見出し画像

某マッサージチェーンに20年以上、累計数百万円を課金しているオッサンの価値観を聞いてみた

マッサージを企業の福利厚生に活用しよう、という動きがあります。
一定の人数を雇用している企業は、2015年から社員のストレスチェックを行うことが求められるようになりました。
これを受けて健康経営、メンタルヘルスは企業の課題となっています。
こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(厚労省)

あるオッサンの価値観

「僕は某マッサージチェーン店をずっと使い続けているんや」

半年ぶりの会食の半ばで、そんな話になりました。
いわく、チェーン店ならではの強みがあるからと言います。かたや私は個人で治療院を構えている立場です。
そこにどんな違いがあるのか、深堀りして話を聞いてみることにしました。

そのオッサンはH氏といいます。
東証一部上場の企業に勤める40代男性。
部長という職責を任されて、社内外のストレスにさらされる日々を送っています。
H氏はなぜ、20年以上もマッサージを受け続けているのでしょうか。
そこには彼独自の健康哲学がありました。

きっかけはワンコインマッサージ

大学時代、H氏は体育会の部活に明け暮れていました。
試合の前にはレース記録を目指してハードなトレーニングが行われます。
その練習が終わったあとに利用していたのが、学内にあるマッサージルームだったのです。

そのマッサージルームは体育会に所属している部員が利用できます。
近隣の店舗からマッサージ師が来て、定期的に施術を受けられる仕組みになっていました。30分500円で。
20代の学生にとっては、利用しやすい価格と十分な時間です。
かりに1時間受けても1,000円で済みます。

H氏がマッサージルームを利用するようになったのは、試合での肉離れがきっかけでした。
スポーツ選手はケガを押してでも試合に出たり、トレーニングをしなくてはならないことがあります。
必然、フィジカルなケアは欠かせないものとなってくるのです。
よいチーム環境は故障者がいないことだ、と言われます。

実際にH氏は肉離れの治りもよく、またマッサージを受けたあとは体が軽く成績が上がることに気がつきました。以来、20年以上おなじマッサージチェーンを利用していると言います。

マッサージは体調管理に役立つという話

マッサージを受けると気持ちがいい。
これは「押される、揉まれる」という接触刺激によって脳が感じるものです。

生理学的には、マッサージを受けることにより
・血流が促進されて乳酸などの老廃物が速やかに回収、排泄される
・筋肉を動かすことで柔軟性が高まり、関節の動きがよくなる
このような変化が期待できます。

H氏は、その効果を翌日の体調で確認していました。
『マッサージを受けた次の日に仕事して、メシ食って、晩酌して、寝つきが良ければそれでオッケー』
なるほど、わかりやすい理屈です。
一日を快適に過ごせるかどうかが、彼の判断基準となっています。

反対に調子の悪い時は、どんな現象が起きているのでしょうか。
『肩と腰が辛くなってくる。頭がぼーっとして仕事に集中できない。
なかなか寝付けずに、晩酌をしてから寝ていた時期もあった』
『そんなときはだいたいパフォーマンスが落ちているので、そろそろマッサージに行かなあかんということや』

知らず知らずのうちにため込んだストレスを解消するために、晩酌が欠かせないという御仁もいることと思います。
そこをH氏は、マッサージを受けることで深酒にならないように気をつけているのです。

心身一如。
フィジカルが整えばメンタルも向上し、仕事のパフォーマンスを維持できる…これが、H氏が20年以上にわたってマッサージを受けている理由です。

チェーン店の強みは何かを尋ねてみた

これまでにH氏は、ずっと同じチェーン店でマッサージを受け続けてきました。そこには彼の流儀もあると言います。

「一番は『30分後に行けますか?』と問い合わせて、すぐにマッサージを受けられること」なのだそうです。
隙間時間を有効活用したいビジネスマンらしい回答が返ってきました。
そのチェーンはエリアを絞ってドミナント展開しているため、スタッフを融通できるのが強みです。
マッサージ師は商品。人手が足りない時は、となりの店舗で貸し借りすればよいのです。

院長がひとりでやっているマッサージ院では、そうは行きません。
チェーン店ならある程度、施術の質も均一に保たれているというのもH氏がマッサージチェーンを利用している理由のひとつでした。

「たまに『あ、これちゃうわ』と感じるときがある」と言います。
それでも、マッサージがちょっと物足りないと感じるのは20回に1回くらいなのだそうです。

(時間を有効に使いたいから)『指名はしないのがマナー』
1時間1万円しない値段で安定したサービスを受けられるなら、それで十分とH氏は考えています。
そのうえで、『誰を当てるかはマネージャー次第』と言い切ります。

至極、名言です。
多い時は週1回、少なくとも月2回は利用しているH氏は、いわば上得意様。ここに腕のいいスタッフを当てて満足してもらわなければ、顧客を逃しかねないのです。
足しげく店に通い裏側まで見聞きしているだけに、ヘビーユーザーこそしっかりとおもてなししなくてはなりません。

H氏がマッサージを受ける時の最低ラインは
『痛みが軽くなって、元気になり、揉み返しもなければそれでいい』

出張の多いH氏は、大都市のどこにいても「30分前に予約してサッと行ける」こと。ここに大手マッサージチェーンを利用した健康管理の価値を見出しているのです。

H氏の顧客体験

こんな事例もありました。
ある時、H氏がマッサージを受けていて30分を過ぎた頃、もう1人のスタッフが入ってきました。
「今日はサービスで、足はふたりでマッサージさせていただきます」
よくよく考えるとこれは、現場に出る前の研修の一環だったのではないかと言うのです。

最初に先輩スタッフがH氏を施術して、頃合いを見計らってデビュー前の新人が途中から加わります。先輩はマッサージしながら新人の様子を確認して、お客様が帰った後にフィードバックを行うのです。
こういったOJTができるのもチェーン店ならではの教育システムといえるでしょう。

それでも、また行きたい理由が必要

半年ぶりの会食をしながらの雑談。
マッサージ店を利用する話から、飲食店だったら「メシが美味かったら来るか?」という話になりました。

手技療法にたずさわる多くの施術師は「腕がよければ患者は来る」と妄信しています。しかし、「そうではない」とH氏は言います。

病気になりたくないなら、病院に行けばいい。
しかし、病院は作業ベースだからちゃんと話を聞いてくれない。
しかも気持ちよくもなんともない。
「心地よくて、翌朝までグッスリ寝られて、体調がよくなればやめる理由ないやろ」

手を当てることは相手の心にも触れること、とわが師匠から聞いたことがあります。折りしもコロナ禍の現代。
人と人とのコミュニケーションのあり方にも、マッサージ店に「また行きたい」と思わせる工夫があると感じました。

メンタルをサポートするには、まずはフィジカルから。
マッサージを福利厚生に導入する企業も、マッサージチェーンに課金し続けているオッサンも、目論見は同じところにあるに違いありません。

physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。