眠い雲
このままずっと夏のまま世界が暮れていきそうな昼下がりだった。
3歳の娘が目をこすって昼寝から起きてくる。
ふわあとあくび。
娘は窓から顔を出して、晴れ上がった空を見つめた。
「おとうさん、雲さんには誰がお布団をかけてあげるの?」
昼寝から覚めて最初に見たものが雲だったから。雲が自分と同じように昼寝をし、「ほらほら、お腹冷えちゃう」って布団をかけてもらえると信じているから。それだけの理由で、どんなことでもお父さんは知っていると思えるだけの無邪気さで、娘は僕に小さな謎解きを仕掛けてくる。
「ねえねえ、枕はあるの?」
「そうだなあ」
と、僕は大げさに腕組みしてあげる。
誰が布団かけるのか知りたいよね。だって、雲はあんなにも幸せそうだから。
僕は窓の外を指した。
「みんなでお布団なんだよ」
雲が雲であること。
それだけで持ち得る柔らかさやぬくもり。
そんなものを重ね合って、雲は青空の中で眠くなっている。
この世から消えてしまうその日まで、世界に抱きしめられて。
僕は娘の名前を呼んだ。
台所の蛇口をひねって水をコップにためた。
差し出しても、この子はまだ眠い。
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