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目覚めはいつも夜明け前。

目が覚めるのはいつも深夜二時から三時の間。
つけっぱなしの電気の下、自由と孤独が気ままに踊るワンルームで私は目覚める。
咳払いを一つ。
つけっぱなしのエアコンのお陰で寒くはないが、酷く乾燥していて、喉が痛い。
比較的最近購入した折り畳みマットレスの上に長年愛用してつぶれた布団が敷かれていて、その上に羽毛布団と綿毛布にくるまった私が乗って、咳をしている。
布団の横には一人用の炬燵。スペースが足りなくて炬燵布団を購入しないまま、ただの机として使っている炬燵が存在感を主張し、机の上にはスリープモードに入ったノートパソコンと、仕事の帰りに寄ったスーパーで買った値引き半額シールの付いたお惣菜の残骸がいくつかと、チューハイの空き缶が一つ。その向こう側、壁に押し付けるように置かれたテレビは通販番組が垂れ流し状態になっていた。
また寝落ちした。
いつもの光景。
見慣れた部屋の景色だ。
やりたくもない残業をやっつけ、料理する気力もなく総菜を買って帰り、帰宅直後の気力があるうちにシャワーを浴びる。先に風呂に入っておかないと、尻を落ち着けてしまったが最後、もう風呂に入るのがめんどくさくなるので、最後の一仕事とばかりにさっさと体を清めて、寝巻きとも部屋着ともつかない使い古して肌馴染みの良くなった長いトレーナーとスエットパンツに着替えたら、ようやく息が吐ける。
適当にパソコンとテレビをつけて、缶チューハイ片手に総菜をつつく。
最近はこの時間が至福の時だ。
テレビ番組は適当なバラエティ。見ても見なくてもどうでもいいものを見流している。
本当は勧められたドラマやアニメを録画しているが、いつかちゃんと見ようと思ったまま録画され続け、ハードディスクの容量だけが圧迫されているのが現状だ。
無理。
仕事で頭も体も使って来ているので、仕事した夜は何も考えたくない。頭を使って話を理解していくのがしんどい。
同じ理由で、作者名だけで新刊が出たら買い続けている本たちが積み上げられていく。
学生の頃は寝る間を惜しんで本を読んだりラジオを聞いたり映画を見たりしたものだけど、そんな気力と体力が、もう、ない。
四十手前。趣味に全力で向き合っている人を見ると眩しく、羨ましい気持ちになると共に、妙な焦りが生まれてくる。
時間は有限だ。老いれば老いるほど頭の柔軟性がなくなり、体力も筋力も落ちる。若いうちにやれることはやった方がいい。
そう思うのに、私は今日も、だらりとした服で布団に転がり、適当な旅番組を見ながらパソコンでSNSを覗き見し、缶チューハイ片手に総菜をつついていた。
そうして気付いたら寝落ちしていて、目覚めれば深夜二時だ。
せめて寝落ちは止めたい。
電気を消して眠りたい。
そうは言っても止められない至福の時間……よもやこれがアルコール中毒か? いやいや、そんなことはないだろう。チューハイ一つだけだし、休日は飲まないし。仕事して疲れてくると考えたくないから酒を呑みたくなるだけで……これがいけないのか?
考える。
考えつつも、思考は停滞していき、同じことの繰り返し。
のそのその起き上がり、トイレに行って歯磨きをして、コーヒーを入れて布団に戻ってくる。この歯磨きは寝落ちした夜の分で、朝の分はちゃんとやるから大丈夫。……どんな言い訳だ。生まれたこの方、虫歯になったことがないので油断しすぎもいいところだ、まったく。
はぁ。
溜め息でコーヒーを冷まして、ちびちび啜る。
午前三時か。
いつもこの時間に目覚めるのなら、朝活とやらでもしようかな。本を読んで、映画を見て……仕事前だから酒は飲まないし、寝落ちすることもないだろうし。
そうすれば、日々の生活が楽しくなるだろうし、新たな発見や出会いもあるかもしれない。
楽しい妄想は膨らむ。
妄想は膨らむが、コーヒーのおかわりを何回か繰り返したところで夜が明けて、もう仕事に行く時間になってしまった。
仕方ない、朝活は明日から。
明日も同じ事を言っていそうだが、朝活は明日から、だ。
はぁ。
また仕事に行く準備をするか。

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