黄たまご

コンビニの2階

夜に、
街中から少し離れた公園の脇で、
漏れ出る光がきれいなコンビニがあったなら、そこに誰がいて欲しいだろう。

家出少年。
それとも、ネクタイを緩めたサラリーマン。
ひょっとしたら、無心にメールを打つおばあさんだろうか。

ちょうどいま自動ドアを抜け出てきたのは、バイト上がりのコンビニ店員さん。
大学生と女子高生のちょうどあいだくらいの感じで、疲れてるけれどあいかわらずの笑顔は1ミリも目減りしていない。

スニーカーを快適に鳴らして遠ざかっていく彼女を見ながら、ふと思った。
「コンビニに2階があればいいのに」

そこには1階では買えないものばかり並んでて(つまりはいますぐ生活に必要じゃないものだけが)売られてる。

1階に飽きた人は、ひっそりと階段を上がって2階へ。
三世代に渡って使えるおしゃぶりやら、自動演奏機能付きの木魚(モバイル仕様)やら、キノコの形をしたプチトマトなんかが並ぶ陳列棚をぼんやり見つめて人はこう思うのかもしれない。

「モノは幸せに気づかせてはくれるけれど、幸せは与えてくれない」

コンビニの2階はそのことを思い出すためにあって、レジにはさっきの彼女がたたずんでいる。
ドリアンのスムージーとかジビエの唐揚げとかを調理しながら振り返ってくれるんだろう。あの笑顔で。

僕はつかつかとレジまで行って、空っぽのかごをドンと置く。コンビニの2階でなら、こんなふうに声をかけられるのかもしれなかった。

「今日もおつかれさま。あなたの笑顔に救われている人は大勢いるよ。知らなかったでしょう」

コンビニの2階から世界を見渡したなら、僕らは何を目にするだろう。

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