B2B新規事業におけるマーケ系KPIの策定とPDCAのノウハウ
はじめに
こんにちは。木村隆志と申します。とある人材系大手企業内スタートアップ企業で、新規事業を横断的に支援するマーケティング部門の責任者をしています。最初に、過去記事の「B2B新規事業立ち上げのためのマーケティング戦略とは?」からお読みいただけると全体感が掴めるかと思います。
この記事の想定読者
この記事は、主に以下の方を想定しています。
B2Bで新規事業をこれから立ち上げようとされている方
新規事業をローンチしたばかりの方(0→1フェイズ)
事業開始から数年経つがまだPMF(プロダクトマーケットフィット)している実感がない方
※2桁億・3桁億の売り上げを出している事業は対象外ですのでご了承ください。
マーケティングKPIの設定と運用
ここから、B2B新規事業でのマーケティング関連KPIの策定方法と、PDCAを回すための運用方法について説明していきます。ご注意点としては、「過去の実績データが蓄積されておらず試行錯誤を強いられる新規事業でのやり方」「私の(当社の)やり方」であるということをお含みおきください。
「売上逆算法」でマーケティングKPIを定める
マーケKPI(※)は基本的には売上目標からの逆算で作っていきます。ここで用いる主な指標(係数)は以下の通りです。(※この記事の中の「マーケティングKPI」「マーケKPI」は、マーケ(リード獲得施策)のリード数(MQL数)、商談化率・商談数などと、インサイドセールスで用いる架電数・着電数などの指標を示します。また、断りがない場合は「リード」=「MQL」を指します)
具体的なKPIの設定の仕方を見ていきましょう。
全体数字からの逆算
売上(受注)社数÷商談受注率で、受注に必要な商談件数を出す
商談数÷リード商談化率で商談に必要なリード数を出す(図1参照)
施策(チャネル)別数字からの積み上げ
次に、Webサイト、web広告、展示会等、施策別に数字を積み上げて上記で定めた必要リード数・商談数合計に届くようにします。
施策の費用は、固定費型(リード数によらず費用がかかるもの)と変動費型(CPAx件数で費用が変わるもの)を考慮して積み上げ、マーケ予算内に収まるようにします。
セグメント別数字の点検
「Tier別」や「エンプラ/SMB別」など、事業によって重点セグメントを分けている場合はそのKPIを明確にします。セグメント別数字が決まっている場合は、施策(チャネル)ごとの「セグメント含有率」の計算から積み上げ、点検します(例・「エンプラ商談数がまだあと〇件足りない」など)。
補正
1受注にかかる平均リードタイムを考慮して、「受注と商談のタイミングのずれ」を補正します。リードが商談化するまでの平均リードタイムを考慮して、「リードと商談のタイミングのずれ」を補正します。
受注リードタイムの重要性
1受注までリードタイムが長い商材の場合、大まかにリードタイムを定めて逆算して商談月を設定します。例えば・・・
商談から受注までのリードタイムが6か月かかる場合、商談数は受注月の6か月前に設定する、といった要領です。
「獲得ベース」と「実施ベース」の違い
マーケ・ISとしては商談数を「獲得する」ことにフォーカスしがちですが、営業からすると、「今月何件商談できるのか(できたのか)」が大事ですので、獲得ベースと実施ベースは明確に区別する必要があります。
特に月末に獲得した商談アポは翌月の実施になることが多いので、当月に商談実施できる件数が獲得した件数より少なくなります。年末年始など長期休暇をはさむときはなおさらです。Sales ForceやHubspotなどのSFA/CRMを使用していれば商談日で計測できます。GoogleスプレッドシートやExcelでも商談日をカウントするようにしましょう。
商談数の「ミルフィーユ」構造の理解
実際の商談数は以下の構造になっています。
前月に獲得していたアポ数が「貯金」となっており、それを実施しつつ当月中に当月商談アポを獲得し、月末には翌月の商談アポの貯金を作るという構造になります。
チャネル別商談化率の分析
リードからの商談化率は施策の性質によって高低があります。一般論的には、以下の傾向があります。
カテゴリ別:リード商談化率はインバウンド系リード>アウトバウンド系リード。顧客が主体的に情報収集行動しているものほど商談化率が高まる傾向
カテゴリ内:
サイト:webサイトからのお問い合わせ>資料請求
広告:Google/Yahoo!のリスティング広告>ディスプレイ広告>SNS広告(Facebook・インスタ・X(Twitter)広告など)
イベント:リアル展示会>オンラインカンファレンス/セミナー
これらも、顧客が時間的コストを払って主体的に収集行動しているものほど商談化率が高まる傾向があります。
計画立案時はこれらの傾向を考慮します。もちろん事業特性・ターゲット特性によって異なりますので、ファクトとその背景・文脈に基づいて意思決定する必要があります。
費用シミュレーションは固定費型と変動費型を意識
マーケ施策の費用は、固定費型と変動費型の2種類があります。
固定費型(リード数によらず費用がかかるもの)
webサイト運用費(業務委託している場合)、成果報酬型でない外部メディア、展示会出展費用、オンラインカンファレンス出展費用など計画立案時は、リード数によらずその施策を実施する月に費用を計上しておく(例・展示会出展料、ブースの制作・設置費用等)
変動費型(CPAx件数で費用が変わるもの)
web広告(リスティング・ディスプレイ広告など)、SNS広告、成果報酬型の外部メディアなど
計画立案時は、CPA(リード1件あたりの獲得コスト)x獲得リード数で費用を算出する
投資目安CPAの設定
目標とするユニットエコノミクスの水準に基づいて、投資目安となるCPAを設定します。かなり簡略化していますが上の図2を参照ください。
ユニットエコノミクスの設定
LTV:1企業が生み出してくれる生涯価値
当社の場合は粗利で計算することが多い。SaaSの場合は初期費用+月額費用の総和ですが、月額費用は一定の期間の縛りをつけないとやたらでかい金額になってしまうので、12か月とか36か月とか貴社/貴事業の特性や思想に基づいて定めましょう。
CAC:1企業を獲得するコスト
当社の場合、CACは「1社受注するのにかかるマーケティングの直接費+マーケ・営業の人件費」で計算することが多いです。人件費は1件受注するのに何人月要するかで計算できます(単純化すると、1人の営業がひと月に5件受注する場合、1受注にかける人工数は1÷5=0.2人月と計算できる)。
投資目安商談CPAの設定方法
LTVの設定:1受注あたりLTVを算出(仮に1社100万円とする)
LTV/CACの目標水準を定める(ここでは仮に3とする。事業フェイズによってはいきなり3にならないことが多いと思います)
CACのシミュレーション
LTV/CAC=3とするとCAC目標値は 100万円÷3=33.3万円。
まず人件費の算出:1受注あたりマーケ人月数x人月単価(仮に0.1人月x50万円=5万円)、1受注あたり営業人月数x人月単価(仮に0.3人月x50万円=15万円)。33.3万-(5万+15万)=13.3万(CACの枠から人件費を引いた残り)でマーケ費をまかなう
目安商談CPAの設定
商談受注率の水準を設定(ここでは仮に20%とする)
受注CPAx商談受注率=目安商談CPA
だから13.3万x20%=2.7万円
これが目安商談CPAとなります。1商談2.7万円で獲得するのって結構厳しいですよね・・・(つぶやき)計算式の構造を見てお分かりの通り、1受注あたりのLTVや商談受注率が高い場合は高い商談CPAを許容できます。
インサイドセールスのKPI管理
架電数:架電した数。商材にもよりますが、BDR(コールドコール)なら1人日60~80件、SDR(リードへの架電)なら1人日40~50件が目安でしょう。
着電率:無効、不通を除き対象者とつながった数。リードの質によって高低に差があります。
商談化率:リードを分母とした場合のリード商談化率を見る場合と、架電数を分母とした場合の架電商談化率(もしくは着電商談化率)を見る場合があります。商材やリードの質によりますが、1リードに対して3回程度架電しますので、リード数<架電数 となり、リード商談化率>架電商談化率となります。
計画立案時のポイントも補足しておきます。
架電数:IS1人日の架電可能件数xISの人数で決まる。SDR1件50件を標準とし、ISメンバーが3人いるなら50件x3=150件が1日の架電可能数。20営業日あれば150件x20日=3,000件 が架電可能数。
商談数:新規リードと既存リードで変わる。
新規リードからの商談数=新規リード数x架電数x架電アポ率
既存リードからの商談数=新規リード数x架電数x架電アポ率
ここで、上述の施策別の商談化率の傾向や商談化までのリードタイムを考慮します。
PDCAサイクルの実践ノウハウ
日数進捗率でフォーキャストを立てる:フォーキャスト=計測時点までの実績値÷計測時点の日数進捗率・日数進捗率=経過日数÷当月日数x100%
日数進捗率とは、当月の日数のうち何日経過したかのこと。当月日数は営業日で計算する場合とカレンダー日で計算する場合があります。年末年始やGW・盆などの長期休暇がある場合は注意が必要です。今月の目標商談数が100件で、日数進捗率45%時点での実績が20件だった場合。デジタルに計算するとフォーキャストは、20件÷日数進捗率45%で44件。この場合は目標値に届かないことがわかります。あくまでデジタルなフォーキャストなので、施策によってリード・商談の山谷がある場合はこの限りではありません。例えば実施日以降にリードが入ってくるイベントなどは、当然その実施タイミングを考慮します。
「決着商談化率」で初速を判断
「決着商談化率」はおそらく当社独自のノウハウですが、実際のPDCAの現場では有効な手段なのでご紹介します。
利用シーン
毎週・毎週、リード数・商談数の実績を計画値と照らして確認し、フォーキャストが計画通りか確認し、フォーキャストが計画未達の場合は要因を分析し手を打ちます。
商談数・商談化率が計画を下回っている場合、それが「ISがまだ架電していないのか」「架電しているが着電していないのか」「着電しているがアポが獲れていないのか」がわからないと、判断を見誤ることがあります。それを避けるために、ISが顧客と会話して一定の決着をみた数字で意思決定するという方法があります。
計算式
つまり、不通・不在で会話できていなかったり、着電はしたが多忙などでかけ直しになったたりする場合を除いて、商談アポ獲れた件数+商談アポ獲れなかった件数、つまり「決着がついたものだけ」で商談化率を計算します。これによって、上述した「ISがまだ架電していないのか」「架電しているが着電していないのか」「着電しているがアポが獲れていないのか」が混じる問題を避けることができます。
PDCAミーティングでは、「〇〇施策の商談化率がまだ5%と低いのですが、決着商談化率は15%で計画値並みです。決着率自体が30%なので、今後着電できたときに15%程度の商談化が見込まれれば計画値達成できます」といった会話になります。
事業や商材の特性によっては、時期を改めることで顧客の状況が変わって商談の機会につながることがあり、本当の意味で「決着」はしないという問題がありますので、この「決着商談率」は初速の数字でPDCAを回すための便宜的な指標です。
まとめ
いかがでしたか。売上から逆算したマーケ目標・KPIの立て方や、商談CPAを見ながらリード獲得施策をタイムリーにチューニングしていくノウハウについて、当社での経験をもとにまとめてみました。『T〇E MO〇EL』にも書かれていないような具体的な話ができたかと思います(結構疲れました)。同じようにB2B新規事業で奮闘されている同士の方、いらっしゃったらぜひコメントをいただけますと幸いです。
※この記事で紹介した内容は、私個人の経験に基づいています。これは当社の公式な手法を代表するものではなく、結果に関して保証するものでもありません。実践に際しては、自己責任でご判断ください。
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