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問題解決能力を高めよう/3.事例で考えよう・⑦「背中を押す理由」とは何か

今まで、稟議書において、「ベースとなる理由」と「真の理由」について考えてきました。この2つの理由の内容を固めて、説明することができれば、それで一通りの理由は整えることができた、と考えます。

しかし実はそれだけでは、以下の理由により、「稟議書を通すための力」はまだまだ十分とは言えないのです。

  1. どんなに素晴らしい理由を稟議書に書いたとしても、提案する「システム」や「ツール」、あるいは「制度」などには、導入に関して必ず何らかのリスクを伴うものである。

  2. 人は、「論理」や「理屈」で説得されることに抵抗を感じるものである。

  3. たくさん理由が並んでいると、その内容について「ケチ」を付けたくなる

より具体的・詳細に言いますと、次のようになります。

  1. 新しく導入する「システム」や「ツール」、あるいは「制度」などには、必ず何らかのメリット・デメリットがあります。さらに、それが他社ではいまく機能したとしても、自社でも同じようにうまくいく保証は何もないわけですし、費用対効果も不明確です。

  2. いままで説明してきたような「理由」を全て稟議書に記載し、説明をすれば、それで論理的には十分なはずです。しかし、論理的に説明をつくせば尽くすほど、不思議なことではありますが、人は逆に納得しがたく感じることがあるのです。

  3. これは上記の「2」とも関係していますが、説明を尽くすためにたくさんの「理由」を挙げると、その中身に関して「ケチ」を付けてくる、ということがあります。どんなものでも、「完璧な理由」というものはほとんどありませんので、ケチをつけようとすれば付けられるのです。

そこで必要となるのが、「背中を押す」理由です。

「背中を押す」とは、「稟議書の決裁者の背中を押して、決裁印を押してもらう」という意味です。
つまり、決裁者に対して「まあ、完全に納得している訳ではないが、提案書に同意をしてみよう」とか、「すこし引っかかる点もあるが、今回は提案書に決裁印を押してみようか」などと思ってもらえるように導く、ということです。
これは、別に「決裁者に何らかの“媚び”を売る」とか、あるいは「決裁者を騙す」というような意味ではありません。
そうではなくて、既に述べたような理由によって、論理的に説明するだけでは、最終的な決裁を得ることが容易ではない、という一種の“構造的な問題”が存在しているからです。

それでは、「背中を押す」理由には、どのようなものがあるのでしょうか。

1.スモール・スタートの実施
スモール・スタートとは、goo辞書によりますと、次のような意味になります。
「新たな事業を立ち上げる際に、最初は機能やサービスを限定するなどして小規模に展開し、需要の増大などに応じて順次規模を拡大させていくこと。」
つまり提案する「システム」や「ツール」、あるいは「制度」などについて、最初から本格的な導入を提案するのではなく、「試行・試用からの開始」や、「部分的な導入」を提案することです。
最初から本格的に導入する提案を行うことは、決裁者に大きな心理的な負担を与えることになりかねません。スモール・スタートで提案することは、「決裁者にやさしい提案」と言うこともできるでしょう。

2.“撤退”条件の明確化
これは、上記「1」とも深く関係しています。
提案する「システム」や「ツール」、あるいは「制度」などについて、以下を明確にしておくことです。
①     一度導入すれば、もう戻れない、あるいは元に戻せないものではない、ということ
②     元に戻す場合の条件、すなわち「撤退条件」

言い換えると、「一度導入してしまうと、元に戻すことが難しいもの」を提案する場合には、承認を得るハードルが高くなる、ということになります。
さらに、あらかじめ「こういう状況・条件になった場合には元に戻す、という条件、すなわち「撤退条件」を明示しておくことも大事です。
撤退条件をあらかじめ明示しておく、ということは、提案者の「覚悟」を示すことにもつながり、説得度が強化されます。

3.コスト条件の明確化
これは、上記「1」および「2」とも深く関係しています。
つまり、スモール・スタートを行うことで、導入コストを抑えることができる、ということを示す方法です。
スモール・スタートで導入コストを抑えるとともに、撤退条件が明示されれば、「万が一うまくいかなくても、コストはここまでで抑えることができる」ということが、決裁者にも伝わり、決裁印を得やすくなる効果が得られます。

こうした理由を稟議書に記載することにより、最終的に稟議書に決裁印をもらうための「最終的なツール」とするのです。

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