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違和感の写真:déjà vu と jamais vu

déjà vu は聞いたことがあるけど、 jamais vuって何?

「déjà vu(デジャヴ)」は既視感、はじめて見るものを以前に見たことがあるように感じることです。それに対して、「jamais vu(ジャメヴ)」は未視感、見慣れたものをはじめて見たように感じることだそうです。

だとすれば、それは写真を撮る人にとって馴染み深い感覚です。おそらくスナップ写真を撮る人の多くが「jamais vuな瞬間」に反応しようとカメラを手にしているのではないでしょうか。

聞き慣れないこの言葉を意識するようになったのにはきっかけがあります。トモコスガさんが、新しく始められたサイトの中の企画で「jamais vuな瞬間」の写真を公募してキュレーションページを作られたのです。集まった写真の素晴らしさとトモさんの構成力が相まって、見応えのあるページになっています(一見の価値ありです)。

わたしの写真もその中に含まれています。いざ「jamais vuな瞬間」の写真を選ぶ時には、かなり悩みました。1枚の写真は「déjà vuな瞬間」にも「jamais vuな瞬間」にも見えてしまうからです。

「déjà vu(既視感) な瞬間」と「 jamais vu(未視感)な瞬間」。その違いはどこにあるのでしょうか。

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・撮影者にとってのdéjà vu と jamais vu

日々の生活の中の光景について考えてみましょう。目にするもののほとんどすべては「見慣れたもの」です。一方で、実際にはそこにある物も光も常に変化しています。以前と同じ光景はひとつもありません。

つまり、日常生活の中で目にするものは「見慣れたもの」であると同時に「はじめて見るもの」でもあるのです。それは「déjà vuな光景」にも「jamais vuな光景」にもなります。「déjà vu」と「jamais vu」を分けるのは、目の前の光景そのものではありません。そこに何を感じたかです。

「déjà vu」と「 jamais vu」の実体はどちらも「違和感」です。

その違和感を生み出すのが「これまでに別の場所で経験した何か=過去にあったこと」であれば「déjà vu 」であり、「これまでの経験の欠落=過去に認識できなかったこと」であれば「 jamais vu」になります。

どちらの感覚も不意に降ってきます。意識の入り口の段階では両者は似たものですので、違和感の正体が「déjà vu」なのか「 jamais vu」なのか(あるいはそれ以外のものなのか)区別できないことも少なくありません。

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・鑑賞者にとってのdéjà vu と jamais vu

ここでもう一度、トモさんの編集された「jamais vuな瞬間」のページを見返してみましょう。ただし、こんどは「jamais vuな瞬間」ではなく「déjà vu な瞬間」だと思いながら。

見え方が変わりませんか?

「jamais vuな瞬間」として見ていた時、それぞれの写真は「あらたな発見の記録」であり、そこに写ったものが全てでした。ですから、純粋にその画像自体を見ようとしました。

「déjà vu な瞬間」として見た時はどうでしょう。その場合、写されたものの背後に過去の経験があることになります。それを見る時、撮影者の過去に想いを馳せ、写真の裏側にある物語を読み解いて意味を見出そうとします。

このように、見る人にとって1枚の写真は「déjà vu な瞬間」と「jamais vuな瞬間」のどちらにもなり得ます。与えられる言葉によって写真の持つ意味が変わってしまうのです。

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・「世界を広げる写真」と「世界を深める写真」

一方で、『どう言われてもこれは「jamais vuな瞬間」だ!』と感じる写真があることにも気づくのではないでしょうか。それは、多くの人にとっての『「共通の欠落」によってもたらされた「違和感」』を写し取った写真です。そして、そんな「共通の欠落を具現化したような写真」が与えてくれるのが「あたらしい認識」です。この働きこそ、まさに「写真の真髄」と言えるかもしれません。

だからと言って、『「déjà vuな瞬間」か「 jamais vuな瞬間」か区別できない写真』が『まごうことなき「jamais vuな瞬間」の写真』に劣っているとは思いません。それは『「déjà vu」にも「 jamais vu」にもなれる写真』なのです。「déjà vuな瞬間」が背負った物語と「 jamais vuな瞬間」が見せるあたらしさの間を行き来できるそんな写真には「世界への理解を深める力」があると信じています。

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「 jamais vu」って何?という疑問から考えはじめたことをとりあえず文章にしてみたのですが、正直なところ「déjà vu」と「 jamais vu」の違いやその間にあるものについてまだ整理できていません。むしろ、ここで言葉にしたことのすべてが自分への問題提起に思えます。これからも「jamais vuな瞬間」が持つ力について考えていくことになりそうです。

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