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「誰のどんな課題に何を訴求するか?」提供価値を定めるフレームワークの紹介


はじめに

こんにちは。木村隆志と申します。とある人材系大手企業内スタートアップで新規事業を横断的に支援するマーケティング部門の責任者をしています。最初に、過去記事の「B2B新規事業立ち上げのためのマーケティング戦略とは?」からお読みいただけると全体感が掴めるかと思います。

この記事の想定読者

この記事は、主に以下の方を想定しています。

  • B2Bで新規事業をこれから立ち上げようとされている方

  • 新規事業をローンチしたばかりの方(0→1フェイズ)

  • 事業開始から数年経つがまだPMF(プロダクトマーケットフィット)している実感がない方

※2桁億・3桁億の売り上げを出している事業は対象外ですのでご了承ください。

過去記事「B2B新規事業立ち上げのためのマーケティング戦略とは?」にて、「0→1フェイズのマーケティングは「誰のどんな課題にどんな訴求」が起点」であると書きました。今記事では、その「提供価値」を定めるためのフレームワークについてご紹介します。

B2B新規事業におけるマーケティングは、「誰のどんな課題にどんな訴求」が起点となります。まずは、ターゲット(TGT)の課題、ニーズ、及びタッチポイントを詳細に把握することが起点となります。ターゲットが抱える具体的な問題を理解し、彼らがどのような情報を求め、どこでその情報に触れるのかを把握する必要があります。

B2B新規事業立ち上げのためのマーケティング戦略とは?
https://note.com/kimuratakasi0312/n/nfbdade4bc581

前提知識

まず、提供価値ということを考えるにあたり、いくつかの既存のフレームワークを紹介した後に提供価値のまとめ方について記述します。それぞれの見出しを見て、既知の方は読み飛ばしてもらって構いません。

前提知識①「プロダクトコーン」

まずはシストラットコーポレーション社が提唱する「プロダクトコーン」です。商品・サービスの価値は「規格(スペック)」「ベネフィット」「エッセンス」の3層構造になっているという考え方です。

・規格:商品の機能、スペック
・ベネフィット:生活者の得するコト、モノ
・エッセンス:商品が持つ性格(擬人化)

出典:シストラットコーポレーション http://www.systrat.co.jp/theory/theory01pcorn.html

ビオレ社の「毛穴すっきりパック」を例にとると、以下の構造になっています。

プロダクトコーンの説明図
プロダクトコーン

・規格:鼻の毛穴をそうじするシート状の簡単パック
・ベネフィット:気分がすっきりして、きれいになる(気がする)
・エッセンス:すがすがしい

出典:同上

生活者は、規格(商品の機能、スペック)から得られるベネフィット(得するコト、モノ)と、さらにそこから生まれるエッセンスに期待して購入するという考え方です。シンプルでわかりやすいですね。

前提知識②「スペック・メリット・ベネフィット」

次に、「スペック・メリット・ベネフィット」というフレームワークを紹介します。個人的にファインドスターグループのFiNEコラムがわかりやすかったため、引用させていただきます。

・スペック:商品周りの情報、商品への想い。主語は商品寄り。
・メリット:ターゲットにとっての目に見える効果、心理的な効果。
・ベネフィット:ターゲットが悩みを解消し得た出来事、気持ちを満たした出来事。主語はターゲット寄り。

出典:「商品のベネフィットを可視化するため、マーケティングの現場で実践している方法」 (https://www.tsuhan-marketing.com/blog/basic/product_benefits)をもとに作成。

紹介されている事例はB2BではなくB2Cの化粧品ですが、わかりやすく整理されています。

スペック、メリット、ベネフィットの説明図
スペック、メリット、ベネフィット(出典:同上)

前提知識③「FABE/Feature, Advantage, Benefit, Evidence」

次は、「FABE/Feature, Advantage, Benefit, Evidence」です。からの引用です。以下の要素に分けて考えられています。

・Feature(特徴):商品・サービスの機能や仕様に関する情報
・Advantage(利点):商品・サービスの競合に対する自社の優位性、メリット
・Benefit(利益):商品・サービスを通じてお客様が得られる価値
・Evidence(証拠):Feature・Advantage・Benefitの証拠となるデータ
・事例、自社商品・サービスを利用しているお客様の声や導入事例

出典:同上(https://mktlabo.com/column20201101)
FABE/Feature, Advantage, Benefit, Evidenceの説明図
FABE/Feature, Advantage, Benefit, Evidence(出典:同上)

FABEを使った営業トーク例
・Feature(特徴):「この生産管理ソフトは、一般のパソコンとプリンターがあれば機能します」
・Advantage(利点):「特別なIT技術を持たない人でも、数日の研修を行うことで使えるようになります」
・Benefit(利益):「この生産管理ソフトを使用することによって、手配が早くなり工期が短縮されます。また手配ミスも少なくなります。御社の場合ですと、生産管理要員を現在の4人から2人に減らすことができます」
・Evidence(証拠):「昨年T測器さんがこのソフトを導入されました。ここは社員170名の電気計測器メーカーです。最初は慣れるのに少し時間がかかりましたが、平均の工期を約20%短縮することができたそうです」

出典:同上(https://mktlabo.com/column20201101)

B2Bの営業を例に出されているので、B2B新規事業の提供価値定義の考え方の参考になります。前出の「プロダクトコーン」や「スペック・メリット・ベネフィット」と異なるのは「Evidence(証拠)」があるところですが、論理的に意思決定がなされるB2Bにおいて重要と言えるでしょう。

前提知識④イノベーター理論

ちなみにここで「イノベーター理論」との関係性について触れておきます(イノベーター理論とは何かについてはここでは割愛します)。先ほどのプロダクトコーンはイノベーター理論と結びつけ考えることができます。

イノベーター理論図

イノベーター理論の図
イノベーター理論

プロダクトコーン × イノベーター理論

イノベーター理論の図に、プロダクトコーンの図を重ねてみます。イノベーターはいわば有識者で判断基準を持っているため、商品サービスのスペックを言うだけで価値を想像できますが、一般的にはそうではなく、多くの人はその商品がどんな便益をもたらすかまで言わないと購買に動きません。さらに後期採用者向けには「みんなが言っている(やっている・知っている)」という情報が必要でしょう。B2Bでは、意思決定が論理的に行われるため、イノベーターやアーリーアダプターに対してもEvidence(証拠)情報は必須です。

イノベーター理論xプロダクトコーン(木村作成)
イノベーター理論xプロダクトコーン(木村作成)

ここまでのまとめ

「プロダクトコーン」・「スペック・メリット・ベネフィット」・「FABE」は、大まかには似たようなことを言っていると思います。イノベーター理論との関係で説明した通り、ターゲットの知識や導入フェイズに応じて、ボトム寄りかトップ寄りかが変わることに留意します。

各フレームワークのまとめ(木村作成)

提供価値のフレームワークとその要素

提供価値を整理する際に、私が使用しているフォーマットをご紹介します。

提供価値整理シート(木村作成)
提供価値整理シート(木村作成)

以下の要素があります。

・課題:顧客のペインポイント。「~がない」「~できない」で表現される
・価値:顧客に約束できる価値。訴求。「〇〇で(特長)で~~できます(ベネフィット)」の構文で考える
・RTB:Reason to Believe。信じられる理由。特長。スペックやメリットが入る。
・+α:証拠となるデータ・事例・自社商品サービスを利用しているお客様の声や導入事例他。

いくつかの変遷を経て現在はこれに落ち着いています。「価値」をベネフィット」にしてもいいでしょうし、「RTB」を「メリット」や「スペック」としてもいいと思います。

「課題」

一つひとつの要素について解説します。まず「課題」についてです。「~がない」「~できない」で表現される顧客のペインポイントです。特にB2Bでは「Burning Needs」と呼ばれる喫緊の課題を挙げるのが良いです。
※「課題」と「問題」は本来区別すべき単語ですが、ここでは便宜上同義としており、顧客の「ペイン」を表すと考えてください。

Burning needsとは画像のように頭に火が付いていて、今すぐ消さないとマズイ、というような課題のことです。このような状態に対して、 英語で「頭に火がついている」、 `"hairs on fire"` と実際に表現します。基本的に企業はこのような、直近の課題の解決にしかお金を払いません。BtoBの場合特に、課題解決出来るかどうかをシビアに判断します。こんなのあったらいいよね、というフワッとした製品に払うお金など一円もないのです。

出典:「顧客のBurning needsを解決する」https://chikathreesix.com/post/burning-needs

フォーマットには課題の欄を3つ設けています。必ずしも3つじゃないといけないことはありませんが、後述するRTBとの座りがいいので3つにすることが多いです。

課題とRTB(Reason To Believe)は対応

提供価値整理ブランクチャート(課題とRTBの対応)
提供価値整理ブランクチャート

Burningな課題を3つ挙げたら、それに呼応する形で解決策あるいは特徴をRTBの柱に掲げましょう。

「So What?」と「Why?」の繰り返し

提供価値整理ブランクチャート(価値とRTBのピラミッド構造)
提供価値整理ブランクチャート

価値とRTBはピラミッドストラクチャーになっています(ピラミッドストラクチャーについての説明はここでは割愛します)。価値の言葉は「〇〇で~~できます」という構文で考えますが、RTBはその〇〇に当てはまる特長を説明したものという構造になっています。価値の言葉から見るとRTBは「Why?(なぜ?)」に答える形になっており(「Reason」ですから)、RTBから見ると価値の言葉は「So What?(つまり?)に答える形になっています。

実際の例

ここから、実際に当社の事業での実例を紹介していきます。紹介するのは、当社のコミック(マンガ)用いた研修プロダクト、提供価値をブラッシュアップするワークを行ったときのものです。

顧客の課題の3層構造仮説

この研修プロダクトはコンプライアンス違反防止・ハラスメント防止や、管理職のコミュニケーション力向上など、企業の中の様々な題材を扱います。お客様の課題は大きくは3種類に分けられるのではないかという仮説が挙げられています。

ワークセッション資料

【顧客課題の洗い出し】レイヤー
①「研修プロセス」に対する課題レイヤー
②「研修効果」に対する課題レイヤー
③「企業影響」に対する課題

ベネフィットの3層構造仮説

さきほど、課題とRTBは対応すると述べました。今仮説では、顧客の3つの課題に対して、当社の研修事業のベネフィットも3レイヤー対応させられるのではないかと考えました。

ワークセッション資料

【課題とベネフィットの対応の検討】
課題①「研修プロセス」に対する課題→ 「マインドが変わる」というベネフィット
課題②「研修効果」に対する課題→ 「行動が変わる」というベネフィット課題③「企業影響」に対する課題→ 「会社が変わる」というベネフィット

議論を通じて、「会社が変わる」というベネフィットは大きすぎ、コミック研修プロダクトという商材特性からは若干距離が遠いためチューニングをすることにしました。

埋めた提供価値シート

議論と顧客への調査を経て(調査のプロセスは割愛します)、提供価値シートをまとめました。顧客の課題と、それを解決するためのプロダクト・サービスの価値の言葉をまとめ、それを支える理由(RTB)とファクトなどを一枚に整理したものです。なお、これはキャッチコピーとしてそのまま使えるものというより全体の設計図です。webサイト、web広告、展示会のタペストリー、テレマーケティング等々、メディア/チャネルに応じてクリエイティブ/トークは最適化する前提です。

提供価値シート
提供価値シート(当社作成)

課題とRTBの対応関係

課題とRTBが対応していることと、価値とRTB、RTBの見出しと本文それぞれがピラミッドストラクチャーになっていることを下図でご確認ください。

提供価値シート(クリックして拡大)

価値とRTB、RTBの見出しと本文のピラミッド構造

提供価値シート(クリックして拡大)

後続の作業

前述の通り、この提供価値シートはキャッチコピーとしてそのまま使えるものというより全体の設計図です。webサイト、web広告、展示会のタペストリー、テレマーケティング等々、メディア/チャネルに応じてクリエイティブ/トークは最適化していきます。この企画のこのクリエイティブでは課題①にフォーカスする、別のクリエイティブでは課題②にフォーカスする、といった具合です。

実際のクリエイティブ例

提供価値シートを基本の設計図としてクリエイティブを制作したものを紹介します。下記は展示会で使用する垂れ幕です。

展示会で使用する垂れ幕
展示会で使用する垂れ幕。提供価値シートからクリエイティブジャンプさせて変化している

左が課題①に、右が課題②に対応したクリエイティブです。展示会の垂れ幕という性質上、ブースに足を止めるためにAttentionを重視し文字を極力少なくしています(顧客の反応を見てクリエイティブはブラッシュアップさせる前提です)。

まとめ

いかがでしたか。B2B新規事業の提供価値=「誰のどんな課題に何を訴求するか」を定めるためのフレームワークと具体例をご紹介しました。新規事業をローンチしたばかりの方、グロース手前の事業をご担当されている方のお役に立てれば幸いです。また、同じようにB2B新規事業で奮闘されている同士の方、いらっしゃったらぜひコメントをいただけますと幸いです。

※この記事で紹介した内容は、私個人の経験に基づいています。これは当社の公式な手法を代表するものではなく、結果に関して保証するものでもありません。実践に際しては、自己責任でご判断ください。

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