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介護現場で学んだ「思うようにならない」こと Ep 3.2

一度は在宅マッサージの仕事に足を踏み入れたものの、当時の私は自分を見失っていました。
ほどなく現場を離れると、ふとした知人の勧めからヘルパー2級(介護職員初任者研修)の資格を取得して介護施設で働き始めることになります。

環境を変える覚悟

これまでとは違う業界に身を置いて、そろそろと出直すことになりました。
そもそも介護とはどんなものか、祖父母の介護現場を見たわけでもなく予備知識はほとんどありませんでした。
しかし縁あって、都内にある大手の有料老人ホームに職を得ることになります。

これまで信じてきたもの(徒手療法で身を立てていこうという信念)を失うということは、とても大きな痛みです。
それは友人、知人や家族と急に離れ離れになってしまった感覚と近いでしょうか。寄るすべもない孤独感がつねに当時の私の心の大半を占めていました。そこから逃れるためには、空白を埋めるしかありません。

行動変容を起こすには、という文脈でよく言われるのは次の順番です。

・心掛け(意識)を変える
・行動を変える
・環境を変える

しかし渦中の者にとって、意識を変えるのは並大抵のことではありません。負のスパイラルから抜け出すには、その逆を行うのです。

つまり、まず環境を変えること。
これには相当な労力と決断が要ります。そして痛みを伴います。
時間的な空白はとにかく体を動かして、考える隙を与えないこと。そうすることで時間をやり過ごします。たまの休日にはその反動がやってきますが、それでも時間が過ぎていくなかで、小さな楽しみを見出して少しずつ楽しいと思える瞬間が訪れるようになってきました。

「こんな自分でも生きていていいんだ」

あとになってわかるのですが、ちょうどこの時期は「思うようにいかないことを学ぶ時期だった」と、チャネリングをしている友人から諭されました。

これが今の私の立ち位置なんだ、と肚を括ったものの、日々の思考をつかさどる大脳皮質はやっかいな存在です。
「あの時、ああすれば…」
「あの人は、今頃…」などと女々しい過去の自分が顔を出してきます。

介護現場で学んだこと

自宅から電車で40分ほどのところにあるその介護施設には、8ケ月ほどお世話になりました。

通信教育の大手グループ企業が経営している有料老人ホームです。
都内でも閑静な住宅街にあり、近くには緑豊かな大きな公園があります。
車いすに乗った高齢者を、若い人が押して散歩している光景を見たことがあったのですが、それが介護施設のケアプランの一つだったことを、この時知りました。

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介護施設、または介護が必要な高齢者は、百歩譲ったとしても陽の当たる存在と言えません。どちらかと言えば、介護職員として働いている方々は、当時の私も含めて高齢者の生活を支える裏方的存在です。
そもそもが、介護やリハビリを必要とされる高齢者は足腰が衰えているために街中を自由に歩くこともままならないのです。

そのため、一般社会で生活している現役世代の人たちからすれば、日頃から目に触れることが少なく、施設に入居している高齢者と接点があるのは家族だけという構図になります。

介護施設に流れている時間

施設の一日は、朝5時頃から始まります。
朝の着替え、洗顔などの身のまわりのお世話から始まり、スタッフが順番に高齢者のお手伝いをしていきます。
7時過ぎから朝食。
食事が終わると10時からは介護予防体操とおやつ。
そして12時前から昼ごはんとなります。
午後は2時から体操のほかに、書道や手芸、カラオケなど日替わりのアクティビティが催され、入居している高齢者は何とはなしに集まりに参加しています。
3時のおやつ、6時の夕食とほぼ決められたスケジュールが日々、繰り返されていて、就寝は夜10時。。。

介護施設では、このような単調な日々が繰り返されています。
否、施設に入らざるを得ない事情を抱えながらも、介護施設で暮らす高齢者はこうした1日という時間の流れのなかにいます。

著書の東畑さんによれば、介護施設の中の人たちは「同じところをぐるぐると回っている」のだそうです。そこには前に進むという感覚が欠如している、とは的を得た表現です。

介護職員として現場で肌身に感じたことは、まさにその通り。
そして幸いにも、繰り返す日々の出来事を通して、施設で過ごす高齢者の心の機微に触れることもできました。

訪問マッサージという仕事をしていた時は、いわばお客さん。
外からやってきて施術をして帰る、というだけでは知り得なかったことを介護現場のなかに入って体感し、高齢者の24時間はこうして時間が流れているんだということを身をもって知りました。

やがて再び転機を得て、訪問マッサージの仕事に就くことになります。


physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。