おまじないよ、消えないで。
「都合により閉店いたします 長い間ありがとうございました」
年季の入ったガレージに、何かの裏紙に書かれた挨拶が、ぎこちなく黒のテープで貼り付けられていた。
「まじか…」
このサンドウィッチ屋さんは、駅の近くにあり、ただ、やってるのかやってないのか分からないくらい、ちょっと薄暗く古びていて、不思議な雰囲気を漂わせているお店だった。
駅の近くと言っても、駅の向こう側だったし、私はあまりサンドウィッチを買う機会がなく、一回しか利用したことがなかった。
その一回だけ行った日。
大学生のとき、授業が午後からとかで、時間があったので、前から興味を持っていたし、寄ってみたのだ。
ショーケースを見てみると、思ったよりも沢山の種類のサンドウィッチが並んでいた。買ったのは確かコロッケサンドだった気がする。
その日は、夏の暑い日で、わたしはノンスリーブにサングラスという格好だった。
お会計が終わって、サンドウィッチが入った袋を受け取ったとき、お店のおじちゃんに突然、
「あんた大物になるよ」
と言われた。
いくら"the 夏"みたいな格好をしていたとはいえ、日常の中で、そんなセリフが耳に入ってくることなんてない。私は、異次元の世界に連れてこられたみたいで、面白くなってしまった。
そのあと電車に乗ってからも、「あのおじちゃんの予言当たったりするかな」なんて考えて。
そんな鮮烈な出来事があったので、私は駅のホームから、そのサンドウィッチ屋さんを見るたび、どこか励まされていた。おまじないをかけられたみたいだった。
それから4年ほどたった、つい先日。
閉店を知った。
最近街に出てみると、この状況下でやむを得ず閉店したお店が本当に多く、とてもショックを受ける。
食べログで保存していたレストランも、気がつくと、閉店マークがついていて、私はしゅんとしながら、保存マークを外す。
このサンドウィッチ屋さんもか。
閉店の理由はわからないが、おじさんが言ってくれた私へのおまじないが、儚くも解けてしまうような気がした。
「わたし、大物になんかなれてないよ、、」
どうか、おまじないよ、消えないで。
伏線回収はきっとこれから。
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