黄たまご

ここにいるだけで

「おとーさん」
「はあい」
「おとうさーん」
「なあに」

毎日のように繰り返されるやりとり。僕と2歳の娘はそんなふうにして使い道のない合言葉を何百もこしらえる。

「おとーさん」
「はあい」
「おとうさーん」
「なあに」

何かごよう? と聞いてみたって、「呼んでみたの」と娘はけろりと答えるだけ。

「おとーさん」
「はあい」
「おとうさーん」
「なあに」

この子のためにできること全部してあげたいと思う。この願い、叶えさせてよって心のピアノで和音を鳴らす。娘はニヤニヤ笑って舌をぺろり。僕は満ち足りた気分で途方に暮れる。娘の望みはたった一つ。いつもたったの一つだけ。

「おとーさん」
「はあい」
「おとうさーん」
「なあに」

ここにいるだけで、僕は娘の望みを叶えてしまってる。

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