吉浦敦博

フリーディレクター、映画や日々の出来事で大事、面白いと思った事、学んだ事をゆるく書いて…

吉浦敦博

フリーディレクター、映画や日々の出来事で大事、面白いと思った事、学んだ事をゆるく書いています。映画「とめ子の明日なき暴走」など。専門学校で30年以上、映画の事を教えています。

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  • 映画、監督、俳優からの学び

    映画に興味ある人に、交流のあった監督や好きな映画から学んだ事を書いています。

  • 季節や日々の小さな物語

    季節を感じる事や記憶に残る人や映画に関する小さな物語「面白い」「大事」と思った事を書いています。

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    MVや音楽、ミュージシャンから学んだこと書いています。

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琉球の深い知恵、映画「ウンタマギルー」が教えてくれた7つの事

はじめに、なぜ今「ウンタマギルー」(1989)なのか?  「ウンタマギルー」(1989)は今見ると泡盛の古酒のように年を経るほど味わい深く、考えさせられる事が多い。  高嶺映画の芯となる「オキナワン チルダイ(沖縄の聖なるけだるさ)」の時間の流れやそこから生まれた文化(神話・伝承・琉歌・民謡・踊りなど)や生活は、沖縄特有のモノに違いないが、どの国にもどの民族にもあるモノのように思う。  あらゆる生き物や植物は、その土地の時間の流れ、季節の流れの中で独自に生きている。場所が変

    • 夏の終わりと弁さんのこと

       毎年、蜩が鳴く時期になると思い出す。私が大学生の頃、田舎に帰省していた時の弁さんの事だ。弁さんは、祖父と小学校からの同級生だった。祖父が83歳でこの世を去った時、私の住んでいた村で、弁さんの同級生が一人もいなくなった。  弁さんは町に出る用事がある時はいつも、流行遅れのサイクリング車に乗って、私の家にやってきた。  その自転車は孫がもう乗らなくなったもので、どこかの小学生が宿題の後、ひょいと遊びに来たという風に私の家の前に止まっていた。  弁さんは、いつも玄関を開けると、ま

      • 38年前の16mm映画上映で学生と共感できた閉塞感と希望

        1.38年前の自作16mm映画「モノトーンの夏」再上映  映画「モノトーンの夏」は、19歳の友人Aの突然の死から、彼の彼女と友人Bが、死を受け入れられず呆然と時を過ごし、突発的な行動に出る小さなロードムービーだ。  彼女はレコードを万引きし、友人Bは停めてあった軽トラックを盗み、行き場のない思いで車を走らせ、海でビールを飲み、死のうとするが...。 という50分弱の中編映画だった。  学校のイベントで「今の学生作品と先生の学生時代の映画を一緒に上映してトークする」という

        • 「百年の孤独」G・ガルシア=マルケスから学んだ4つの事と警告

          はじめに、「百年の孤独」は「救い」だった  「百年の孤独」がNetflixで映像化される事もあり、文庫版が出版されて話題になっている。「百年の孤独」を初めて読んだのは半世紀も前だ。  「百年の孤独」の初版が日本で出版されたのは1972年、私が読んだのは初版ではなく、現代世界文学の新装版。1970年代半ば、中学生の頃、読書家の兄が買ってきて「面白過ぎる」というので借りて読んだ。  私は当時、兄の影響で、安倍公房「砂の女」「水中都市・デンドロカカリヤ」や稲垣足穂「一千一秒物

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        琉球の深い知恵、映画「ウンタマギルー」が教えてくれた7つの事

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          不条理な夢を形にして解放する「ねじ式」つげ義春

          1.現代美術としての「ねじ式」つげ義春  ちょっと前「日曜美術館」で、江戸時代の伊藤若冲や曽我蕭白などに光をあてた『奇想の系譜』の美術史家・辻惟雄がつげ義春の「ねじ式」は「現代美術として評価すべきだ」と言っていた。  つげ義春は、2020年「マンガ界のカンヌ」と言われるアングレーム国際漫画祭で特別栄誉賞を受賞している。  フランスの授賞式で「マンガ界のゴダール」と紹介され、現在つげ義春全集がフランス語版、英語版で出版され、世界中で読まれている。  その授賞式を追った「つげ

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          心の病の可視化「今日もあなたに太陽を」

           6月の梅雨の時期に決まって思い出す事がある。父のうつ病の事だ。 昭和の終わり、1988年の6月の事だった。42年も働いていたダムからの帰り、道に迷い、なかなか帰って来なかった。  父は「2,3日前、交通事故のあった現場を通り過ぎると急にわけがわからなくなった。気が付いたら、全く知らない森の中を走っていた。それから汗びっしょりになって死に物狂いで帰ってきた」  父が会社に出勤した最後の日の出来事。  父は、会社で最初に電話対応ができなくなった。言葉が思うように口から出なくなっ

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          水木しげるに学ぶ、生きる力と見えない世界

          はじめに、昭和の闇と現代の共通点  「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は、戦争という不条理な現実を生き抜いた水木を主人公に、戦中・戦後から続く昭和の闇の世界を構造的に描いていた。ここで描かれる水木は、現実の水木しげるではなく、会社の中で使い捨ての駒として扱われている水木。  戦後を野心的な会社員としての水木が、目玉親父と幽霊族、戦争中、虫けらのように死んでいった戦友の怒りと怨念を抱えながらも未来に希望を持って戦う物語だった。  「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は昭和31年の物語だが、戦

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          宮沢賢治と宮崎駿から学ぶ日本の基層文化の再生

          1.トトロと山猫、森の神や精霊の世界  宮崎駿が絵本「どんぐりと山猫」を読んで、山猫が小さかったことが気に入らず、自分なりの山猫のイメージ、大きさは2メートル以上でボーッと立っていて、足下でどんぐりたちがキイキイ言っている。その強烈なイメージからトトロは生まれたという。  トトロ美術館の看板には、トトロの原型になったヤマネコの看板が掲げられている。  宮沢賢治の「どんぐりと山猫」の山猫は、どんぐりたちの見た目の争いに困り果てている裁判官として現れる。森の中の争いや秩序を

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          矛盾の芸術:宮沢賢治と宮崎駿に学ぶ「今を生きる姿勢」

          1.宮沢賢治:災害と社会の矛盾の中で成長  宮沢賢治と宮崎駿が子供の頃生きた時代と震災や津波、異常気象、パンデミック、戦争が続く今の時代とが重なるように思える。  昔から親しんできた二人の作品が、今になってリアルに感じ、現代と照らし合わせて今一度、彼らの表現の背景を考えたみた。 宮沢賢治の生きた時代は、冷害による凶作、日露戦争、第一次世界大戦、関東大震災の、明治から大正1933(昭和8)年までの時代。   宮沢賢治は、1896(明治29)年、三陸大津波、陸羽大地震、赤

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          格差社会での多様性、ピンクの眼鏡のYさんと競艇の食堂のおばさんの事

          1.格差社会での多様性  自由と豊かさをもたらすはずの多様性という言葉、私はなぜか束縛と不自由さを日々感じる。多様性社会の前に格差社会が強くあり、その中での「多様性の要求」が、どこか息苦しくしているように感じる。  格差社会のピラミッド構造の中で、下の者は上へ登る事で、上の者は下へ落ちない事で精一杯。人と深く関わる余裕もない。  多様性という言葉で都合よく「人は人、自分は自分」と割り切る。 人をきちんと見て、想像力を働かせ、丁寧に接する事をしなくなる。  「多様性」という

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          宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」に学ぶ、想像力を引き出す表現(後半)

          1.観察し描写し、想像させ、裏切る、深く豊かな人物描写  宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」に学ぶ、想像力を引き出す表現の後半。前回は、かねた一郎の所に、山猫からめんどうな裁判のハガキが来て、翌朝出かけ、栗の木、笛吹きの滝、きのこ、りすに山猫の行方を尋ねて歩き、黄金いろの草地で、馬車別当に出会うまでを解説した。  私は前半部の宮沢賢治が映画監督のように映像を見せる手腕に驚いた。  家から出たかねた一郎、ロングショットの広大な山から、栗の木、落ちる栗の実へとアップショットへ。

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          宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」に学ぶ、想像力を引き出す表現(前半)

           宮沢賢治の童話に学ぶ、想像力を引き出す表現を「どんぐりと山猫」を通して考えてみた。長くなったので、今回は前半だけです。 1.どうすれば、自分の想像力を使う読者・観客になれるのか?  ネガティブな感情を生む空想からわくわくどきどきの想像力に変換する。  「どんぐりと山猫」はシンプルな物語。  いきなり山ねこから、めんどうな裁判へのおかしなはがきが届く。  状況設定もわからず、奇妙なはがきで、読者を強引に引っ張っていく。 これは「注文の多い料理店」も同じ、何が起こってい

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          ゆったりとした気持ちになる「カムイユカㇻ」の魅力

          映画「カムイのうた」、アイヌ文化と「カムイユカㇻ」  映画「カムイのうた」は、文字を持たないアイヌの口承文学である叙事詩「ユカㇻ」をローマ字と日本語訳で表現した知里幸惠さんの19年の生涯を描いたもの。  印象に残ったのは、想像以上のアイヌの人々への過酷な差別と偏見。 そのやり切れない感情を、竹の板と紐の振動で表現するムックリの不思議な音色。  夜の森から見つめるシマフクロウの神秘的な眼差し、風がやみ、雪や太陽の光で輝くキタキツネやタンチョウの美しさ。  中でも強く残ったの

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          雪の夜行列車と祖父の言葉と布袋さん

           各駅停車の夜行列車には、人はまばらだった。車窓は、足下からの蒸気暖房で白く曇っていた。指でこすると、キュキュと物悲しい音がした。  窓の外は真っ暗だった。真っ暗の中、小さな生き物のように無数の雪片が舞っていた。  1983年、冬、祖父が倒れ入院した。私が夏、帰省した際には、祖父の喉から遠い海鳴りの音が聞こえていた。  祖父は、左官屋の棟梁だった。大阪で仕事をして、芸者をしていた祖母と結婚した。戦争が始まり、二人は子供を連れ満州に渡り、終戦後は、田舎に戻り、祖父は知り合いの

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          「アバウト・タイム」日常的タイムトラベル、トライアル&エラーのすすめ

          ①「今日が人生最後の一日だったら何をする?」の答えを探す「タイムトラベル」  「アバウトタイム」は、父親から代々受け継いだ「タイムトラベル」の能力を、21歳のティム(ドーナル・グリーソン)が使って、自分の恋愛の失敗や友人や家族の不幸な出来事を消そうと奮闘するラブコメディ。リチャード・カーティスの監督としての最後の作品。  リチャード・カーティスは、インタビューの中で、この映画は「今日が人生最後の一日だったら何をする?」という友人との会話から生まれたと話していた。  「タイ

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          「PERFECT DAYS」人を幸せにする持続可能なモノ作りの3つのヒント

          「PERFECT DAYS」は、シンプルに楽しい至福の映画体験だった。  長年ヴィム・ヴェンダースの映画を観てきたが、これほどわかりやすく心に響いた映画はなかった。  私はこの映画からストレス社会から抜け出し、人を幸せにする持続可能なモノ作りの姿勢や楽しさを改めて教えられた。 ①日常の観察から生まれる心の安定と優しいまなざしを持つ事  「PERFECT DAYS」はトイレ清掃作業員の日常が繰り返し描かれる。 主人公平山の日々の観察から生まれる心の安定と優しいまなざし。その

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