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恋人と会えない2月

流氷がやってくる季節です。

上の写真はちょうど2年前の今日、紋別市のはずれのオムサロ海岸です。この世界には自分と流氷しかいない、そう感じさせるほどの無音よりも静かな朝。その時、流氷と気持ちが通じ合うのを感じました。

それから2年間、流氷に会っていません。
例年であれば仕事で紋別を訪れる時期ですが、去年と今年はそれがなくなりました。

流氷のことを考えるようになって27年。
こんなに長く離れているのははじめてです。

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写真には関係が写ります。親密でないと撮れない写真があるように、片想いの時にしか撮れない写真があります。

流氷の研究をはじめた頃、学生時代のわたしにとって、それは一方的に見つめるだけの存在でした。その頃に撮った写真には、ちょうど片想いの彼女にカメラを向けているようなきらきらした感じが写り込んでいます。

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流氷(海氷)は海の水が凍ったものです。
海水が冷やされてマイナス1.8度くらいになると、海中でちいさな氷の結晶ができます。それは海面にオイルを流したように広がり、波のある海では蓮の葉状に固まりながら成長していきます。

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オホーツク海の海氷は夏にはとけてなくなります。だから、すべての氷は今年の冬にうまれたものです。北海道沿岸で見られる海氷は、海流と北風に乗って遠くは樺太北部から流れてきたものと、すぐ近くで生まれたものが混ざり合っています。

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海氷は互いにぶつかって重なり合います。荒れた状況を経験してきたものほど厚くなり、北海道の近くでも10メートルを超える厚さのものが見られます。自然にできたとは思えないような、高く積み上げられた海氷を目にすることもあります。

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まるで白い陸地のようなしっかりした海氷も、その動きは見かけよりも身軽です。一日に数十キロを移動し、岸まで埋め尽くしていた海氷が一夜のうちに遠く沖まで離れてしまうこともあります。

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紋別で開催されるはずだったシンポジウムに、今朝からオンラインで参加しています。発達した低気圧の影響で紋別は猛吹雪だそうです。オホーツク海上にも強い風が吹き付けていることでしょう。

大荒れの海、唸る怒涛の中で文字通り躍り狂っているであろう海氷。今まさに起こっているその光景を想像するだけでどきどきします。

わたしは海氷が好きなのです。

見出し以外の写真は1996年から2000年にかけてのものです。カメラはキヤノン new F-1とハッセルブラッド SWC, 500C。今でも大切にしている長い付き合いのカメラたちです。
こうして一枚一枚の写真を見返すと、シャッターを押す瞬間の光、空気の冷たさ、気持ちの高鳴りをはっきりと思い出すことができます。フィルムの時代には今よりも一回一回のシャッターを大切にしていました。シャッターを押すことは少しの覚悟を持った被写体への愛情表現だったのです。

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