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《第四回,お馬鹿を威張る》


 ミナリさん、お元気ですか。生成です。また連絡すると言ってから、2週間ほど時間が空いてしまったことをお許し下さい。とはいえ、僕がこうして連絡を取るような立派な大人になったことを(笑)、ミナリさんは驚いているのではないでしょうか。


 ミナリさん、僕は気付いてしまいました。

 僕は、頭が悪い馬鹿なのです。

 今日伝えたいことはこれだけです。


 世の中には『頭は悪いけど天才だ!』とか、『頭は良いんだけど馬鹿だよなー!』と言われる人がいるかもしれませんが、正真正銘、僕は頭が悪い馬鹿なんです。学力発想力創造力思考力努力、どれも持ち合わせていません。

 「キミ、頭が悪いことを威張ってどうするんだい」なんて言われてしまうかもしれませんが、そんな時はハッキリと威張ってお答えします。

 「威張っていません!気付いたんです!」と。

 僕はまだ、しぶとく「俳優」をしています。
 そして、勘違いをしていたことに気付きました。

 【台本に書かれた人物こそが本当の自分なのではないか】という勘違いです。

 ミナリさんが今何をしているかは分かりませんが、少なくともこの気持ちは理解してくれると思います。

 台本に書いてある言葉を言っているだけなのに。
 ただ、作品の一部に成るために、そこに居るだけなのに。
 演じる役の言葉、作り出された空間、作品の力が、自分の力だと勘違いしていました。 

 頭が悪いですねえ。馬鹿ですねえ。

 そして、馬鹿に拍車がかかり、発言をする際には「いいこと」を言おうとしてしまう。言葉を操る俳優が持つ「本質をついた言葉」を言おうとしてしまう。見返りを前提とした言動をする。

 なんて愚かなんでしょうか。

 劇作家さん、脚本家さんの言葉を、監督さん、演出家さんの言葉を真に受けて、まるで最初から自分が彼らの言葉を持っていたかのように立ち振る舞ってしまう。

 ここまでくると、恐ろしいです。

 しかし、やっと気付きました。僕は頭が悪い馬鹿であることに。
 自分が何者であるかを考えてきた僕にとって、これはとても大きな発見です。大事なことは〈自分が馬鹿だと分かったこと〉だと思うんです。

 好き。嫌い。

 これだけなんです。僕の頭の中には、これしかないんです。なのに、わざと複雑にしようとしてきました。演じる人物が頭を抱えるように。

 嘘をつきました。

 好き。嫌い。
 会いたい。離れたい。
 楽しい。つまらない。

 こんなもんです。
 これだけで、僕の気持ちは説明出来るんだと思いました。

 難しい言葉を使ってみたい。複雑に考えてみたい。誰の心にも響く言葉を言いたい。優等生にも、劣等生にもなれなかったから。演じることで、何でも出来る気になっていました。

 でも、違ったんです。

 僕は頭が悪い。お馬鹿。

 だからこそ、もっと単純な気持ちを大切にしようと思いました。よりプリミティブな部分を、アニミズムの気持ちで、世界に感謝をしながら生きていこうと思いました。ほらね、使いたがる。

 結論。

 「人の中にいたい。」

 これです。あ、これも、舞台の科白でした。ダメだこりゃ。

 今回は、自分に気付けた僕を褒めて欲しくて、ミナリさんへ連絡をしました。馬鹿な僕、これからも頑張ります。

 ミナリさんは、自分がどんな人だと思いますか。どんな人になりたいですか。いつか、話し合えたらいいなと思っています。それでは。また連絡します。


おわり。

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