった

2023/4/9

 -起床時間-

沈黙して
行儀よく布団の皺を伸ばす
木が悲しい影であるように
私も悲しい影になる夜明け
体温と別れて
憂鬱を着ていく

朝は激烈な通告だ
朝は労働の決定だ
靴履く人間たちはそれを聞く
溜息もせず

 -生きる続ける者の哀歌-

なぜ
なぜ

痛みが痛みを呼ぶ
荒廃に降る次なる荒廃

人間が見殺しする屠殺場の犬猫たちは
かつて優しく美しかった街路樹の最後の姿は
現代の犠牲になったこの惑星のすべては
答えてほしがっている

愛は奪われ
慈悲は嘲笑われ
唄われない叙情は涙の味がするばかり
生誕は今や人間を深く悩ませる

あなたは立っている
奪われる権利の流血の上に
あなたは通っている
ホームレスに吹く砂混じりの風の中を

骨も霊魂も慰められる日は来ない
世界の歓びが青空に羽根を伸ばす時はもう来ない

それを知った私達はどうすればいいのか

誰も口を開けない
遺跡になった世界で
私達の乾いた唇はただ震える

 -二十一世紀の夏よ-

旧式の扇風機が話し始めた

風の噂話によれば

蒸し暑い地球はいまかなり機嫌が悪いそうだ

巨大な調和が歯車をぼろぼろと落としているからだ

山火事は人類の髪が燃えること

水害は人類の街が溺れること

干魃は人類の食料庫が空くこと

二十一世紀の夏よ

あなたは自然の摂理が寄こした復讐者に違いない

あなたは自然の摂理が示す警告に違いない

けれども私達は無軌道な繁殖に等しい謙虚な繁栄を持てない

不穏な行く末のように扇風機が軋む

電気代を気にするのは怖いが

気候が蘇生する日が来ないことの方が怖い

 -日本とは何か-

1
悲鳴 血 汗

路上で炭鉱で売春宿で

隔離施設で校舎で家庭で

人間が魂を壊された


わたしたちの業は根深い

わたしたちの徳は浅い

涎を飲む音がする

血生臭い拳が浮遊している

人柄ではなく立場が人間の保証書

他者は距離を測るまで余所者

排外される恐怖で躾しあう

自慢が好きで努力を忘れる

泣き寝入りがありふれる国を歌が幸せを謳う

生き地獄を楽しむための娯楽

 -商品-

すべてが素材として扱われる時が来た
儲かるならなんでも採集するんだ
店の棚いっぱいにして消費されて
役目が終わればゴミになる

それで人間は代償を払いはじめた
触れるものは造花のような偽物しかない
感情が欠けた資材として扱われ
とうとう役目は人生じゃなくなった

2023/2/13

 -箸-

箸とは可哀想な身分だ

死んだ生き物を掴まされて

生きた生き物の口へ放り込む道具だ

もし目玉があったのなら

華やかな料理が噛み砕かれることを

残酷だと思っているだろうに

その罪深い二つの棒は

蛇口の水で業を灌がれては

身が朽ちる日を待つのだろう

 

拾遺

2018/11/25-27

 -コップの麦茶を観察して-

走る、星系の如きひび割れ

走る、麦茶の白い神経

跳ねた氷は花々しく点き

酔い、霜や湖の中で

小さく孤島のような笑みをこぼす

呟くように砕けた

意識を失くして

溶けて真水が延びていく

2023/3/27

 -一脚の椅子-

一脚の素晴しい椅子があった
一脚の素晴しい時間があった

誰もが忘れた日々

読書は静けさを生んだ
裁縫は彩りを生んだ
ゲームは友情を生んだ
子守は思い出を生んだ
眠りは夢を生んだ
思考は発見を生んだ

けれど持ち主は引っ越して
物寂しい部屋に置いていかれた

一脚の素晴しい椅子は
一脚の孤独な椅子になった
一脚の孤独な時間になった

あの日々は

単なる静けさ、
単なる彩り、
単なる友情、
単なる思い出、
単なる夢、
単なる発見だったのか

そんな風に椅子は己を蔑んだ
窓だけは椅子を照らし続けた
次の居住者が来ることを願って

2023/7/26

 -生きろ、進め-

僕等の電話は鳴らない

僕等の扉は開かない

でも着信を待つことだ

でもノブを回すことだ

生きるために

無謀と可能を行き来しよう

そうだ着信を信じて

そうだノブを握りしめて

言う事はこれしかない

生きろ

進め

2018
2023

 -無題-

夏が来て
悲しい記憶を覆うように
草むらは小石をひそかに隠した

けれど冬が来れば
悲しい記憶を裸にするように
枯草は小石を寒風に晒すだろう

2018/2/24

 -暗い絵-

空から
死の兆しが流れ落ちる
藻は萎れていたはずだが
華やぐ暗い緑に変わった

水死した一枚の布は
亡くなった曇天の日に
人影のない池の真ん中で
漂う旗になった

 入院中の作品集

 一人


鮮やかな報告が時計から届いた

海が雲の言う通りに波の音楽を奏でるらしい

靴の音は夕日を浴びることで自由になろうとしている

料理は人間を孤独から救っている


   人生


冷たい心臓が動いている

冷たい心臓が喋っている

ただ木が立っているように素っ気なく生きている

そうだ、ぽつんと子犬のようにだらしなく生きている


 自然の歌


人間には家がある

雨風をしのぐ家がある

それなのに心ばかりは野ざらしだ

青空の痛ましいほどの美しい屋根に

星の寂しいほどの輝きの雨に

私達の言葉は佇んでいる

そして時間が川のように枝分かれして

眠る人間と生きる人間がくっきりと分かれる


 夢


百年前、この石に今日のように春の風が吹いたとき

噴水の手が柔らかく雲の唇を開こうとした時のように

夢を一度見たのだ

あなたと歩いているから

静かな森の中に居るように

夢を一度見たのだ



 謎


この世に寂しさと愛が生きているのなら

この世に友好と孤独が残っているのなら

真昼の青空の真っ白な積雲のように

私の言葉はまだ力を持つだろう

太陽が唯一の隣人であるさまよう風が言う

「まだ街は人間と野良犬と野良猫のものだ」「独立はとうの昔に宣言済みだ」

美しい悩みは人間以外も持つことをこうして宣言する

その時一本の花が道の途中でゆらりと揺れる

老人が咳をしながら杖をついて歩くだろう



 私


現代人なので

機械と話すことができる

そしてカメラがあるので

レンズで海と空と建物を撮る幸せがある

でも寂しい道で茸のように立って生きている





 橋


この世は一本の寂しい悲しい橋だろう

大海のような月日を繋いでいる島のような日々に

大きく架かっている橋だろう

誰も歩いていないようにいて

影だけになった人間すべてがあるいは微笑みながらあるいは泣きながら歩いているのだ

太陽が硝子玉のようにぽつんと天に君臨している下で

孤独な私達はこの世に囚われているのかもしれない

この世は一本の美しい橋だろう

誰もが渡っている

弱りながら渡っている

とても静かな橋だろう



 夜の雪


箸をスーパーで買ってきた夜の雪よ

冬は食卓が哀しいので電気をつけたままにする

窓は美しいよ

ああ雪が木を飾る

ああ雪が人の夢を飾る

「へっくしゅん」

くしゃみで星が一粒揺れた気がした

夜の雪が音もなく降りしきっている





 噂


神が「光あれ!」と叫んだ

電気屋が電気をつけた

実は神は電気代を払っている

「ちわー千円でーす」



 静かな夢


みみずが眠っている春の砂の美しさ

波のように人生の上を小鳥が飛んでいる夢を見ていたい



 短章


旅をしている

草の呼び名を知ったりした

空に向かって雲を呼んだりした

野犬のしっぽを見たりした

いよいよ静かな雨の日である



 飼い猫


皿の上に大きな目玉焼きがひとつ

猫の目がまだ閉じている早朝



 パロディ 風景 純銀モザイク


いちめんなのはなだった

いちめんなのはなだった

いちめんアスファルト

いちめんアスファルト

いちめんビル

かすかなる酒のかおり


いちめんなのはなだった

いちめんなのはなだった

いちめんアスファルト

いちめんアスファルト

いちめんビル

バス停のおしゃべり


いちめんなのはなだった

いちめんなのはなだった

いちめんアスファルト

いちめんアスファルト

いちめんビル

やめるはコンビニ店員



 おやつの時間


歯が楽しむ食感

ごりごりとビスケットを砕く

窓まで菓子のようだ

机まで菓子のようだ


 え?


人類の午後六時




 雲の下で


古から雲が美しいことは

誰もが考えたことである

そして思うことは

なぜ月は黙って悲しい光を放つのか

なぜ太陽は静かな怒りを感じるのか


山道を登る学者がノートに書き留めたことは

「山を登るとひとりになる」

「人生は静かな孤独の世界だ」

そうして学者は山を降りる頃には

詩人に変わっているのだ


鳥も眠る雪の中で私は笑うのだ

孤独なのに手を持っているから

ふと手を握りしめる

そうこの雲の下で




 小話2


ところで椅子は誰のために

置かれたのでしょう

太陽が階段を昇り

月がビルを降り

冷たい床からは

鼠が飛び上がった

あ、逃げちゃった



 雨の日


街の雨には匂いがある

街の雨には音がもちろんある

土の匂い

土の音

車の匂い

車の音

鼻を窓で歩かせてご覧

静寂が心の中で咲き誇るから


 風の歌


そよ風がいつも家畜の鼻を叩くのは

自由が欲しいかと訊ねたいから

冬の早朝から春の夕方まで

年越しした山から

空が風として手紙をすべての生き物に渡したいのだ

ああ

雪が散る

花が回る

海が踊る

落ち葉が眠る


 道についての詩


誰か言ってくれ

悪は美しくないのだと

腐った水を飲むなと


誰か伝えてくれ

罪は明日も罪のままなのだと

腐った人間から離れろと


聖なる心が太陽のように昇る魂は

いつもそこに居るのだと

その窓は人間でもないのに知っている


そして道は誰にでも開かれているのだと

偉人でもないのに分かるようになったから

まだ生きる、生きられるのだ


私は罪人だ

私は悪人だ

ああ、昨日までだと書きたいのそうではない


でも、そう、愛という空がある

優しさという唯一残っている人生の道がまだ私にはある


私は罪人だから悪人だから、だからこそ

ああ、人間が正しく生きる、優しい言葉を吐く世界が

好きになったのだ




 善の詩



善人が草のように風を好むのは

大空が優しいと知っているから

夕焼けまでに悪人が改心してくれたら

お茶をあげようと思っているのだ




 とあること


ひきつった田んぼの蛙の皮膚に隠してある文字

海は神の鏡だから美しいという秘密

山は生き物の親だから大きいという秘密


 おお


芋は土の宝石





 ああ


滝は雪だった

冬よ





 中国へ台湾へ韓国へジャワへスマトラへフィリピンへインドシナへミャンマへシンガポールへフィリピンへそしてすべての子供へ


そして口にする

ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい



 月

白い紙に線をひくように簡単に
月の音楽が宇宙で回り始めた
とある砂漠の物語は月明かりが
途絶えた時に唇を動かすのだ




 どうして


どうして不幸になるのは簡単なのか

目をつむればいいだけだ

どうして幸福になるのは難しいのだ

立ち尽くすだけだ




 洞窟


洞窟が口と耳を横たわらせている

森の木から悩める風の歌を受け取った暗闇が

湧き水に深刻なほど美しい音を出させている

「チャロリラン、チャロリラン」


 カレーの作り方

まず手を洗いましょう今日は何を触りましたか

次に食欲を抑えてよだれを飲みましょう

そしてにんじんを人間の口に入るように説得してください

肉もじゃがいもも玉ねぎも盾を構えています

では鍋を夕焼けのような火で思い出を作るために熱してください

ガラクタのように材料を炒めて少しは謝っておいてください

さてカレーの素を入れて魔法使いのように水を注いでみましょう

あとは煮るだけで完成です

椅子が待っています


 踊れ

踊れ

どうしようもない心

手足なんか付けてやるぞ

まるでタコかイカみたいに

まるで馬鹿な子供みたいに

間違っても盆踊りをするなサンバだ



 川

大きな川がある

大きな川がある

有名な会社のビルが倒れている

世界一長い間聳えた塔も倒れている

ああ波が車輪のようだ

ああ波が文字のようだ

生命すべてが舟になって迷っている

生命すべてが舟にならずに漂っている

それは夕陽なのにまだ朝

それは朝日なのにもう夕暮れ

宝飾品はこの水だけだ



 本

これでももともと木だったんです

空に架ける水の一曲だったんです

でも紙の束になって

刺青を彫られるように文字を書かれました

人の思いは虫みたいでくすぐったいです

また今年も秋の雲が読書の時刻に

窓を流れていくのでしょうね

せめて埃を払って大切にしてください




 生きる

私は

取り出すことが好きだ


鉄に埋まった武器たちを

耳に沈んだ自由の台風たちを

本に流れ込んだ歌のリズムたちを


そして

ポケットを服に縫い付ける


だって

私は

持ち歩きたい


晴れた日の公園で

果てしのない道で

寒い心の中で




 手

手を

憶えていますか

世界の続行を祈る老若男女が突き出した拳のことを


手を

揺さぶっていますか

心を一瞬で花びらに変えた歌のように


手を

見てください

希望のように爪を飾っています



 僕は

最近髪の毛を伸ばすようになった


抜け毛を拾うのは日焼けした細い腕

怠け者だと蔑まれる腕


僕は夏になっても何も運ばない

僕の目は寂しさと悲しみの倉庫に変わる

けれど足だけは

立っているしかない窓から

雲が美しい大空に連れていってくれる


そういうわけで

僕は自分が好きだ

けれどやっぱり

僕は自分が嫌いだ


そんなもんさ



 皮肉

怒りも悲しみも消えた

コップの水に溶かして飲んだ


いてててて

古くなってたな







 個人

なにがトイレのように恥ずかしいか

なにが角のように美しいか

なにが漫画のように面白いか

なにが花畑のように悲しいか

なんとなくだが確かに私が決める

弱々しくだがはっきりと私が感じた



 会話

話すというのは常に善の属性がある

礼儀が相互理解を着せてくれるから

では沈黙はなにか

夜空の花火の叫びだ

その下には一隻の舟が死体のように浮かんでいる

そして言いたいことは

拒絶が悪の属性があるということだ

鉱石のように握りしめれば痛いという性質

ただ取り扱い注意と書かれた瓶の中身のようなものだから

無闇には取り出すなかれ

 



 どこかで会おう

僕は美しい人間を見たことがない

作られた芸術では見た

荒らされる自然では見た

きっと目を奪われた他の人間に狩られたのだろう

でも動物園では会いたくないから

道を歩いていてくれ

いつか会おう

どこかで会おう




 僕を囲んでいる世界


僕は世界に溶けていたことがある

僕を囲んでいる世界が善で安らかな時

僕は囲んでいる世界に溶けろと命令されたことがある

たいていその場合の世界は

誰かが傷つく世界



 質問

どうして生きているんですか

(城が崩れる時が来たのに)

どうして生きているんですか

(夢が白い花びらのように散ったあとで)

どうして生きているんですか

(あなたの魂はいつも迷っている)

どうして生きているんですか

(それでも立つのだね)

…それならばいいよ

(かっこいいじゃないか)

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?