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旅だ inベルリン ⑦ 最終回

罰金を取られた後に素敵なスタバを見つけて
凹んだ気持ちを慰めた翌日、
ミッテのホテルから
テーゲル空港近くのホテルへ移るため、
チェックアウトすると駅へ向かう。

ベルリンは、歩道がでこぼこの細かい
石畳になっていることが多く、
トランクのタイヤがいちいちもっていかれて
引きにくいことこの上ない。
さらに犬のフンも普通に落ちている。
華麗に避けながら、結局踏みながら進み、
今度はきちんと切符に打刻して、電車に乗り込む。

ベルリンは曇りが多い。
その日も空には薄い雲が広がっていたが、
常に薄陽がさしていて、
アンニュイな雰囲気がわたしは好きだ。
影のあるところは、光が際立って美しい。
それに、ベルリンの建築物の形状や佇まいが、
なぜか曇り空に似合う。
カッコイイ街にはグレーの空がぴったりくる。


ホテルの最寄駅に降り立ち、
地図を見ながら探すこと30分。
ないじゃないか。ホテル。
通りの名前も合ってるし、目印の店もあるのに、
ホテルだけがない。
おかしい。

疲れてきたし、探している時間がもったいないので
通りかかったドイツ人マダムに、
地図を見せて状況を説明する。
しかし説明するほどのドイツ語力も英会話力もない
悲しいアジア人のわたしたちは、
子供が「困ってるんでしゅ」と言っているように
見えたのだろう。

マダムは眉毛を上げ下げしながら聞いてくれ、
一緒にいらっしゃい!と
手を繋いで引っ張っていってくれた。
おソノさん!(魔女の宅急便より)
と心で叫びつつ、店と店の間の
細すぎる路地に引っ張り込まれる。

ここ、道だったんだ…と思いながら奥へ入っていくと
急に中庭のような広い空間が現れ、
目的のホテルがちんまりと佇んでいた。

マダムの表情から読み取るに(ちゃんと聞け)
デザイナーズホテルだから人気で、
海外からよく旅行者が来るらしいが、
場所が分かりづらすぎて
いつも外国人がウロウロ探しているから
前にも案内したことあるわ、と言っていた。

夫が Vielen Dank. とお礼を言うと、
マダムは手をひらひらして去っていった。
いいひとに声かけて良かった。


そのホテルは、小さいし部屋も狭いが
ドイツに住んで暮らしているような気分になれる
居心地の良い造りだった。
朝ごはんもアットホームで美味しく、
もしベルリンに移住したら、
こんな部屋を借りたいなと2人で盛り上がった。

夫のお目当てのbook&galleryは
むかし表参道にあったNADiff(現在は恵比寿に移転)
のような感じで、かなり楽しんだ。
夕飯は久しぶりに中華がたべたくなり、
ホテル近くの中華料理店に入る。

わたしは昔から米に依存がないので、
海外に来て米食ができなくても全く困らないが
夫はお米大好き人間なので、
注文したエビチリが来るや否や
幸せそうにモリモリ米を食べていた。
それを小籠包を食べながら眺めて、
またもや、ああこの人と結婚したんだなあ、と
感慨に耽った。
いつもながら、夫婦になった実感は
変なタイミングでやってくるなあ、と思いながら。


旅の最終日、これまで共にしてきた荷物と
プラハとベルリンで見つけた
可愛らしいお土産たちをリモワに詰め込み、
わたしたちはホテルを出た。

今はなきテーゲル空港に向かうため
シャトルバスに乗り込む。

窓際の席に座ると、車窓にはまたもや曇り空の
いつものカッコイイベルリンの街。
いちいちスタイリッシュだが、
不思議と落ち着く街だった。

この世界に、生まれ育った国ではないのに
こうやって不思議と居心地の良い街が
どれくらいあるのだろう。
時間もお金も許すのなら、全部訪れてみたい。
わたしには、世界は大きすぎる。


テーゲル空港は、管制塔の形が素晴らしくカッコよく
国際線なのにとても簡素な作りの空港だ。
今はもう閉鎖されてしまったのが
実にもったいない。
最後に利用できて本当に良かった。

搭乗時刻まで、少し空港を散策し
変わった造りの本屋さんや、
イタリアンエスプレッソを飲めるお店で
甘いものとコーヒーを楽しむ。
この旅で、たくさんのコーヒーを飲んだが
シチュエーションと
窓からの景色と
店のインテリアとが
それぞれ違ってみんな良かった。
夫が、スイスのコーヒーもすごく美味しいんだ、
と話していて、次はスイスも行きたいなと思う。


わたしは、パンとコーヒーとシャワーがあれば
どこでも生きていける、とこの旅で実感した。
適応力だけは、ちょっとだけ秀でているようだ。

それぞれの街に、良いところを見出して
夫と一緒に楽しめたこと、
たくさんのトラブルが降りかかったが
何とか一緒に切り抜けてきたことが
この旅に来た、大きな収穫だった。

日本でも、こうやって一緒の人生を
切り抜けていくんだろうな。
大丈夫だろうか。
きっと、大丈夫。


成田に到着すると、
何だか張り詰めていたウロコが
パラパラと落ちる感じがして、安堵したような
日本人ばかりがいて、つまらないような
変な感覚に陥りながら家路についた。

自宅の最寄り駅に降り立ったときの
ホーム戦感が忘れられない。
ああ、帰ってきた。日常に。
またいつもの毎日が始まる。

だけど、大きな体験を搭載した毎日は、
今までとは少しだけ違って
味の濃くなった日々となることだろう。

ありがとう、プラハ ベルリン!

ここまでお読みいただきました皆さま、
ありがとうございます。

(シリーズおわり)

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